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Databricks Genieとは?自然言語の質問をSQLにして答える仕組み

2026/10/12 シリーズ「Databricks 入門」 第9回 / 全9回

  • Genie
  • Databricks
  • Genie エージェント
  • Genie スペース
  • 自然言語
  • SQL ウェアハウス
  • Unity Catalog
  • ナレッジストア
  • ベンチマーク
  • Genie One
  • Genie Code
  • AI Search
  • Agent Bricks
  • MLflow
  • メトリクスビュー
  • 行フィルター
  • トレーシング
  • Supervisor Agent
  • 料金
  • エージェントモード
  • ガバナンス
目次
背景・問い・要点
背景

表に入ったデータから答えを得るには、ふつうは SQL を書くか、誰かが作ったダッシュボードを見る。SQL を書けない人が新しい問いを持つと、データチームに頼んで待つことになる。

Databricks の Genie は、この間を埋めるための利用者向けの AI の機能群で、その中心は、自然言語で尋ねた質問を SQL にして、Unity Catalog に登録された表から答える仕組みである12。2026 年に名前が何度か変わり、今は、業務の利用者向けの Genie One、データチームが質問の範囲と定義を整える Genie エージェント(Genie Agents、2026 年 7 月までの名前は Genie スペース)、開発者向けの Genie Code の三つからなる13。

本稿は、店ごとの売上を Genie エージェントに尋ねる例を取り、質問がどう SQL になり、誰の権限で表を読み、業務の定義をどう与え、答えの正しさをどう確かめるかを、Databricks の文書に沿って順に見ていく。表の外の文書への質問は、Genie エージェントのエージェントモードが扱う。Agent Bricks は開発者向けのエージェントの開発基盤で、MLflow はエージェントの各段の動きを記録して評価する。最後に、正しさの測り方や費用など、まだ決着していない問いをまとめる。

問い

Genie は、自然言語の質問をどのように SQL にして答えるのか。その答えは、誰の権限で作られ、どこまで信頼できるのか。

要点

Databricks の Genie は、データチームが用意した表と業務の定義の範囲で、自然言語の質問を SQL にして答える仕組みで、正しさはその準備に左右され、利害の無い第三者の測定は小さな試験にとどまる。 Genie エージェントが作った SQL は、作者の資格情報で SQL ウェアハウスで動くが、データを読む権限は質問した利用者自身の ID で確かめられる。業務の定義を与えていない Genie は、もっともらしいが誤った SQL を作ることがあり、Databricks は、文章の指示より、SQL 式と検証済みのサンプル SQL で定義を与えるよう勧めている。正しさは、作者が答えの SQL を付けて作るベンチマークで確かめる。表の外の文書への質問はエージェントモードが扱い、コードを書く開発者には Agent Bricks がある。エージェントの各段の動きは MLflow のトレーシングで記録する。

モデル・例示

店ごとの先月の売上を Genie に尋ねる

※ この節の数値は説明のための仮定で、測定値ではありません。

オンラインと実店舗で商品を売る会社が、注文を毎晩処理し、次の二つの表を Unity Catalog に置いているとする。

  • sales.silver.orders:注文の明細。注文ごとに、日付、店、税抜の金額(net_amount)、状態(completed か cancelled)を持つ。キャンセルされた注文も残っている。
  • sales.gold.daily_sales:店ごと、日ごとの売上を、キャンセルを除いて集計した表。

この会社では、売上はキャンセルを除いた税抜の金額の合計と決めている。分析の担当者が、この二つの表を付けた Genie エージェント「売上の質問」を作り、店舗の担当者たちが使えるようにする。どちらの表から答えるかは、Genie が選ぶ。東京地区の担当者は SQL を書かない。この担当者が「先月の店ごとの売上は?」と尋ねると、次のように答えが返る24。

  1. 担当者Genie エージェント1. 「先月の店ごとの売上は?」と日本語で尋ねる
  2. Genie エージェント2. 付けられた表の説明と「売上」の定義を選び、SQL を作る
  3. Genie エージェントSQL ウェアハウス3. 作者の資格情報で、読み取りだけの SQL を動かす
  4. SQL ウェアハウスUnity Catalog4. 担当者自身の ID で、表を読む権限と行フィルターを確かめる
  5. Unity CatalogSQL ウェアハウス5. 担当者が読んでよい行だけを渡す
  6. SQL ウェアハウスGenie エージェント6. 集計した結果の行を返す
  7. Genie エージェント担当者7. 結果の表と、作った SQL を返す
※概念図(やりとり):本文の手順を図式化したもの。

