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ものづくり・製造

MLCC——スマホに約千個入る部品で村田製作所が世界一

2026/6/21 (更新: 2026/8/5) シリーズ「世界トップのものづくりを解剖する」 第1回 / 全3回

最新のハイエンドのスマートフォンには、あなたが名前も知らない部品が、約1000個入っている1。 ひとつは砂粒より小さい。なのに、それが足りないとスマホもパソコンも車も動かない。

その部品の名前は MLCC(積層セラミックコンデンサ)。 そして、この地味な“名脇役”を作る世界一の会社は、京都の 村田製作所だ——同社は自社サイトで世界シェア40%(車載は50%)としている2

なぜ、こんな小さな部品が「世界一」を競うほど難しいのか。それを覗くと、「ものづくり」という言葉の本当の意味が見えてくる。

まず、コンデンサって何をするもの?

コンデンサを乱暴にたとえると、電気をちょっとだけ貯められる、小さな水タンクだ。 電気の流れは、実際にはガタガタ波打っている。そのままでは繊細な電子回路が誤動作する。 そこでコンデンサが、多いときに少し吸い込み、足りないときに少し吐き出して、流れをなめらかにする

スマホには電源や信号の経路が無数にあり、そのあちこちに“ならし役”が要る。だから1台に1000個も入る。レベル2+の自動運転機能を積んだ高級EVでは1万個以上、標準的な車でも3000〜5000個だ1。現代の電子機器は、この見えない名脇役の大群に支えられている。

※ 概念図(フロー) MLCCの中身(断面のイメージ) 青と橙の電極が交互に重なり、間はセラミック セラミック1層 ≈ 0.8マイクロメートル =髪の毛の約1/100 層は数百枚、 全体は砂粒サイズ
セラミック(誘電体)と金属電極を交互に何百層も積み、砂粒サイズに収める。重なりが多いほど、たくさん電気を貯められる。

なぜ「世界一」を競うほど難しいのか

MLCCの性能は、ざっくり言えば「薄いセラミック層を、いかに何枚も、欠陥なく積めるか」で決まる。重なりが多いほど、小さなまま容量を稼げるからだ。

ここに、気が遠くなるような難しさが詰まっている。

そして核心は材料にある。MLCCの心臓は、チタン酸バリウムという、粒径をナノメートル級まで微細化したセラミックの超微粒子だ。先端品では50ナノメートルを切る粒子が使われる(村田が2025年に投入した0201サイズ0.22µF品)7。 この粉をどれだけ細かく・均一に作れるかが、層の薄さと品質を決める。焼き固める(焼結)ときに割れず・縮みすぎず・電極がショートしないよう、粉のレシピと焼成の工程を“擦り合わせる”ノウハウ——これこそが、数十年かけて積み上げた、簡単には真似できない強みだ8

これが「ものづくり」の正体だ。 すごい設計図があれば作れる、のではない。ナノの粉を作る化学と、何百層を歪みなく焼き上げる工程が、不可分に絡み合っている。村田は原料のチタン酸バリウムの調達にも、合弁を通じて足がかりを持っている8。「材料」と「工程」が一体になった摺り合わせの塊——それが世界一の堀(モート)になる。

どう役に立つ・なぜ面白いのか

MLCCは、現代エレクトロニクスの“隠れた急所”だ。スマホを薄く、EVを賢くするほど、より小さく・より多くのMLCCが要る。だから2021年のコロナ禍でも、いま進行中のAIサーバー需要でも、MLCC不足が世界のものづくりを揺らしてきた9

CPUやGPUといった大型チップを動かすにも、その足元では少数の部品メーカーに供給が強く偏っている。これは、技術の世界の力学を考えるうえでとても示唆的だ。

正直な補足も置いておく。MLCC市場は好不況の波が大きい寡占市場で、村田・サムスン電機・太陽誘電・TDK・京セラAVXの上位5社が売上の約3分の2を占める(2024年のメーカー別集計)10。中国メーカーも低価格帯で台頭しつつあり(シェア1割程度)、日本勢は車載・AI向けの高難度品へ軸足を移している10。世界一は、固定された地位ではなく、薄さと歩留まりの絶え間ない競争の上にある。


