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マテリアルズインフォマティクス・材料

能動学習——次に試す実験を最小のコストで選ぶ

2026/7/18 (更新: 2026/7/18) シリーズ「コンピュータで材料を探す」 第4回 / 全4回

目次

天文学的な候補を数個まで削る「ふるい」がある。だがあの漏斗には、暗黙の前提があった。候補を、作る前に安く採点できることだ。ルールや機械学習で「良さそう/ダメそう」を一瞬で見積もれるから、大半を落とせた。

ところが現実には、その前提が崩れる場面が多い。本当に知りたい性質が、実際に作って測るまで分からない——合金の疲労寿命、触媒の効き、電池材料の劣化。計算だけでは当てにならず、一個ずつ合成して測るしかない。しかもその実験は、遅くて高い。丸一日、あるいは一週間に数個。使える回数は、数千でも数百でもなく、せいぜい数十だ。

すると問いが変わる。「どれが良いか」を一括で当てるのではなく——

これまで測った結果をもとに、「次のひとつ」を、どこに賭けるか。

闇雲に試すのでも、いま最良に見えるものの隣ばかり掘るのでもない。一手ごとに、一番割の良い場所を選ぶ。これが能動学習(active learning)であり、その代表的な道具がベイズ最適化だ。

※ 概念図(フロー) ① サロゲート+不確かさ 測ったデータから「予測」と 「どこが自信ないか」を作る ② 獲得関数で次の一手を選ぶ 「良さそう(活用)」と 「わからない(探索)」の両にらみ ③ 実際に作って測る 遅くて高い一手。だから慎重に選ぶ ④ 結果をデータに足す モデルが一歩かしこくなる → ①へ 回すほど、少ない実験で目当てに近づく
能動学習の閉ループ。測る→モデルと不確かさを更新→次の一手を選ぶ→また測る。鍵は②——「いま最良に見える所」と「まだ誰も知らない所」を天秤にかけて、次を決める。

「作って測る」しか手がないとき

出発点は、高くつくブラックボックスだ。組成や条件を入れると、性質が返ってくる。ただし一回の評価(=合成して測定)が高価で、数えるほどしか回せない。全部は試せないが、ここでは、あの安いふるいも使えない——安い代理採点が存在しないからこそ、実験するしかないのだった。

ならば、持っているわずかな測定結果を、最大限に使う。やることは2つ。

この「予測」と「不確かさ」の二枚を持って、次の一手を選ぶ。

賢い一手=「良さそう」と「わからない」の両にらみ

どこを次に試すか。素朴な作戦は2つあり、どちらも単独では負ける。

ベイズ最適化の要は、この2つを一本の物差しに合成することにある。それが獲得関数(acquisition function)だ。予測値(活用)と不確かさ(探索)を一つのスコアにまとめ、それが最大の点を「次の一手」に選ぶ2。代表的な「期待改善量(Expected Improvement)」は、いまの最良をどれだけ上回れそうかを、不確かさまで込みで見積もる——自信を持って良い点も、確信はないが大化けしうる点も、同じ土俵で拾える3。獲得関数には期待改善量のほかにも上側信頼限界やトンプソン抽出など複数あり、探索と活用の傾け方が違う4

そして測ったら、結果をデータに足してモデルを建て直し、また次の一手を選ぶ。この閉ループが、能動学習の正体だ。回すほどモデルは目当ての近くだけ賢くなり、少ない実験で頂上へ寄っていく。

実例——80万通りを、36回で

抽象論で終わらせないために、教科書的な一例を挙げる。Xue らは2016年、熱ヒステリシス(温度を上げ下げしたときの応答のずれ)の小さいNiTi系形状記憶合金を探した。候補となる組成は約80万通り。全部を作って測るなど、当然できない。

彼らは上の閉ループを回した。わずかな初期データからサロゲートと不確かさを建て、獲得関数で「次に作る合金」を提案し、実際に合成・測定し、結果を戻す——これを繰り返す。結果として、9回のループ・合計36個の合成で、当初のデータのどれよりヒステリシスの小さい合金にたどり着いた、と報告している(最小はΔT≈1.84 K)5。80万分の36。桁で言えば、探索空間のほんの一滴しか実際には作っていない。「全部試す」の対極にある勝ち方だ。