分析の担当者は、Genie エージェントのナレッジストア(業務の定義を集めた場所)に、「売上」を SQL 式で登録しておく。

-- ナレッジストアの SQL 式(メジャー):売上
SUM(CASE WHEN status = 'completed' THEN net_amount END)

この定義が無ければ、Genie は sales.silver.orders の金額をキャンセルも含めて合計し、もっともらしいが誤った数字を返しうる。表に行フィルター(利用者ごとに見える行を絞る Unity Catalog の設定)があり、東京地区の担当者には東京地区の店の行しか見えないなら、返る表には東京地区の店だけが並ぶ。この表を読む権限を持たない人が同じ質問をすると、答えは空になる2。同じ質問を二度しても、作られる SQL が同じとは限らない5。キャンセルの規定を書いた PDF について尋ねても、チャットモードでは答えられない2。

以下の節は、この絵の各部分を順に説明する。

Genie とは:Genie One、Genie エージェント、Genie Code

Genie は、2024 年 6 月に Databricks AI/BI の一部として発表され、2025 年 6 月に一般提供になった6。2026 年には名前が何度か変わった。開発者向けの Databricks Assistant は 3 月に Genie Code に7、業務の利用者向けの画面の Databricks One は 4 月に Genie、6 月に Genie One に3、質問の範囲を整える Genie スペースは 7 月に Genie エージェントに変わった3。古い記事では、Genie スペースや Databricks Assistant といった以前の名前で書かれている。

Databricks の文書は、三つを次のように分けている18。

本稿の中心は、質問を SQL にする Genie エージェントである。Genie エージェントは英語以外の言語でも使えるが、内部ではプロンプトを英語で包むので、Databricks は、作者が使う言語でメタデータをできるだけ多く書くよう勧めている2。2026 年 2 月からは、東京とソウルのリージョンのワークスペースでは、同じリージョンに置いたモデルが使われる3。

質問が SQL になるまで

Genie エージェントは、Unity Catalog に登録された表、ビュー、メトリクスビューなどを元にする2。作者が付けた表だけを使い、指示の中で別の表に触れていても、付けていない表は読まない4。表は最大 50 まで付けられるが、Databricks は 5 つ以下を目安にするよう勧めている49。動かすには、pro かサーバーレスの SQL ウェアハウスが要る4。

質問を受けると、Genie は、付けられた表と列の名前や説明から関係のあるものを選び、同じ意味の SQL を作って、結果の表とともに返す2。一つの言語モデルではなく、複数の部品を組み合わせた仕組み(複合 AI システム)で質問を解釈する2。答えを作れないときは、聞き返すことがある2。作られる SQL は常に読み取りだけで、SQL ウェアハウスで動く2。SQL を作って答えたときは、利用者はその SQL を開いて確かめられる5。

一つの SQL で答えるチャットモードのほかに、エージェントモード(以前の名前は Research Agent)がある。これは、込み入った質問を小さな問いに分け、いくつもの SQL を動かして、結果を報告にまとめる2。2026 年 4 月には、プレビューを有効にしたワークスペースでエージェントモードが既定の会話設定になり、7 月に一般提供になった3。利用者向けの文書は、単純な質問にもエージェントモードを勧めている10。チャットモードは構造化されたデータだけを扱い、PDF などの文書には答えない。Unity Catalog のボリュームに置いたファイルを扱うには、エージェントモードを使う(ベータ版)2。

誰の権限で読むのか

Genie エージェントは、一つの質問に答えるのに、二つの別々の資格情報を使う2。

そのため、利用者は、Genie エージェントで使う表のすべてに少なくとも SELECT の権限を持つ必要がある4。後で述べる信頼できるアセットに SQL の関数を使うなら、その関数の EXECUTE の権限も要る11。Unity Catalog の行フィルターと列マスクは、利用者ごとに自動で効き、読めないデータについての質問には空の答えが返る2。東京地区の担当者に東京地区の店の行しか見えないのは、この仕組みによる。後から別の作者が SQL ウェアハウスを変えると、その作者の資格情報が埋め込まれる4。