出典

  1. スマホに約1000個、現代の高級EVでは1万個以上:村田製作所「Automotive MLCC」記事(一次情報で「最新ハイエンド機で1,000個」「Lv2+自動運転の高級BEVで10,000個超」と明記)。 https://article.murata.com/en-global/article/automotive-mlcc-1 2

  2. 「シェア40%(車載50%)」は村田製作所の自社開示(同社サイト「Capacitors」。時点の表記はない)。 https://corporate.murata.com/en-us/company/business/capacitor  第三者集計では数値が下がり、Mordor Intelligence は2024年のメーカー別売上で村田を31.8%とする。金額ベースか数量ベースか、対象セグメントで幅が出る。 https://www.mordorintelligence.com/industry-reports/multi-layer-ceramic-capacitor-mlcc-market

  3. 「髪の毛(約80µm)の1/100」:村田製作所「MLCC for 5G smartphone」(自社が「髪の毛の約1/100の厚さ」と明記)。なお同ページは日付表記を持たず、記述は「新開発品」に限定されている。より薄い層への進行について、eeNews Europe(2026年5月19日)は大手が0.3µm未満の層の生産を拡大していると報じる。Wikipedia “Ceramic capacitor” は誘電体の最小厚を1995年4µm→2005年1µm→2010年約0.5µmと記す。 https://article.murata.com/en-global/article/mlcc-for-5g-smartphone-2

  4. 数百層:村田製作所「MLCC for 5G smartphone」(「現代のMLCCでは層数は数百に達しうる」)。 https://article.murata.com/en-global/article/mlcc-for-5g-smartphone-2  800層は Mordor Intelligence(村田が2025年7月に投入した47µF/4V/0402品を「0.6µm厚の誘電体800層」と記載)。調査会社の記述で、村田の一次発表では確認していない。 https://www.mordorintelligence.com/industry-reports/multi-layer-ceramic-capacitor-mlcc-market

  5. 世界最小006003(0.16×0.08mm):村田製作所プレスリリース(2024年9月19日、自社News)。0.25×0.125mm(008004)は2014年の節目で現在の最小ではない。 https://www.murata.com/news/capacitor/ceramiccapacitor/2024/0919

  6. 年1兆個以上:Wikipedia “Ceramic capacitor”(「2012年時点で年10¹²個超」と記載)。より新しい年間出荷数については、出所をたどれる公開統計を見つけられなかったため、確認できる下限として記した。 https://en.wikipedia.org/wiki/Ceramic_capacitor

  7. 先端品のチタン酸バリウム粒径50nm未満:Mordor Intelligence(村田が2025年に投入した0201サイズ0.22µF/6.3V品として記載)。調査会社の記述であり、村田の一次発表では確認していない。 https://www.mordorintelligence.com/industry-reports/multi-layer-ceramic-capacitor-mlcc-market

  8. チタン酸バリウム微粒子・焼結の難しさ・原料統合:村田は2023年3月、チタン酸バリウム生産の合弁(MF material)設立を決議したと発表した——ただし出資比率は村田35%・富士チタン工業55%・石原産業10%で、村田は少数株主である(passive-components.eu/村田コーポレートニュース)。モートの解釈は分析であり断定ではない。 https://passive-components.eu/murata-establishes-joint-venture-company-to-produce-mlcc-raw-materials/ 2

  9. MLCC不足:eeNews Europe(2026年5月19日)は、大手がAIサーバー向けに生産を振り向けた結果として高容量MLCCが逼迫していると報じ、「2021年のコロナ禍の供給危機を思わせる」としている(同記事に2018年への言及はない)。 https://www.eenewseurope.com/en/ai-drives-mlcc-shortage/

  10. 上位5社で「売上のほぼ3分の2」(2024年メーカー別集計):Mordor Intelligence。同社が挙げる5社は村田・サムスン電機・太陽誘電・TDK・京セラAVX。なお同レポートのヤゲオ25%は汎用品の生産能力であってシェアではない。 https://www.mordorintelligence.com/industry-reports/multi-layer-ceramic-capacitor-mlcc-market /中国勢が2024年下期に売上シェア10%:passive-components.eu。 https://passive-components.eu/chinas-mlcc-makers-reach-10-market-share/ 2

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