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拡散言語モデルとは?自己回帰との違い、速さ、得意と苦手

2026/7/20 (更新: 2026/10/19)

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目次
背景・問い・要点
背景

いま出回っている文章生成AI(LLM)は、ほとんどが同じ作り方をしている。LLM が一度に扱う文字の単位をトークンと呼び、単語か単語の一部にあたる(以下ではトークンを「語」と書く)。LLM に文を入力して出力を一回得る計算を、モデルを一回通すと言う。その作り方では、それまでの文を受け取ってモデルを一回通し、次の一語を決め、その語を文に足してまた通す。この繰り返しで文章を伸ばしていく方式を、自己回帰(autoregressive)と呼ぶ。前の語を踏まえて次を選ぶぶん出来上がりは整うが、ひとつ決まるまで次へ進めないので、返答の速さには上限がつく。

この自己回帰に対して、作り方そのものが違う方式が現れた。拡散LLM(diffusion LLM)は、画像生成で使われてきた拡散モデルの考え方を言語に持ち込んだもので、返答の長さぶんの伏せ字(マスク)を並べた列から始める。モデルを一回通すと、伏せ字のすべての位置について入る語を予測し、そのうち何語かを確定させ、残りは伏せたまま次の回へ回す。これを伏せ字が無くなるまで繰り返す。伏せ字を使うこの方式を、マスク拡散と呼ぶ。学習では、正しい文の語を毎回ランダムに選んだ位置で伏せ、伏せた語を当てさせる。

一度に多くを決められるのだから速くなるはずだ、という見込みは前からあった。2025年から2026年にかけて、商用サービスと研究の両側から実測が出はじめた。返答を待つ時間がそのままコストになる用途なら、この速さは検討に値する。本稿は、企業と研究者が公開した測定を例に取る。

問い

拡散LLMは自己回帰の置き換えになるのか、それとも仕事によって向き不向きが分かれるのか。分かれるなら、何がその線を引くのか。

要点

置き換えの話ではまだない。得手不得手を分ける線を引くのは、生成の順序が仕事の依存構造と噛み合うかどうかだ。 依存構造とは、答えのどの部分が、ほかのどの部分を見ないと決まらないかの関係を指す(道順を答える問題なら、一歩目の向きは出口側の道を見ないと決まらない)。そう報告したのは Wang らだ。条件をそろえて作った三つの課題で、小さなモデルを自己回帰とマスク拡散の両方でゼロから学習させて比べ、生成順序は実装の細部ではなく、モデルが何を学びやすいかを決める前提、つまり意味のある帰納バイアスだと結論している。数独(Sudoku)や道順の探索のように答え全体を見渡す必要がある課題では自己回帰が失敗し、入力の一つ一つに決まった出力を精密に当てる課題では、伏せる位置をランダムに置く標準のマスク拡散の学習が安定しなかった1。速さのほうは実測が出ている。Mercury Coder の Mini は 1秒あたり1109トークンを示す。品質は、Mini が重みを公開したオープンウェイトのモデルと、一段大きい Small(1秒あたり737トークン)が速度重視の商用モデルと同等だと Inception Labs は主張する2。規模でも、LLaDA が8B規模で、プロンプトに並べた例から課題を読み取る文脈内学習では LLaMA3 8B に並ぶと報告した3。ただし自然言語の課題全般で並ぶかは課題ごとに割れている。LLaDA がモデルを通す回数を減らして測った付録の比較でも、Google DeepMind が実験公開した Gemini Diffusion の自己申告の表でも、同等と後れが混在する34。

モデル・例示

八語の返答を、一語ずつ書く場合と伏せ字から埋める場合

※ この節の例は、説明のために作った架空のものです。

拡散LLMが自己回帰と違うのは、モデルを一回通すごとに何語を確定させるかと、どの位置の語から確定させてよいかの二点である。速さの差も得手不得手の差も、この二点から出てくる。

「明日の外出で気をつけることは?」という質問に、八語の返答「明日 は 雨 なので 傘 を 持って 行く」を返すとする。自己回帰は、まず「明日」を決め、次に「明日」までを受け取って「は」を決める。こうして左から一語ずつ足すので、八語なら八回通す。