例外もある。列の代表的な値を Genie に覚えさせるプロンプトマッチングの値は、作者の権限で作られ、全員が使うコンテキストに入る11。行フィルターのある表は表ごと、列マスクのある列はその列だけ、Genie が自動でこの対象から外す11。ただし、そうした表を参照するビューや動的ビューでは、列の値の一覧を覚えさせる部分(entity matching)を作者が自分で切る必要がある11。

Databricks は、こうした AI の機能のモデルに送るデータも Unity Catalog の権限に従うので、利用者が読めないデータはモデルに送られないとしている12。また、送られたデータ、プロンプト、答えを、第三者に提供する基盤モデルの学習には使わないとしている12。

定義を与える:ナレッジストアと信頼できるアセット

Genie は、Unity Catalog の表と列に付いたメタデータと、作者が Genie エージェントごとに整えるナレッジストアを使って答えを作る2。ナレッジストアには、表と列の説明、同義語、表の結合の関係、SQL 式などを入れる。これらは Genie エージェントの中だけで効き、Unity Catalog のメタデータは変えない2。キャンセルを除いた税抜の金額の合計という「売上」の定義も、この SQL 式として登録する。

作者は、サンプル SQL と SQL の関数も登録できる。パラメーターを持つサンプル SQL や SQL の関数で、作者が中身を検証したものを、信頼できるアセットと呼ぶ。Genie が信頼できるアセットを使って答えたときは、答えはその検証済みの SQL から作られる2。Genie は、サンプル SQL をそのまま使うことも、参考にして別の SQL を作ることもある11。たとえば、店と月をパラメーターにした「店ごとの月の売上」の SQL を登録しておき、チャットモードで Genie がその SQL をそのまま使って答えると、答えが検証済みであることが示される11。

文章で書く指示も使えるが、Databricks は、指示は SQL 式や例で対応できないときの最後の手段にするよう勧める9。指示が多すぎると、長い会話では Genie が大事な指示を優先できなくなることがあるからである9。文書は、列の曖昧さを解き、表をビューやメトリクスビューで前もって結合しておくよう勧める9。売上の表とその元の注文の表のように、同じ「売上」を出せる表が並ぶと、Genie がどちらを使うかが揺れうる。また、Genie を会社に入ったばかりの分析者のように考え、少ない表と少ない指示で小さく始め、作者自身が最初の利用者になるよう勧めている9。Genie エージェントを作ると Genie Code が起動し、表の説明やサンプル SQL を提案する4。

業務の指標を Genie エージェントの外で定義する方法もある。Unity Catalog のメトリクスビューは、売上の合計を顧客の数で割るような指標を一度だけ定義し、利用者が好きな列で分けて集計できるようにする仕組みである13。Genie エージェントはメトリクスビューを元にでき2、逆に、Genie エージェントに整えた定義をメトリクスビューとして書き出すこともできる4。

正しさを確かめる:ベンチマークとフィードバック

Databricks は、Genie もほかの言語モデルの道具と同じく、誤りやもっともらしい作り話(ハルシネーション)を返すことがあるので、答えの正しさを確かめるよう利用者に求めている10。同じ質問でも、違う答えが返ることがある5。答えごとの確かめとして、Genie が自分の作った SQL を小さな SQL で検算する Inspect もある(パブリックプレビュー)。フィルターの値、日付の範囲、結合と集計を確かめ、直した SQL と元の SQL を比べて、より正確なほうを返す2。

答えの正しさを測るには、ベンチマーク(試験用の質問の組)を使う。作者は、質問と、正しい答えを出す SQL を組にして登録し、まとめて動かして正答率を見る5。自動で採点できるのは、答えの SQL を付けた質問だけで、付けていない質問は人が採点する5。チャットモードでは、Genie の結果を答えの SQL の結果と比べて採点し、数値は有効数字 4 桁で一致すれば正しいとする5。エージェントモードでは、言語モデルの判定役が採点する5。ベンチマークは評価のためだけのもので、Genie はその質問や SQL を答えの材料には使わない2。文書は、同じ質問を 2 から 4 通りの言い方で入れるよう勧めている5。

利用者は、答えごとに「正しいか」を返せる。ただし、利用者の評価だけでは Genie エージェントのふるまいは変わらない。作者が評価を見て、定義やサンプル SQL を直す5。文書は、Genie エージェントを一度作って終わるものではなく、データチームと業務の利用者が長く一緒に育てる道具だとしている5。

