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マテリアルズインフォマティクス・材料

金属は曲がるのにガラスが割れるのはなぜ?転位とすべり面の有無

2026/6/21 (更新: 2026/11/3)

  • 金属
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  • 弾性率
  • Taylor
  • Zachariasen
  • ケイ素
  • 電子の海
  • 粘性流動
  • 靭性
目次
背景・問い・要点
背景

スプーンを強く曲げると、スプーンは曲がって元に戻らない。しかし割れはしない。ガラスのコップを床に落とすと、コップは曲がらずに、いきなり割れる。どちらも硬くて冷たい固体なのに、壊れ方が正反対だ。

材料科学では、力を受けた固体が割れずに形を変え、元に戻らないことを塑性変形と呼ぶ。曲がるという中間を経ずに割れる性質が「脆い(もろい)」である。固体が塑性変形するか脆く割れるかは、原子がどう並び、力を受けたときにどうずれるかで決まる。

固体の中の原子は、互いに結合して決まった位置にとどまっている。力を受けると、原子はその位置からずれる。ずれた原子が別の相手と結合をつなぎ直せれば、形は変わっても材料はひと続きのまま残る。つなぎ直せなければ、ずれは結合を切る方向へ進み、材料は二つに分かれる。

ふだん使う金属は結晶でできている。結晶は、原子が同じ並びを一定の間隔で繰り返して並んだ固体で、この繰り返しを周期性と呼ぶ。

周期性があるので、結晶の中には原子が平らに並んだ層が何枚も重なっている。隣り合う二枚の層のあいだの平面に沿って、片方の層をもう片方に対して原子の間隔ずつずらすことをすべりと呼び、その平面をすべり面と呼ぶ。ずれた先にも同じ並びがあるので、ずれ終わった層は、ずらす前と同じ形で隣の層と結合し直せる。

すべれるかどうかには、結合の性質も効く。金属の原子どうしの結合は、つなぎ替えるときに結合の角度にほとんど縛られない1。ずれた原子は、隣に来た原子とそのまま結合し直せる。この性質を、結合に方向性が無い(結合が方向にこだわらない)と言う。共有結合でできた固体では結合どうしの角度が固く、つなぎ替えがその角度に縛られる1。

ガラスは結晶ではない。ガラスの骨格では、ケイ素 1 個のまわりを酸素 4 個が四面体の形に囲み、その四面体どうしがつながって三次元の網目を作っている2。四面体の形そのものは決まっているが、四面体どうしの向きは場所ごとにまちまちで、網目には周期性が無い2。

問い

金属は曲がるのに、ガラスが割れるのはなぜか。

要点

金属が曲がりガラスが割れる違いを主に分けるのは、動かせるすべり面があるかと、結合が方向にこだわらないかである。金属の結晶はすべり面と方向にこだわらない結合を備えて原子の層をずらしながら曲がり、ガラスはどちらも欠くので表面の傷から割れる。

金属では、ずれた部分とまだずれていない部分の境目(転位)が少しずつ進むので、面全体を一度にずらすより小さな力で形が変わる。金属ガラスは結合が金属的でも規則正しいすべり面を持たず、単一相のものの多くは室温で速く引くとほとんど伸びずに破断する。

モデル・例示

原子の列を一つずらすと、金属はつなぎ直し、ガラスは切れる

※ この節の例は、説明のために作った架空のものです。

金属が小さな力で曲がるのは、すべり面の上で結合を数本ずつつなぎ直しながら形を変えられるからだ。ガラスが割れるのは、ずれた先につなぎ直す相手が無く、伸びた結合が傷のところから切れていくからだ。原子の列を一間隔ずらす同じ操作を、金属とガラスで比べ、そのあとガラスが割れ始める条件を、傷の大きさと表面にかかる力で見る。

金属の結晶の中で、すべり面を挟んで上下に向かい合う二列の原子を考える。各列に原子が 10 個、間隔 1 で並ぶ。上の原子 1〜10 は、それぞれ下の原子 1〜10 の真上にいて、真下の原子と結合している。目標は、上の列を右へ間隔 1 だけずらし、上の原子 kk を下の原子 k+1k+1 の真上に移すことである。移った先に相手がいるのは上の原子 1〜9 で、上の原子 10 は最後に下の列の右端からはみ出す。

