ものづくり・製造
ソニーのイメージセンサ——光を数える半導体で世界の約半分
ものづくりの世界には、主役の陰で全体を支える「見えない名脇役」——たとえば電気をならす村田のMLCCのような部品——がいる。今回はもっと主役に近い、でもやはり目立たない部品。カメラの「目」そのものだ。
あなたのスマホで写真を撮るとき、レンズが集めた光を受け止めて電気信号に変えている小さな半導体がある。イメージセンサという。 そして世界のイメージセンサの4割台半ば〜5割強(売上ベース)、さらにスマホ向けに限れば5割超が、ソニー製だ1——独立系の集計とソニー自身の公表値では、数字が8ポイントほど違う。 とりわけiPhoneのカメラセンサはソニー製だ——アップルのティム・クックCEOは2022年12月、「10年以上にわたってソニーのイメージセンサを使ってきた」と述べている2。クックが言ったのは採用の長さであって独占供給ではないが、事実上ソニーへの依存が続いてきたことは、2025年の報道でも「exclusive reliance on Sony」と表現されている2。
イメージセンサは「光を数える」装置
中身は、ものすごく小さな光センサ(画素)を、数千万個ぎっしり並べたものだ。
ひとつの画素は「フォトダイオード」という素子で、やっていることは単純。 光(光子)が当たると電子がはじき出され、当たった光の量に比例して電気が溜まる。その電気を数値に変換すれば、「この点はどれくらい明るかったか」が分かる。 これを数千万点ぶん一斉にやれば、一枚の画像になる。つまりカメラのセンサとは、何千万個の“光の計量カップ”が並んだ盤なのだ。
問題は、画素を小さくするほど、そこに届く光が減って暗く・ノイジーになること。 この戦いの歴史が、そのままソニーの技術の歴史になっている。
ソニーの一手:「窓の前の配線」をどかす(裏面照射)
画素には、信号を運ぶ金属配線が必要だ。昔の作り方(表面照射)では、その配線が光の入り口の“前”に置かれていた。せっかくの光の一部が、配線にさえぎられて画素に届かない。
そこでソニーがやったのは、文字どおりチップを裏返すこと。 配線を画素の裏側に回し、光がフォトダイオードに直接当たるようにした。これが「裏面照射(BSI)」だ。同じ光でも、ずっと多くを拾えるようになった(同じ画素サイズの表面照射品と比べ、ソニーの測定でほぼ2倍の感度)。2009年に製品化された3。
その先も、ソニーは積み重ねた。
- 積層型(2012年):画素の層の“下”に、信号処理の回路チップを重ねて貼り合わせる。小さくしながら、賢くできる4。
- 2層トランジスタ画素(2021年発表):これまで画素の中で横並びだった部品を上下2階建てにして、一画素でより多くの光を扱えるようにした(飽和信号量がおよそ2倍)5。
「これ以上小さく」の壁——だから“賢さ”へ
画素はどんどん小さくなり、業界最小級では1辺が約0.56マイクロメートルに達している——ただしこの記録を2022年に発表したのはソニーではなく、競合のOmniVisionだ6。最小画素の一番手は、ソニーではない。 0.56マイクロメートル=560ナノメートルは、可視光の波長そのものと同じ桁だ。ただし「波長より小さい画素は作れない」わけではない——OmniVisionは同じ発表で「画素の微細化はもはや光の波長には制限されない」と述べ、0.61µm品と同等の量子効率を実証したと主張している(同社の自己申告)6。壁は物理の禁止ではなく、微細化を続けても割に合うかという採算と設計の壁だ。
だから競争の軸は、「小さく」だけでなく「賢く」へ広がる。何枚も重ねて回路を載せ、画素同士を束ね(ビニング)、計算で暗所やダイナミックレンジを稼ぐ。半導体の微細加工とアナログ回路の設計と光学が、一体で要求される——ここがソニーの堀(モート)だ。
なぜ簡単に真似できないのか
ソニーは、設計から製造までを自社で抱える垂直統合(IDM)で、2021年からの3年間に半導体分野へ約9300億円を投じたと自社で公表している7。長崎・熊本などに巨大な工場を構える7。 裏面照射・積層・サブ波長画素といった工程は、深い溝で画素を隔てるなどナノの作り込みの塊で、新型センサ一つの開発に数年と巨額の費用がかかる。化学(材料)×微細加工×アナログ設計×光学が不可分に絡む——MLCCと同じ構図だ。「ものづくりの強さ」とは、この絡まりを束ねて歩留まり良く量産できること、に尽きる。
ただし、イメージセンサ事業はスマホ市場への依存が大きく(Yoleによれば市場の6割超がスマートフォン向け)、波がある。ソニーは2025年に世界シェア6割を達成するとしていたが、2025年6月、その達成時期を先送りした8。サムスンが高画素で激しく追い、アップルがサムスンをセカンドソースにするとの報道もある2。中国勢も低価格帯で伸びている。世界一は、ここでも固定された地位ではない。
出典8件
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iPhoneセンサのソニー供給:ティム・クックは2022年12月に「10年以上にわたってソニーのイメージセンサを使ってきた」と述べた(DPReview)。述べたのは採用期間であって独占供給ではない。アップルがサムスンをセカンドソースにするとの報道はFinancial Times発(2025年8月)で、テキサスの工場で次世代センサを製造する計画とされ、同報道は現状を「exclusive reliance on Sony」からの転換と位置づけている(いずれも計画段階)。 https://www.dpreview.com/news/3849832154/apple-s-tim-cook-confirms-it-s-been-using-sony-sensors-in-its-iphones-for-over-a-decade / https://www.macrumors.com/2025/08/07/apple-to-switch-to-us-made-iphone-sensors/ ↩ ↩2 ↩3