料金:SQL ウェアハウスと、言語モデルの使用量

Genie の料金は、二つの部分からなる。

一つは、作られた SQL を動かす SQL ウェアハウスの費用で、これは常に別に請求される1415。もう一つは、言語モデルの使用量である。2026 年 7 月 8 日から、Genie の言語モデルの使用は従量課金になった。利用者ごとに、毎月 150 DBU(DBU は Databricks の使用量の単位で、150 DBU は米国東部で約 10.50 ドル)までは無料である314。席ごとの料金は無い16。

これとは別に、期間を区切った措置がある。2026 年 10 月の時点では、利用者による Genie One と Genie エージェントの言語モデルの使用は、150 DBU を超えても、2027 年 1 月 31 日まで無料とされている3。Genie Code はこの対象外で、サービスプリンシパルによる使用も通常の料金で請求される3。

予算は、アカウントの管理者が、アカウント全体、ワークスペース、利用者のグループ、個々の利用者の単位で設定できる15。ただし、予算で使用を止める上限はおおよそでしか効かず、文書は、請求額の絶対の上限として使わないよう注意している15。上で述べた無料の期間の間は、Genie One と Genie エージェントに予算による制御は効かない3。Databricks によれば、Genie の使い方は利用者ごとの差が大きく、実際の導入では、ごく一部の利用者が支出の大半を占める17。

表の外へ:文書への質問、Agent Bricks、MLflow

東京地区の担当者が、続けて「先月キャンセルの多かった店と、規定ではいつまでキャンセルを受け付けるのか」と尋ねたとする。前半は表への質問だが、後半はキャンセルの規定を書いた PDF への質問である。

2026 年 10 月の文書では、こうした質問は、Genie エージェントのエージェントモードで扱う。エージェントモードは、Unity Catalog のボリュームに置いたファイルを読め(ベータ版)、MCP の接続を付ければ Google Drive などの外部の文書や道具も使える2。答えは、引用、可視化、裏付けの表を含む報告として返る3。

  1. 担当者Genie エージェント1. エージェントモードで、キャンセルの多い店と受付の期限を尋ねる
  2. Genie エージェント2. 質問を、表への問いと文書への問いに分ける
  3. Genie エージェントSQL ウェアハウス3. 先月の店ごとのキャンセルの数を求める SQL を動かす
  4. SQL ウェアハウスGenie エージェント4. 店ごとの数を返す
  5. Genie エージェントボリューム5. キャンセルの規定の PDF を読む
  6. Genie エージェント担当者6. 二つの答えを、引用を付けた報告にまとめる
※概念図(やりとり):本文の手順を図式化したもの。

業務の利用者が使う Genie One も、Google Drive や SharePoint などの外部の情報源をつなげ、答えに使った知識の出どころを引用として示す18。

AI Search は、表の行を埋め込み(意味の近さを測るための数値の並び)にして、意味の近いものを探す検索の仕組みで、開発者が自分のアプリやエージェントに組み込んで使う。2026 年 6 月に Vector Search から名前が変わった1920。Delta Lake の表などから索引を作り、元の表が更新されると索引も同期させられる。キーワードによる検索と組み合わせることもできる20。Unity Catalog を有効にしたワークスペースで動くが、行や列の単位の権限には対応しておらず、必要ならアプリの側で絞り込む20。この点は、行フィルターが利用者ごとに効く Genie エージェントと違う。

Agent Bricks は、名前の意味が変わってきた。2025 年 6 月には、作業の説明とデータを与えると、評価の作成と品質や費用の調整を自動で行うエージェントの作り方として発表され、文書に出典付きで答える Knowledge Assistant や、複数のエージェントを束ねる Multi-Agent Supervisor を含んでいた21。2026 年 10 月の文書では、Agent Bricks は、コードを書く開発者のためのエージェントの開発基盤とされている22。表や文書に答えるエージェントをコードを書かずに作るのは Genie エージェントの役割で、Knowledge Assistant や Supervisor Agent は、新しいエージェントには勧められない以前の作り方とされている22。開発者が書いたエージェントは、Genie エージェントを道具として呼び出せる22。