一度にずらすなら、上の 10 個は同時に動く。途中で上の原子はどれも、下の二つの原子の中間に来る。その瞬間には、すべり面を横切る 10 本の結合がすべて、元の位置から半間隔ずれて引き伸ばされている。一度にずらすには、この 10 本を同時に引き伸ばすだけの力が要る。

転位を動かすなら、ずれは左端から一つずつ進む。途中の状態として、上の原子 1〜2 は既に右へ一間隔ずれて下の原子 2〜3 の真上で結合し直し、上の原子 5〜10 はまだ元の真上にいる場面を見る。その間の上の原子 3 と 4 は、一間隔の途中までしかずれていない。上の原子 2〜5 の 4 個が下の原子 3〜5 の 3 個の上に並ぶので、ここだけ上の列が詰まっている。この詰まった所が、ずれた部分とまだずれていない部分の境目、つまり転位である。引き伸ばされている結合は、上の原子 3 と 4 から下へ伸びる 2 本だけだ。残りの結合は、ずらす前と同じ長さでつながっている。

次の一歩で、上の原子 3 は下の原子 4 の真上まで進んで結合し直し、上の原子 4 と 5 が一間隔の途中までずれる。転位は右へ一間隔進み、引き伸ばされる結合はやはり境目の 2 本である。この一歩を続けると、転位はやがて右端から抜ける。上の列は全体で右へ間隔 1 ずれ、上の原子 1〜9 は下の原子 2〜10 と、ずらす前と同じ長さで結合している。左端には上に相手の無い下の原子 1 が、右端には下の列からはみ出した上の原子 10 が残る。この両端の段差が、形の変わった分である。結晶は割れずに、ひと続きのまま残る。

同時に引き伸ばす結合は、一度にずらせば 10 本、転位を動かせば 1 歩ごとに 2 本である。この例では、境目で伸びる結合を 2 本としている。列の原子が 1,000 個なら、前者は 1,000 本になるが、後者は境目の 2 本のままで、同時に大きく伸びる所は境目に限られる。本数は要る力の大小の目安で、力の比をそのまま決めるものではない。

同じ操作をガラスで試す。ガラスの網目には、層が平らに重なったすべり面が無い。ある四面体を隣に対して一間隔ずらしても、ずれた先には、ずらす前と同じ距離・同じ向きにいる相手がいない。周期性が無いので、ガラスには構造的に等価な原子が二つと無いからだ2。ケイ素のまわりの酸素を 3 個や 5 個に変えると位置エネルギーがはるかに大きくなるので、四面体の形を崩して新しい相手に合わせることもできない2。金属の転位のように、同じ形へつなぎ直す一歩を繰り返すことができないので、引き伸ばされた結合は、つなぎ直す相手を得られずに切れる。

すべりで力を逃がせないガラスでは、力は表面の目に見えない傷のまわりに集まり、結合はそこから切れ始める。ガラスの表面に、径の違う二つの傷があるとする。ひびが走り出すのは、傷のまわりが引張(引き伸ばす向きの力がかかった状態)にあり、応力(単位面積あたりにかかる力)と傷の径の平方根の積が材料ごとの臨界値を超えたときである。臨界値を 400(単位は MPaμm\mathrm{MPa}\sqrt{\mu\mathrm{m}})と置く。

  • 引張 100 MPa で、径 4 µm の傷:100×4=200100 \times \sqrt{4} = 200 で、臨界値に届かない。ひびは走らない。
  • 同じ引張 100 MPa で、径 25 µm の傷:100×25=500100 \times \sqrt{25} = 500 で、臨界値を超える。ひびが走り、割れる。

次に、表面にあらかじめ 150 MPa の圧縮をかけておく。外から 100 MPa の引張を加えても、表面は差し引き 50 MPa の圧縮のままである。傷のまわりが引張にならないので、径 25 µm の傷でもひびは走り出さない。

金属とガラスで同じ操作をした結果と、傷の計算から、三つのことが言える。

  1. 金属の結晶では、転位が進むあいだに引き伸ばされる結合は境目のまわりの数本だけなので、面全体を一度にずらすより小さな力で形が変わり、変わったあとも結晶はひと続きのまま残る。
  2. ガラスでは、ずれた先に同じ並びの相手が無く、四面体の形を崩して新しい相手に合わせることもできないので、引き伸ばされた結合はつなぎ直せずに切れる。引張が同じなら、大きい傷が先に臨界値に届き、そこから割れる。
  3. 表面を圧縮しておくと、外からの引張がその圧縮を上回るまで、圧縮された表面に収まる傷は広がれない。