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裏面照射(Exmor R):ソニーは2008年6月11日に裏面照射型CMOSイメージセンサの開発を発表し、「同じ画素サイズ(1.75µm角)の表面照射品と比べてほぼ2倍の感度(+6dB)、ノイズ−2dB、S/N +8dB」としている(ソニー自身の測定値)。民生向け”Exmor R”の製品化は2009年。なお「世界初の量産BSI」とは断定できない——ソニーの当該リリースに “world’s first” の記載は無く、OmniVisionは2008年9月にBSI採用のOV8810を発表している。 https://web.archive.org/web/2015/http://www.sony.net/SonyInfo/News/Press/200806/08-069E/index.html ↩
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積層型CMOS(Exmor RS):2012年8月、世界初の積層型として発表、同年10月出荷(Sony/phys.org)。 https://phys.org/news/2012-08-sony-exmor-rs-world-stacked.html ↩
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2層トランジスタ画素:2021年12月発表、IEEE IEDM 2021、飽和信号量およそ2倍(Sony Semiconductor Solutions ニュースリリース)。 https://www.sony-semicon.com/en/news/2021/2021121601.html ↩
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最小画素ピッチ約0.56µm:OmniVisionのプレスリリース(2022年2月15日)。同社は「世界最小の0.56µm画素」と発表し、副題で「画素の微細化は光の波長に制限されないことを実証した」とし、0.61µm画素と同等のQPD/QE性能を主張している(いずれも同社の自己申告)。同リリースは0.56µm画素を2022年第2四半期に200MPセンサへ実装予定とも述べる。 https://www.ovt.com/press-releases/omnivision-leads-pixel-shrink-race-with-the-development-of-worlds-smallest-0-56-micron-pixel/ ↩ ↩2
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投資額:ソニーセミコンダクタソリューションズは自社サイトで「2021年からの3年間の設備投資額は約9300億円」としている(同グループ全体の設備投資額であり、イメージセンサ限定ではない。同社の自己申告)。Japan Todayは2023年時点で「2023年度までの3年間に同分野へ約9000億円の設備投資を計画」と報じており、当時は計画値だった。IDM=垂直統合。 https://www.sony-semicon.com/en/company/group/index.html / https://japantoday.com/category/tech/sony-to-build-new-image-sensor-factory-in-kumamoto-in-chip-push ↩ ↩2
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スマホ依存:Yole Groupの2025年版CIS報告は「スマートフォンがCISの世界市場の6割超を占め続けている」とする(optics.org経由)。シェア6割目標:DigiTimes(2025年6月16日)は、ソニーが「2025年に売上シェア60%」という目標の達成時期を先送りしたと報じた(見出し “Sony delays image sensor market share target”、リード “has pushed back its target … originally set for 2025”。目標値そのものの引き下げには言及していない。本文は有料で、無料で読めるリード文までを確認)。 https://optics.org/news/16/7/48 / https://www.digitimes.com/news/a20250616PD225/sony-sensor-competition-2025.html ↩
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