MLflow は、Databricks が作り、2020 年から Linux Foundation の下にある、Apache 2.0 ライセンスで公開されたオープンソースのツールである2324。2025 年 6 月の MLflow 3 で、生成 AI のアプリケーションを本番で扱うための機能が整い、その中心はトレーシングである25。トレーシングは、エージェントの途中の各段の入力、出力、かかった時間、トークンの数、費用を記録する26。記録は Unity Catalog の Delta の表として保存でき、表の権限で管理できる26。評価では、記録した各トレースに、言語モデルの判定役やコードによる検査で品質の評価を付ける27。Agent Bricks の文書も、エージェントの各段を MLflow のトレーシングで記録することを、デバッグとテストの方法としている22。

セルフサービスによる価値創造の民主化

Databricks の基本原則の一つ、「セルフサービスによる価値創造の民主化」は、利用者が BI や機械学習/AI の作業のためにプラットフォームやデータへ簡単に近づけなければ、最良のデータレイクでも十分な価値を生まないとし、すべての事業部門にとって障壁を下げるよう求める28。データは見つけやすく、安全に使える必要があり、誰もがデータを作り、使い、理解できる道具が要るとする28。Genie は、SQL を書かない利用者の障壁を下げる道具として、この原則にあたる。

その次の原則である、組織全体のデータと AI のガバナンスは、すべての人にすべてのデータを見せることはできないとし、同じ業務の概念を組織全体で同じ名前と定義にそろえるよう求める29。Genie エージェントで、データを読む権限を利用者自身の ID で確かめ、業務の定義をナレッジストアやメトリクスビューに置くのは、障壁を下げることと、見せる範囲と定義を管理することを両立させるための仕組みと読める。Genie の答えの質は、その下にある、集計の済んだ gold の表、Unity Catalog の権限、整えたメタデータに左右される。

外から見た Genie

整えた Genie エージェントで、SQL を書かない人も正しい答えを得られるとする実務者がいる。エブリーの村上氏は、EC のデータで 5 問を試し、最初は 1 問も正しく答えなかったが、SQL 式、サンプル SQL、列の値を覚えさせる設定を重ねると、すべて正しい値を返すようになったと書いている30。同氏は、もっともらしい間違いが業務では最も危険だとし、文章の指示だけでは「キャンセル・返品を除外する」というルールが適用されない場合があったと書く30。

留保を付ける実務者もいる。IWConnect の業務分析のチームは、説明の乏しいデータで、隠れた多対多の結合が数字を何倍にもした誤った答えを、警告も無く自信を持って返されたと書き、Genie の結果を外に出す前には必ず SQL を見るという規則を設けている31。IVRy のアナリティクスエンジニアは、整えたデータに対してはほとんど誤りが無い一方、任意のデータに任意の質問をするのは難しいと判断し、Genie を使う範囲をメトリクスビューに絞ったと書く。メトリクスビューに定義されていないことには答えられなくなるという短所も挙げている32。同社のデータのインターンは、数値の誤りが致命的になる場面では Genie だけでの利用は難しく、結果がプロンプトの表現に左右されやすく、意図しない誤答をすることがあると書いている33。分析エージェントを作る会社 nao のデータ責任者の Claire Gouze は、2026 年 1 月に 14 の分析エージェントを比べ、Genie の評価と監視の仕組みの明快さと、自分の問いに正しく答えた数少ない一つだった research agent(今のエージェントモード)を評価した34。一方で、コンテキストを与える手段が限られ、dbt などの意味の層とつながらないと書いている34。

まだ決着していない問い

正しさは誰がどう測るのか。 Databricks は、28 問の社内の評価で、Genie が 84.5% の質問に一度で正しく答え、最も強い汎用のコーディングエージェントは 52.4% だったとしている16。ただし、問題の組も採点の規則も公開されておらず、比べた相手の名前も伏せられている16。84.5% と 52.4% は 28 問のうち何問かという割合にはならない(23 問なら 82.1%、24 問なら 85.7%)ので、何をどう数えた割合かも分からない。組み込みのベンチマークは、作者が自分で書いた質問と答えの SQL で採点し、エージェントモードでは言語モデルが採点する5。外部の数字では、Microsoft の技術者のブログが、公開のベンチマーク LiveSQLBench のうち 10 以上の表を持つデータベースへの中程度の問いで、メタデータも定義も無い状態の 9.50% から、列の説明と業務の指示で 69.23% に上がったと報告している35。3 回のフィードバックで正しい SQL のパターンを蓄えると 88.50% になったが、原典はこの仕組みを、既知の問いや繰り返される問いに強いものとしている35。ただし、一つのチームの試験で、Microsoft は Azure Databricks を売る会社でもある。Databricks にも競合にも関わらない第三者の測定は、利用する会社が 5 問で試した報告30のような小さなものにとどまり、査読付きの論文は探した範囲では見つからなかった。企業の実際のデータウェアハウスから作った試験では、公開の試験より自然言語から SQL を作るのが難しいことも報告されている36。