金属:原子の層が「すべる」から、曲がる

金属が小さな力で曲がるのは、層全体が一斉にすべるのではなく、転位(てんい、英: dislocation)が少しずつ進んで層をずらすからだ。Taylor は、上の列の原子を下の列に対して一斉にずらすなら材料の弾性率に匹敵する応力が要るはずだと見積もったうえで、すべりがすべり面の一部だけで起き、それが結晶の端から端へ有限の時間をかけて伝わると考えれば「状況はまったく変わる」と書いた3。一斉にずらせば、すべり面を横切る結合をすべて同時に引き伸ばすことになる。すべりが一部から伝われば、同時に引き伸ばされるのは境目の数本で済む。針金が曲げられるのも、鉄が圧延で板になるのも、このすべりによる。

結合が方向にこだわらないので、すべったあとも金属は割れない。電子が全体に薄く広がった「電子の海」が原子をつないでいる(この描像そのものは本稿の出典の外にある)。すべった先で隣に来た原子とも結合し直せるので、曲がる・へこむ・伸びるのどれでも、形が変わったあとも金属はひと続きのまま残る。

逆に、金属は変形を受けるほど硬くなる。変形が進むと転位の数が増えて間隔が詰まり、ずらすのに要る力が増えるからで、Taylor はこれを加工硬化の説明とした3。不純物も硬さを変える。Taylor は、亜鉛単結晶の金属不純物を 0.03% から 0.002% に減らすと、変形の始まる応力が 1 mm² あたり 94 g 重から 49 g 重に下がったという Schmid の測定を引いている3。

ガラス:すべれないから、割れる

ガラスはすべりで力を逃がせず、力が表面の傷に集まって割れる。原子の並びに周期性が無い固体をアモルファス(非晶質)と呼び、ガラスはその一つである。原子が規則正しい格子を作らず網目状につながっているという描像は、Zachariasen が1932年に、対称性と周期性を欠く三次元の網目として提唱した2。結晶のような規則正しいすべり面が無いのは、この周期性の欠如の帰結だ。ガラスには構造的に等価な原子が二つと無い2。そのため、ずれた先に同じ距離・同じ向きの相手がいない。

すべりで逃がせない力は、表面の目に見えない傷に集中する。ひびが走り出すには、周囲の応力場が引張であることと、応力と傷の径の平方根の積が材料ごとの臨界値を超えることが要る4。だから、引張応力が同じなら、大きい傷ほど先にこの臨界値に達する。臨界値を超えた傷からひびが走り、ガラスは曲がる段階を経ずに割れる。これが「脆い(もろい)」ということだ。

表面の圧縮が傷を広げさせない例が、溶けたガラスを水に落として作る「プリンス・ルパートの滴」である。滴の頭は 15 kN(およそ1.5トン重)の力にも耐えるのに、細い尾を指で折るだけで全体が砕ける。外殻に強い圧縮がかかっていること、そして半球状の形が、この強さを説明するとされている4。

滴の応力の測定値は研究によって違う。頭部径約 6 mm の滴を調べた初期の研究は、表面の圧縮と軸方向の引張をともに 170 MPa 以下と報告した4。それよりやや大きい、頭部径 7.8 mm 以下の滴を偏光画像で調べた研究では、表面の圧縮が頭部で約 525 MPa、尾で 700 MPa、内部の引張が 300〜400 MPa、表面の圧縮層の厚みは 0.5〜0.85 mm と測られている4。

表面の圧縮が傷を止めるのは、圧縮の殻が破れていないあいだだけである。尾を折って圧縮の殻を破ると、閉じ込められていた内部の引張応力が一度に解放され、局所的なひびでは済まず全体が砕け散る。強化ガラスも同じ判定基準を使う。表面をわざと圧縮しておけば、圧縮下にある微小な傷は、その圧縮が解かれるまで広がれない4。その代わり内側には引張が閉じ込められており、この構図はプリンス・ルパートの滴と同じである。

