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ものづくり・製造

歩留まり——良品率の掛け算が利益と壊滅を分ける

2026/6/26 (更新: 2026/8/8) シリーズ「製造業の世界観・素人が聞けない原理」 第1回 / 全3回

「すごい部品」の話は、たいてい性能の話になる。ここでは別の数字の話をする。作ったもののうち、何個が“ちゃんと売れる良品”か。 製造業では、これを「歩留まり(ぶどまり)」と呼ぶ。

性能でも、設計でも、コストでもない。歩留まりこそ、製造業の心臓だ——なぜなら、ここが崩れると、他のすべてが無意味になるからだ。

良品率が下がると、コストは跳ね上がる

100個作って、70個が良品(歩留まり70%)なら、捨てる30個ぶんの材料も手間も、売れる70個が肩代わりする。良品1個の“本当のコスト”は、見かけより高い。 歩留まりが10%まで落ちれば、良品1個に10個ぶんのコストがのしかかる。同じ工場・同じ設計でも、歩留まりだけで利益が黒にも赤にもなる。半導体の工場(ファブ)が、新しい製品の立ち上げで何より「歩留まりの改善(歩留まりランプ)」に必死になるのは、このためだ。Weber(2004)は半導体製造の収益性を数値モデルで分解し、「速い歩留まり学習率が、他のどの要因よりも収益性を決める」と結論している1。しかも同じモデルでは、早期のランプ立ち上げ・ファブ容量の追加・最終欠陥密度の低減・ダイ縮小といった他の手立ては、いずれも逓減する効果しか持たない。効くのは立ち上げの早さそのものより、学習の速さのほうだという整理だ。

本当に残酷なのは、「掛け算」だ

ここからが、素人がなかなか聞けない核心だ。 ものづくりは、たくさんの工程の積み重ねでできている。半導体なら、先端ロジックの製造手順は1000を超える工程に達することもある2

問題は、全体の歩留まりが、各工程の良品率の“掛け算”になることだ。 各工程が「99%良品」なら優秀に聞こえる。だが——

⚠ 概念図:実データではない 全体の歩留まり =(1工程の良品率)の工程数乗 100%0 工程数 →(0 〜 500) 99.9% → 約61% 99% → 約0.7% 95% → ほぼ0 (500工程のとき。1工程の差が、全体を決める)
各工程が99%良品でも、500工程を積めば全体はわずか約0.7%。99.9%なら約61%。1工程あたりのほんの差が、全体を天と地に分ける。

500工程のとき、全体の歩留まりは——

「99%」と「99.9%」——たった0.9ポイントの差が、全体では61% と 0.7%、つまり利益と壊滅を分ける。ただし、この掛け算の数字は各工程の不良が互いに独立に、少しずつ起きることを前提にしている——実際の半導体製造では、ある工程・装置が規格から外れる「エクスカーション」は最終検査まで見つからないことがあり、その間に同じ工程を通過した多数のウェハがまとめて不良になることが報告されている。つまり不良は各ウェハに独立に薄く降りかかるのではなく、ある期間だけ集中して起きうる——単純な掛け算より歩留まりが急に崩れる場面もある3。 だから一流の製造現場は、各工程の良品率を極限まで上げにいく。500工程で全体95%を保つには、1工程あたり99.99%が必要になる計算だ。トヨタが「不良が出たら即ラインを止める(自働化)」のも4、村田が砂粒のようなMLCCを月1,500億個超(年換算で1.8兆個規模)供給していると報じられるのも5、すべて、この掛け算が容赦しないことを知っているからだ。

歩留まりが、世界一を決める

掛け算に勝つには、各工程の良品率を0.1ポイントでも上げ続けるしかない。一発の発明ではなく、0.1ポイントの地道な積み上げ——その積み重ねが、500工程を積んだときの61%と0.7%、つまり利益と壊滅を分ける。ただし、この積み上げのやり方は選べる。Unal & Dean(1991)はタグチメソッドの解説で、ばらつきの影響が大きい要素の公差を狭める「公差設計」に頼れば、より高精度で高価な部品・工程が必要になり生産・運用コストが増えると指摘する(この因果自体は同論文が Phadke (1989) に帰属させている)。だが同論文の主眼はその先にある——上流の「パラメータ設計」で条件を最適化すれば公差はむしろ広げられ、低コストの部品と生産工程が使えるようになり、製造・運用コストを大幅に下げられる。米欧の技術者が公差設計に偏っているために「コストを下げながら品質を上げる機会が失われている」というのが、この論文の批判だ6

性能でも、設計でも、コストでもなく、この掛け算との戦いこそが、製造業の心臓だ。歩留まりの改善が、静かに世界一を決めている。


出典6件
  1. C. Weber, “Yield Learning and the Sources of Profitability in Semiconductor Manufacturing and Process Development,” IEEE Transactions on Semiconductor Manufacturing 17(4), 590–596 (2004)。要旨の逐語は a rapid yield-learning rate determines profitability more than any other factor does および Factors such as ramping-up early, adding fab capacity, depressing the terminal fault density, and shrinking die size all yield diminishing returns——早期ランプは主効果ではなく逓減側に分類されている本文には到達できていない(IEEE Xplore は 202、Unpaywall・Semantic Scholar・OpenAlex とも closed、会議版2本 ASMC 2002 / PICMET 2003 も同様に closed)。書誌そのものは Crossref で確認済み(IEEE TSM 17(4), 590–596, 2004-11)。https://doi.org/10.1109/TSM.2004.835724