誤った答えの責任は誰が持つのか。 文書は、利用者に答えの正しさを確かめるよう求め10、利用者の評価だけでは Genie エージェントは変わらないとする5。Databricks の開発者向けのサイトの記事は、財務の報告や重い判断では、確認を省いてよい流れは無いとしている37。ただし、このサイトには AI が生成した内容を含むという注記がある37。誤った数字が会議に出たとき、作者、利用者、データチームのどこで止めるのかは、各組織が決める。

費用は見通せるのか。 言語モデルの使用量による課金は、利用者ごとの差が大きく17、予算の上限もおおよそでしか効かない15。2027 年 1 月 31 日に無料の期間が終わった後の費用は、2026 年 10 月の時点では使い方から見積もるしかない3。

業務の定義はどこに置くのか。 人が定義を置く場所は、Genie エージェントのナレッジストアと、Unity Catalog のメトリクスビューである。これとは別に、Genie One と Genie エージェントは、Genie Ontology(パブリックプレビュー)という層を使う163。Genie Ontology は、メトリクスビューなどの定義と、ダッシュボードや SQL の問い合わせから自動で集めた知識をまとめ12、定義の出どころ、作者の信頼度、使われる頻度などで重みを付けて、重いものから答える16。Genie One は答えに使った知識の出どころを引用で示すが18、同じ言葉に食い違う定義があるとき、仕組みが選んだ定義が業務上正しいかを誰が確かめるかも、各組織が決める。

エージェントは何で評価するのか。 MLflow の評価や、Genie エージェントをエージェントモードで動かすベンチマークでは、言語モデルが判定役を務める275。Agent Bricks の文書も、エージェントの出力は決まった形を持たないので、何が良いかを定め、測るのは難しいと認めている22。

出典37件
  1. Databricks「Genie」2026年9月18日更新、2026年10月12日取得. https://docs.databricks.com/aws/en/genie/ — Genie の定義と、Genie One・Genie Agents・Genie Code の三つ。 ↩ ↩2 ↩3

  2. Databricks「Genie Agents concepts」2026年10月7日更新、2026年10月12日取得. https://docs.databricks.com/aws/en/genie-agents/concepts — SQL の生成、複合 AI システム、二つの資格情報、行フィルター、ナレッジストア、信頼できるアセット、ベンチマーク、エージェントモード、言語。 ↩ ↩2 ↩3 ↩4 ↩5 ↩6 ↩7 ↩8 ↩9 ↩10 ↩11 ↩12 ↩13 ↩14 ↩15 ↩16 ↩17 ↩18 ↩19 ↩20 ↩21

  3. Databricks「AI/BI and Genie One release notes 2026」2026年10月9日更新、2026年10月12日取得. https://docs.databricks.com/aws/en/ai-bi/release-notes/2026 — 改名、東京リージョンのモデル、従量課金と無料の期間。 ↩ ↩2 ↩3 ↩4 ↩5 ↩6 ↩7 ↩8 ↩9 ↩10 ↩11 ↩12

  4. Databricks「Create and manage a Genie Agent」2026年10月9日更新、2026年10月12日取得. https://docs.databricks.com/aws/en/genie-agents/set-up — 表の上限、SQL ウェアハウス、SELECT の権限、付けた表だけを使う、Genie Code の提案、メトリクスビューへの書き出し。 ↩ ↩2 ↩3 ↩4 ↩5 ↩6 ↩7 ↩8

  5. Databricks「Test and monitor a Genie Agent」2026年9月17日更新、2026年10月12日取得. https://docs.databricks.com/aws/en/genie-agents/monitor — 作られた SQL の表示、非決定性、フィードバック、ベンチマークの採点。 ↩ ↩2 ↩3 ↩4 ↩5 ↩6 ↩7 ↩8 ↩9 ↩10 ↩11 ↩12 ↩13

  6. Databricks「AI/BI Genie is now Generally Available」2025年6月12日. https://www.databricks.com/blog/aibi-genie-now-generally-available — 一般提供。 ↩