拡散LLMは、八つの伏せ字から始める。一回通すごとに、モデルは質問と、伏せ字と確定済みの語が並んだ今の文を受け取り、残っている伏せ字のすべてに入る語を予測する。この例のモデルは、予測のうち確からしい二語を確定させ、ほかの位置は伏せたまま次の回へ回す。確定させた語は、以後の回で変えない。

通した回数文の状態(_は伏せ字)
始め_ _ _ _ _ _ _ _
1回目明日 _ _ _ _ _ _ 行く
2回目明日 _ 雨 _ 傘 _ _ 行く
3回目明日 は 雨 _ 傘 を _ 行く
4回目明日 は 雨 なので 傘 を 持って 行く
一回に二語ずつ確定させる拡散LLMで、八つの伏せ字が埋まっていく順

八語が四回で埋まった。1回目には、八番目の「行く」が、二番目の「は」より先に確定している。一方で、同じ回に確定した二語は、互いの中身を見ないまま決まる。2回目の「雨」と「傘」は、どちらも相手が何になるかを知らずに選ばれた。「雨」の代わりに「晴れ」が選ばれていても、同じ回の「傘」は直せない。この例から、二つの性質が言える。

  1. この例のように毎回同じ語数を確定させるなら、通す回数は、返答の語数を一回に確定させる語数で割った数(割り切れなければ切り上げ)になる。百語の返答なら、一回に一語ずつで百回となって自己回帰と変わらず、四語ずつなら二十五回で済む。一回通す時間が同じなら、回数を減らすほど速くなるが、互いを見ずに決まる語の組が増える。
  2. 拡散LLMは、文の後ろの位置を前の位置より先に確定させてよい。自己回帰は、一語目を決める時点で、まだ書いていない後ろの語を見られない。

性質2が効く場面がある。地図の上で、入口から出口までの道順を書き出す問題を考える。分かれ道のどちらが出口へつながるかは、出口の側から辿らないと分からない。地図はどちらの方式も入力として受け取るが、順に書く方式は、一歩目を書く時点で、答えのうち出口側の部分をまだ書いていないので、それを手がかりにできない。伏せ字から埋める方式は、出口に近い側を先に確定させ、そこから一歩目を決めてよい。逆に、表の各行に、その行の入力に対応する答えを一つずつ書き込む問題では、各行の答えはその行の入力だけで決まる。こちらでは、先を見られないことは不利にならない。この違いは学習にも出る。背景で見たとおり、伏せ字から埋める方式は学習のたびに伏せる位置を変える。そのため表の問題でも、行の順に書くという一つの手順だけを練習するのではなく、互いに違う多くの順序の穴埋めに練習が分かれる。

「一語ずつ」への、本格的な対抗馬

GPT も Claude も Gemini も、中身は自己回帰(autoregressive)だ。一語ずつの積み重ねが品質を支えるが、宿命として逐次である。

拡散LLM(diffusion LLM)は順番を捨てる。マスクだらけの文から始めて、全体を並列に少しずつ埋めていき、反復を重ねて文章を完成させる。反復の回数は設定で決まり、減らせば速く、増やせば品質が上がる。問題は「言語でこの作り方が本当に成立するか」だった。

速さは実測、規模でも並び始めた

Mercury Coder(Inception Labs)は商用規模で提供される拡散LLMだ(報告は2025年6月公開のプレプリント)。論文の要旨は、Artificial Analysis(AA)の独立評価に基づくとして、H100上で Mini が1109トークン/秒、Small が737トークン/秒に達し、速度最適化された既存モデル比で最大10倍の速さを同等品質のまま出したと書く2。ただし品質を測った土俵は主にコーディング用途で、論文は汎用の推論や長文で同等かを測っていない。速度の比べ方も一様ではない。比較対象の既存モデルの速度は、AA が複数の配信事業者にまたがって測った商用APIの中央値である。Mercury のほうは自社のサービングエンジンで配信した API の値である(§3.2.1)。その値も、Figure 1 の AA の図では、比較対象と同じコーディング用の負荷(入力約1,000トークン)の軸の上に載っている。つまり比較の片側は事業者の中央値、もう片側は開発元自身の単一の配信である。