  2. 工程数——米議会調査局(CRS)報告書 Semiconductors and the Semiconductor Industry(R47508, 2023-04-19)は、製造手順が「先端ロジックの設計を作るには1,000を超える工程を要しうる」と記す。 https://www.congress.gov/crs-product/R47508 / 工程の全体像は Wikipedia「Semiconductor device fabrication」(ただし同記事の記述は「300を超える工程」で、1,000超は先端ロジックの水準である)。 https://en.wikipedia.org/wiki/Semiconductor_device_fabrication / 全体歩留まり=各工程良品率の積、という掛け算は初等的な確率計算(例:0.99の500乗≈0.0066、0.999の500乗≈0.606)。本文の500工程・99%等は説明のための代表例であり、実測値ではない。

  3. R. C. Leachman & S. Ding, “Excursion Yield Loss and Cycle Time Reduction in Semiconductor Manufacturing,” IEEE Transactions on Automation Science and Engineering 8, 112–117 (2011)。工程・装置が規格から外れる「エクスカーション」は最終検査(プロービング)まで発見されないことがあり、製造の周期時間が長いほど、その間に同じ工程を通過した多数のウェハがまとめて不良になりうると報告する。ただし同要旨は上限も画している——逐語 While some and perhaps most excursions are detected by in-line inspections(一部、おそらくは大半のエクスカーションはインライン検査で検出される)。また同論文の主題は掛け算モデルの反証ではない。要旨が掲げる目的は to quantify the revenue losses due to excursions not detected until end-of-line testing as a function of manufacturing cycle time=周期時間短縮による収益改善の定量化である。1つの工程の異常が特定期間のウェハをまとめて巻き込む形は「各工程が独立に少しずつ不良を出す」という単純な掛け算モデルの限界にあたる、という読み方は本稿のものhttps://doi.org/10.1109/TASE.2010.2041450

  4. T. Ohno, Toyota Production System: Beyond Large-Scale Production, Productivity Press, Cambridge, MA (1988)。異常が起きたら機械・ラインを自動的に止め、良品でないものを後工程へ流さない「自働化(jidoka)」の原則を、トヨタ生産方式の二本柱の一つとして提示。本稿が照合できたのは書誌(著者・書名・出版社・年・ISBN 0915299143)までで、本文には到達していない(archive.org は貸出制限)。当該記述の頁は特定していない——本稿の「不良が出たら即ラインを止める」という記述の裏づけ。 https://archive.org/details/toyotaproduction0000onot

  5. 村田製作所はMLCC(積層セラミックコンデンサ)の世界最大手で、シェアは40%超(逐語 Murata is the world's largest producer of multi-layer ceramic chips (MLCCs) with over 40% market share)、生産規模は月1,500億個超と報じられており(同 The company cranks out over 150 billion MLCC pieces per-month)、年換算すると1.8兆個規模になる——これは本稿が12倍した値で、出典が書いているのは月産数のみであるMacro Ops, 2020年10月21日)。車載向けでは、高耐圧品に限って世界シェア約5割とされる(逐語 Murata holds a roughly 50% global market share in MLCCs with high voltage tolerance for automotive applicationsPassive Components Blog, 2024)——全体シェアではない。世界総量との比は本稿では取らない。 同じ Macro Ops 記事は世界の年産を1兆個としており(Manufacturers crank out 1 Trillion of these microscopic devices every year)、これは村田単体の1.8兆個と両立しない。より新しい世界総量については、本サイトが別稿で調べた範囲でも出所をたどれる公開統計が見つからず、確認できる下限を記すに留めている。桁違いの数量を高い良品率で供給し続けられること自体が、本文の歩留まり論を裏づける。

  6. R. Unal & E. B. Dean, “Taguchi Approach to Design Optimization for Quality and Cost: An Overview,” Presented at the 1991 Annual Conference of the International Society of Parametric Analysts (NASA)。ばらつきへの影響が大きい要素ほど公差を狭める必要があり、それを満たすにはより高精度で高価な部品・工程が要るため生産・運用コストが増えると指摘——本稿の「0.1ポイントの地道な積み上げ」が無償ではないという記述の裏づけ。ただしこの一文は同論文の結論ではなく問題設定である。直前に the optimum choice of parameters can result in wider tolerances so that low cost components and production processes can be used. Thus, manufacturing and operations costs can also be greatly reduced.、直後に the opportunity to improve quality while decreasing cost is missed. Relying on tolerance design makes products more expensive to produce and operate とあり、主張は「公差設計に頼るな、パラメータ設計を使え」である。なお同論文が扱うのは設計上の公差であり、工程歩留まり全般のコストを測ったものではない。 https://ntrs.nasa.gov/citations/20040121019

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