  7. Databricks「March 2026」リリースノート、2026年10月12日取得. https://docs.databricks.com/aws/en/release-notes/product/2026/march — Databricks Assistant から Genie Code への改名(2026年3月11日)。 ↩

  8. Databricks「Genie Agents」2026年10月7日更新、2026年10月12日取得. https://docs.databricks.com/aws/en/genie-agents/ — Genie Agents の定義、旧称 Genie Spaces、Genie One と Genie Code との使い分け(日本語版「Genieエージェント」)。 ↩

  9. Databricks「Curate an effective Genie Agent」2026年9月11日更新、2026年10月12日取得. https://docs.databricks.com/aws/en/genie-agents/best-practices — 5 つ以下の表、小さく始める、指示は最後の手段。 ↩ ↩2 ↩3 ↩4 ↩5

  10. Databricks「Use a Genie Agent to explore business data」2026年10月9日更新、2026年10月12日取得. https://docs.databricks.com/aws/en/genie-agents/talk-to-genie — 誤りと作り話の注意、答えの確認。 ↩ ↩2 ↩3

  11. Databricks「Tune Genie Agent quality」2026年10月9日更新、2026年10月12日取得. https://docs.databricks.com/aws/en/genie-agents/tune-quality — サンプル SQL の使われ方、検証済みの答え、EXECUTE の権限、プロンプトマッチングと作者の権限。 ↩ ↩2 ↩3 ↩4 ↩5 ↩6

  12. Databricks「Databricks AI assistive features trust and safety」2026年9月11日更新、2026年10月12日取得. https://docs.databricks.com/aws/en/databricks-ai/databricks-ai-trust — モデルに送るデータと Unity Catalog の権限、学習への不使用。 ↩ ↩2 ↩3

  13. Databricks「Unity Catalog metric views」2026年9月11日更新、2026年10月12日取得. https://docs.databricks.com/aws/en/uc-semantics/metric-views/ — 指標を一度定義して任意の列で集計する。 ↩

  14. Databricks「Genie」料金のページ、2026年10月12日取得. https://www.databricks.com/product/pricing/genie — 無料分は言語モデルの使用だけで、計算は別に請求、150 DBU の換算。 ↩ ↩2

  15. Databricks「Manage budgets and cost controls for Genie」2026年10月7日更新、2026年10月12日取得. https://docs.databricks.com/aws/en/genie/budgets — 予算の対象、計算は別、上限はおおよそ。 ↩ ↩2 ↩3 ↩4

  16. Databricks「Introducing Genie One, Genie Agents, and Genie Ontology」2026年6月16日、2026年10月12日取得. https://www.databricks.com/blog/introducing-genie-one-genie-ontology-and-genie-agents — 社内の評価(28 問)、Genie Ontology、料金。 ↩ ↩2 ↩3 ↩4 ↩5

  17. Databricks「Genie consumption guide」2026年9月11日更新、2026年10月12日取得. https://docs.databricks.com/aws/en/genie/consumption-guide — 利用者ごとの使用量の差。 ↩ ↩2

  18. Databricks「Chat in Genie One」2026年10月9日更新、2026年10月12日取得. https://docs.databricks.com/aws/en/genie-one/chat — 外部の情報源の接続、答えに使った知識の引用。 ↩ ↩2

  19. Databricks「June 2026」リリースノート、2026年10月7日更新、2026年10月12日取得. https://docs.databricks.com/aws/en/release-notes/product/2026/june — Vector Search から AI Search への改名(2026年6月1日)。 ↩

  20. Databricks「Databricks AI Search」2026年9月14日更新、2026年10月12日取得. https://docs.databricks.com/aws/en/ai-search/ai-search — 旧称 Vector Search、索引の作成と同期、ハイブリッド検索、行と列の権限に非対応。 ↩ ↩2 ↩3

  21. Databricks「Databricks Launches Agent Bricks: A New Approach to Building AI Agents」PR Newswire、2025年6月11日. https://www.prnewswire.com/news-releases/databricks-launches-agent-bricks-a-new-approach-to-building-ai-agents-302478829.html — 2025年の Agent Bricks、Multi-Agent Supervisor。 ↩