これは合金に限った芸当ではない。たとえば電池の電解液探しでも、Dave らはロボット実験とベイズ最適化を組んだ装置で、42回の実験・2営業日で急速充電向けの電解液を見つけた。しかも同じ設計空間でのランダム探索を基準に、約6倍速いと報告している(この6倍は、著者らが代理モデルをブラックボックスに見立ててシミュレーション上で見積もった比較だ)6。「AIで加速」の多くが比較の基準を欠くのに対し、基準を明示して差を出している点は評価できる。

言い換えれば、能動学習が効くのは「良い予測モデルを作ること」そのものが目的ではないからだ。目的は頂上に速くたどり着くこと。だからモデルは、荒野については雑なままでいい——頂上付近さえ賢くなれば勝てる。

どこで転ぶか

万能ではない。むしろ、効く前提を外すと静かに滑る。

これらはどれも、モデルの精度指標には現れない。能動学習の成否は、モデルの賢さより、ループの外側の設計(何を測り、何を目的に据えるか)で決まることが多い1

二つの道具が、そろった

これで、「賢く探す」の二本立てがそろう。

前者は「まとめて落とす」、後者は「逐次で寄せる」。多くの現場は両方を組み合わせる——計算で大きく絞ってから、残った有望域を実験の閉ループで詰める。全部は試せない。だからこそ、一括の目と、逐次の一手、その両方が要るのだ。


能動学習・ベイズ最適化(サロゲートモデル+不確かさ+獲得関数で次の測定点を選ぶ逐次最適化)は、材料探索・実験計画で広く使われる標準的な枠組みである。個別の数値は各脚注の原著に基づき、いずれも著者らの報告として記載した。姉妹記事もどうぞ。一括で絞る話は「ふるい」の漏斗。そもそも「全部試せない」理由は材料の数を数える。実データ側の難所はマテリアルインフォマティクスの本当の難所で扱う。

出典

  1. T. Lookman, P. V. Balachandran, D. Xue & R. Yuan「Active learning in materials science with emphasis on adaptive sampling using uncertainties for targeted design」, npj Computational Materials 5, 21 (2019)。サロゲートの予測と不確かさを効用(獲得)関数と組み合わせ、探索空間を逐次的にたどって候補を絞る枠組みを材料科学の文脈で概説。 https://doi.org/10.1038/s41524-019-0153-8 2

  2. E. Brochu, V. M. Cora & N. de Freitas「A Tutorial on Bayesian Optimization of Expensive Cost Functions…」, arXiv:1012.2599 (2010)。次の観測点を効用に基づいて選ぶ際、「不確かさの高い領域からの探索」と「現時点の最良を上回りうる領域の活用」の両方を考慮する、と定式化。 https://arxiv.org/abs/1012.2599

  3. D. R. Jones, M. Schonlau & W. J. Welch「Efficient Global Optimization of Expensive Black-Box Functions」, Journal of Global Optimization 13, 455–492 (1998)。サロゲート(クリギング/ガウス過程)上で期待改善量(Expected Improvement)を最大化して次点を選ぶ EGO 法の代表的論文。 https://doi.org/10.1023/A:1008306431147

  4. B. Shahriari, K. Swersky, Z. Wang, R. P. Adams & N. de Freitas「Taking the Human Out of the Loop: A Review of Bayesian Optimization」, Proceedings of the IEEE 104(1), 148–175 (2016)。確率的サロゲート+獲得関数で探索と活用を取引する枠組みとして、期待改善量・上側信頼限界・トンプソン抽出などの獲得関数を体系的に概観。 https://doi.org/10.1109/JPROC.2015.2494218

  5. D. Xue, P. V. Balachandran, J. Hogden, J. Theiler, D. Xue & T. Lookman「Accelerated search for materials with targeted properties by adaptive design」, Nature Communications 7, 11241 (2016)。約80万通りの NiTi 系組成から、適応設計(予測→合成→測定→更新の反復)で9ループ・計36個を合成し、当初データより小さい熱ヒステリシス(最小 ΔT≈1.84 K)の合金に到達したと報告。 https://doi.org/10.1038/ncomms11241

  6. A. Dave, J. Mitchell, S. Burke, H. Lin, J. Whitacre & V. Viswanathan「Autonomous optimization of non-aqueous Li-ion battery electrolytes via robotic experimentation and machine learning coupling」, Nature Communications 13, 5454 (2022)。ロボット実験プラットフォーム(Clio)とベイズ最適化(Dragonfly)を組み、2営業日・42回の実験で急速充電向け電解液を特定、ランダム探索に対し約6倍の時間短縮(この6倍は代理モデルをブラックボックスに用いたシミュレーション上の見積もり)と報告。 https://doi.org/10.1038/s41467-022-32938-1

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