開発者が実際にコード補完を使う Copilot Arena では、Mini が品質2位タイ・速度1位(平均レイテンシ 0.25 秒、GPT-4o Mini の 0.84 秒の約 3.4 倍速)に入った。デモの数字ではなく、運用の土俵での成績だ。

商用側は Inception Labs だけではなく、Google DeepMind も実験公開の Gemini Diffusion を出している。同社の頁は自己申告の数字として、オーバーヘッドを除く生成速度 1479 トークン/秒と Gemini 2.0 Flash-Lite との比較表を刷る。その表では、コードの 6 指標のうち 5 つでほぼ同等、SWE-Bench Verified(単発の編集だけの評価)では後れ、数学の AIME 2025 では上回り、科学問答・推論・多言語では後れを取る4。

規模の壁も崩れ始めた。LLaDA(NeurIPS 2025 に採択された査読済み論文)はマスク拡散を8Bパラメタまでスケールさせ、文脈内学習で LLaMA3 8B と同等の成績を報告した3。この同等を報告した表でも、課題ごとの差は大きい。数学と中国語の4課題(GSM8K・Math・CMMLU・C-Eval)では LLaMA3 8B を約15〜22ポイント上回り、BBH と HellaSwag では約9〜12ポイント後れる。学習に使ったトークンは、LLaDA が 2.3T、LLaMA3 8B が 15T である。ただしこの同等のうち生成で答えさせた課題は、生成長と反復回数をともに 1024 に置く設定、つまり 1 回の反復で 1 トークンずつ確定する設定で測られており、論文自身も速いモデルの提案を目的とはしないと明記している。同じ論文が付録で反復回数を減らして測った比較では、GSM8K と Math では同等の成績で 1.5 倍・1.8 倍のスループット、MBPP では LLaMA3 8B に後れを取る。

象徴的なのは「逆転の呪い」である。逆転の呪いは、「AはBである」を学んだモデルが「BはAである」を答えられない、自己回帰の悪癖を指す。順序を固定しない拡散LLMはここに強く、逆順の詩の補完では GPT-4o を上回った(45.6 対 34.3。同じ表で Qwen2.5-7B Instruct の 38.0 も上回る)と報告する。課題の実体は中国古典詩の対句496組で、ある句を与えて前の句を答えさせる。プロンプトも中国語である。ただし順方向では逆に大きく劣っており(51.8 対 82.7)、論文の主眼は優越そのものではなく、方向を変えたときの落差が小さいことにある。なお前段で見たとおり LLaDA は数学と中国語のタスクで優位で、この一件は「逆転の呪いへの強さ」と「中国語での優位」が交絡しうる設定で測られている。(原典の表は指標名も単位も書いておらず、評価は Allen-Zhu と Li の先行研究のプロトコルに従うとだけ記している。ここでは % を付けずに原典の数字のまま引いた。)左から右という縛りを外すこと自体が、特定の能力になっている。

崩れる側は、課題の依存構造で入れ替わる

崩れる場所は、直感とは違うところにあった。Wang らは、マスク拡散LLMの学習の安定性を統制実験で調べた(2026年4月公開・査読前)1。標準のランダムマスク方式が安定して学べなかったのは、文脈内の線形回帰のように、入力と出力を精密に対応づけることが要るタスクだった。文脈内の線形回帰は、20組の実演から潜在の線形写像を推定し、続くクエリに当てる課題である。崩れが出たのは、入力の次元を 10・15・20 と変えたうちの 20 の設定で、次元 10 ではどの方式も同じくらいの成績だった。原典が「局所的な束縛」と呼ぶこの課題は文脈内学習の合成版で、上で LLaDA が自然言語ベンチマークで LLaMA3 8B に並んだ文脈内学習と同じ語だ。ただし測ったのは、原典の構成表で約 400 万〜3,000 万パラメータの小さなモデルの学習安定性であって、能力の一般命題ではない。