  22. Databricks「What is Agent Bricks?」2026年10月6日更新、2026年10月12日取得. https://docs.databricks.com/aws/en/agents/concepts/ — コードを書く開発者のための基盤、Genie Agents との関係、品質の測りにくさ、MLflow のトレーシング。 ↩ ↩2 ↩3 ↩4 ↩5

  23. The Linux Foundation「The MLflow Project Joins Linux Foundation」2020年6月25日. https://www.linuxfoundation.org/press/press-release/the-mlflow-project-joins-linux-foundation — Linux Foundation への参加。 ↩

  24. mlflow/mlflow(GitHub)、2026年10月12日取得. https://github.com/mlflow/mlflow — Apache 2.0 のライセンス。 ↩

  25. MLflow「Announcing MLflow 3」MLflow ブログ、2025年6月9日. https://mlflow.org/blog/mlflow-3-launch/ — MLflow 3 の公開とトレーシング。 ↩

  26. Databricks「Tracing overview」2026年10月8日更新、2026年10月12日取得. https://docs.databricks.com/aws/en/mlflow3/genai/tracing/overview — 各段の記録、Unity Catalog の表への保存。 ↩ ↩2

  27. Databricks「Evaluate and improve」2026年10月8日更新、2026年10月12日取得. https://docs.databricks.com/aws/en/mlflow3/genai/eval-monitor/ — 判定役による採点。 ↩ ↩2

  28. Databricks「基本原則」2026年7月16日更新、2026年10月12日取得. https://docs.databricks.com/aws/ja/lakehouse-architecture/guiding-principles — 「セルフサービスによる価値創造の民主化」。 ↩ ↩2

  29. Databricks「Guiding principles」2026年9月11日更新、2026年10月12日取得. https://docs.databricks.com/aws/en/lakehouse-architecture/guiding-principles — ガバナンスの原則、同じ概念を同じ名前と定義にそろえる。 ↩

  30. 村上「Databricks Genieで現場で使えるAI分析基盤を育てる」every Tech Blog(株式会社エブリー)、2026年4月7日. https://tech.every.tv/entry/2026/04/07/182613 — 5 問で全問誤りから全問正解へ、文章の指示だけでは効かなかったルール。はてなブックマーク 2 件(10月12日)。 ↩ ↩2 ↩3

  31. IWConnect「Databricks Genie BA Use Cases: Lessons from Our Team」2026年7月24日更新. https://iwconnect.com/databricks-genie-ba-use-cases-lessons-from-our-team/ — 多対多の結合による誤り、SQL を必ず見る規則。業務分析のチームの記事。 ↩

  32. wada「AI でデータ分析!Databricks Genie の活用事例」IVRy(Zenn)、2025年9月24日. https://zenn.dev/ivry/articles/ivry-ai-blog-relay-databricks-genie-20250924 — メトリクスビューに絞る方針と短所。 ↩

  33. Miyake「自然言語でのデータ分析を当たり前に:IVRyのDatabricks Genie運用の現在地(インターン視点)」IVRy(Zenn)、2025年9月10日. https://zenn.dev/ivry/articles/9e65e9cea6c8c1 — 数値の誤りが致命的な場面、表現による誤答。 ↩

  34. Claire Gouze「I tested 14 analytics agents - so you don’t have to」The New AI Order(Substack)、2026年1月14日. https://thenewaiorder.substack.com/p/i-tested-14-analytics-agents-so-you — 評価と監視、research agent の正答、文脈の限り。著者は nao のデータ責任者、いいね 58。 ↩ ↩2

  35. Ashley Costigane「SQL query generation from natural language」Microsoft ISE Developer Blog、2026年5月7日. https://devblogs.microsoft.com/ise/llm-sql-query-generation/ — メタデータの量による Genie の正答率の変化(9.50%、69.23%、88.50%)。 ↩ ↩2

  36. Peter Baile Chen ほか「BEAVER: An Enterprise Benchmark for Text-to-SQL」arXiv:2409.02038. https://arxiv.org/abs/2409.02038 — 企業のデータウェアハウスから作った試験(Genie は扱っていない)。 ↩

  37. Databricks「How accurate are AI-powered natural language to SQL query tools today?」developers.databricks.com、2026年10月12日取得. https://developers.databricks.com/perspectives/ai-text-to-sql-is-accurate-when-it-is-grounded-and-evaluated — 重い判断で確認を省かない(AI が生成した内容を含むとの注記あり)。 ↩ ↩2

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