脆さは、結合が弱いことの現れではない。「強い」と「割れにくい(粘り強い)」はしばしばトレードオフで、ガラスは硬いが脆く、多くの金属は柔らかいが粘る。Zachariasen は、ガラスの機械的性質が広い温度範囲で結晶と直接比較でき、強度が対応する結晶形を上回りうる実験的証拠もある、と書いている2。

金属ガラス:結晶格子の無い金属は、すべれずに割れる

金属ガラスは、結合は金属的なのに規則正しいすべり面を持たないので、室温のような低温で速く力を加えると、通常の金属のようにはすべれない。金属ガラスは、非晶質(アモルファス)のまま固まる組成の合金を急冷して作り、転位が働く規則正しい格子を持たない。非晶質合金の弾性率はおおむね通常の工業用金属と同程度なのに、室温の強度は組成が同程度の多結晶を大きく上回る1。

このとき変形は、局所的な帯状のずれ(せん断帯)に集中する。そして単一相のものは大半の場合、引張でほとんど延性を示さないまま突然破断する1。一方で、金属ガラスの割れにくさ(靭性)には幅があり、構造用の結晶合金並みのものも、酸化物やケイ酸塩のガラス並みに脆いものもある1。

同じ金属ガラスでも、温度と負荷の速さで、曲がるか割れるかが変わる。上で「引張でほとんど延性を示さない」と書いたのは低温・高速の条件でのことだ。Pd–Ni–P 系の金属ガラスを、固体のガラスが粘い液体へ移り変わる温度(ガラス転移点)付近まで温めてゆっくり引いた試験では、液体のように流れて(粘性流動)1000% を超えて伸び、速く引くと伸びは 20% 程度まで落ちた1。荷重のかけ方でも結果は変わる。一部の金属ガラスが冷間圧延や曲げでは塑性変形しうることは、古くから知られている1。Schuh らは、金属ガラスにも比較的急峻な延性–脆性遷移があり、それは一部の結晶金属で観察されるものと似ている、と書いている1。

すべるか割れるかを分けているのは材質名ではなく、原子の並びと結合の性質だ。すべりやすさを大きく左右する条件は、主に二つある。動かせるすべり面があることと、結合が方向にこだわらないことである。金属ガラスは前者を大きく欠いた例で、結合は金属のままだが、転位が動ける規則正しいすべり面がない。ふつうのガラスは両方を欠く。ガラスには規則正しいすべり面がなく、しかも結合に方向がある。金属的な結合は、結合の向きの点で違う。原子のつなぎ替えが、共有結合固体のような結合角の硬さにも、イオン結合固体のような電荷の釣り合いにも大きくは縛られないからだ1。


出典4件
  1. C. A. Schuh, T. C. Hufnagel & U. Ramamurty「Mechanical Behavior of Amorphous Alloys」Acta Materialia 55, 2007. https://doi.org/10.1016/j.actamat.2007.01.052 — 金属ガラスの変形と破壊の総説。引張延性がほぼゼロとするのは単一相の場合で、延性を得る手法にも一節を割く。 ↩ ↩2 ↩3 ↩4 ↩5 ↩6 ↩7 ↩8 ↩9

  2. W. H. Zachariasen「The Atomic Arrangement in Glass」J. Am. Chem. Soc. 54, 1932. https://doi.org/10.1021/ja01349a006 — ガラスを対称性と周期性を欠く三次元の網目とした。完全にランダムではないとも書いており、「連続ランダムネットワーク」は後年の呼び名である。 ↩ ↩2 ↩3 ↩4 ↩5 ↩6 ↩7

  3. G. I. Taylor「The Mechanism of Plastic Deformation of Crystals. Part I.—Theoretical」Proc. R. Soc. A 145, 1934. https://doi.org/10.1098/rspa.1934.0106 — 加工硬化の機構として転位の伝播を導入した。不純物が変形開始応力を上げる亜鉛単結晶の測定も引く。 ↩ ↩2 ↩3

  4. K. V. Cashman ほか「Prince Rupert’s Drops」PNAS 119, 2022. https://doi.org/10.1073/pnas.2202856119 — 熱応力による破砕と急冷造粒の解析。滴の強さ・応力値・亀裂の進展条件は、先行研究に基づく導入部の整理である。 ↩ ↩2 ↩3 ↩4 ↩5

この記事はAIを使用して執筆されました。内容には誤りが含まれる可能性があります。事実や数字の出典は脚注から確かめられます。