逆に Sudoku(大域的な制約充足)と星形グラフの経路探索(依存が Goal→Start と逆流し、前向きの生成順と矛盾する計画課題)では、失敗するのは自己回帰の側である。経路探索で自己回帰は学習損失こそ下がるがテスト精度は 1/d1/d の当てずっぽうに留まり、拡散側は ≈100%\approx 100\% に達する。もっとも標準のマスク拡散の学習は初期値に左右され、シードを変えた 8 回の学習では、解き方を見つける回と停滞する回に分かれた。Sudoku の落差はさらに大きく、自己回帰の正答率は 0%、双方向に見渡せる拡散側はほぼ完全に解く。原典はこの差を「実験中もっとも極端に分かれた結果」と呼ぶ。著者らは全モデルのパラメタ数をそろえ、いずれもゼロから学習させてこの比較を取った。

同じ論文は対策として Jigsaw と Scatter を提案するが、その中身は「ブロック内で自己回帰生成を強制し、ブロック間では拡散的な反復精錬を残す」というものだ。つまり両者は、左から右の順序を各ブロックの内側にだけ戻す設計で、ブロックの並びを左から右に進める既存の多くのブロック設計とは役割が逆になっている。ただし、どちらか一方で三つの課題がすべて直るわけではない。Jigsaw が線形回帰の安定性と Sudoku を、Scatter が経路探索での計画の強みをそれぞれ担う。著者らが名指しする軸は、経路探索と線形回帰の比較から引いた、大域的な計画・制約充足か、局所的な束縛かという反転である。全体を見渡せる標準のマスク拡散は前者に、見る範囲を局所に絞った自己回帰は後者に向く。Jigsaw はこの二分に収まらず、線形回帰と Sudoku では崩れなかったが、経路探索では自己回帰と同じ失敗の側に入った。著者らは、生成順序を課題の依存構造に合わせて選ぶ帰納バイアスと位置づけている1。

優劣は、課題の側で割れる。Wang らの三課題では、課題が大域的な計画なのか、局所的な束縛なのかで、失敗する側が入れ替わった。同じ論文は先行研究の総括として、自然言語の推論ベンチマークでは拡散LLMがしばしば自己回帰に後れを取ると書き、それを仮説の動機に置いている1。


出典4件
  1. Wang ほか「On the Trainability of Masked Diffusion Language Models via Blockwise Locality」arXiv, 2026(査読前). https://arxiv.org/abs/2604.24832 — 小規模モデルの合成課題で、計画は自己回帰が、局所の束縛はマスク拡散が崩れ、経路探索でも拡散の学習が揺れる。 ↩ ↩2 ↩3 ↩4

  2. Inception Labs「Mercury: Ultra-Fast Language Models Based on Diffusion」arXiv, 2025(査読前). https://arxiv.org/abs/2506.17298 — H100 で Mini 1109 トークン/秒(AA の計測・自社エンジンでの配信)、Copilot Arena で品質2位タイ・速度1位。 ↩ ↩2

  3. Nie ほか「Large Language Diffusion Models」NeurIPS 2025(arXiv:2502.09992). https://arxiv.org/abs/2502.09992 https://proceedings.neurips.cc/paper_files/paper/2025/hash/48b383b24230e0e6e649d9c98dae4d8c-Abstract-Conference.html — 8B のマスク拡散が文脈内学習で LLaMA3 8B と同等(生成長・反復とも1024)。逆順の詩の補完で GPT-4o を上回り、順方向では大きく劣る。 ↩ ↩2 ↩3

  4. Google DeepMind「Gemini Diffusion」モデル紹介頁(2026-09-20 閲覧). https://deepmind.google/models/gemini-diffusion/ — 自己申告で生成速度 1479 トークン/秒。Flash-Lite 比でコードは SWE-Bench Verified を除きほぼ同等、AIME 2025 で上回り、GPQA Diamond などで後れる。 ↩ ↩2

この記事はAIを使用して執筆されました。内容には誤りが含まれる可能性があります。事実や数字の出典は脚注から確かめられます。