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マテリアルズインフォマティクス・材料

AIによる材料発見——ふるいには効くが発見者にはまだ早い

2026/6/21 (更新: 2026/8/3) シリーズ「コンピュータで材料を探す」 第3回 / 全4回

機械学習は、材料探しの「安いふるい」として候補を絞るのに効く。 では、その実力はどこまでか。近年の華々しい見出しを、冷静に検証してみよう。

ここ数年、「AIが材料を発見した」というニュースが立て続けに出た。そのたびに、専門家が中身を見にいき——多くが「実は新しくなかった」ことが分かってきた。これは、AIが材料探しで効く場所盛りすぎる場所を、はっきり教えてくれる。

まず、言葉を分ける——「安定」≠「作れる」≠「役立つ」≠「新しい」

つまずきの根っこは、4つの別々のことを、つい一緒くたにしてしまうことだ。

※ 概念図(フロー) AIが「安定」と予測した数 → 実際にふるいを通る数 ① 計算で安定そう ② 実際に作れる(合成可能) ③ 役に立つ性質を持つ ④ 本当に新しい(既知でない) 見出しは①の数を「新材料の数」として語りがち。 だが①から④までは、何段も関門がある。
「計算で安定」は出発点にすぎない。「作れる」「役立つ」「本当に新しい」は、それぞれ別の、ずっと厳しい関門だ。

「計算で安定そう(①)」は、ただの出発点だ。そこから「実際に作れる(②)」「役立つ性質を持つ(③)」「既知でなく本当に新しい(④)」までには、何段もの関門がある。この関門の連なりは、候補を安いふるいから順に絞り込む漏斗——安いふるいを先に、高いふるいを後に——そのものだ。 ところが見出しは、①の数を「新材料の数」として語ってしまう。この“すり替え”が、近年の3つの出来事すべての火種になった。

3つの実例——華々しい発表と、その後の検証

① グーグルDeepMindの「GNoME」(2023年) 深層学習で220万の結晶構造を予測し、うち約38万が安定と発表。人類が計算で知っていた安定材料をおよそ10倍に増やした、と1。 ——だが2024年、専門家(Cheetham & Seshadri)がChemistry of Materials誌で反論した。多くは「新規性・確からしさ・有用性」を欠き、既知の構造のありふれた元素置換にすぎないものが目立つ。安定の大半は、実は乱れた既知相の整然版ではないか、と2

② バークレーの「A-Lab」(2023年) AIとロボットの自律実験室が、17日で58の標的のうち41の新化合物を合成した、とNatureに発表3。 ——直後から、ロバート・パルグレイブらが「X線データの解析が甘く、多くは既知の物質の取り違え」と公開で指摘。約3分の2は既知の乱れた相だった可能性が高い、と論文化された4。 最終的にNature訂正(Author Correction)を出した(2026年1月オンライン)。論文タイトルから「新規(novel)」の語を削り、訓練データに紛れていた1化合物(Zn₂Cr₃FeO₈)を除外した——これで標的は58→57、報告された成功も41→40件になる。そのうえで訂正後の記載は「57標的のうち36化合物」である。40件のうち36件は判定が正しく、残る4件はX線回折だけでは判定不能、というのが著者らの再解析の結論だ。ここで言う「新規」も「科学的に新しい」ではなく「予測プラットフォームにとって新しい」の意味だった、と著者自身が認めている。撤回ではなく訂正で、議論は今も完全には決着していない4

③ マイクロソフトの「MatterGen」(2025年) 既存候補を“ふるう”のではなく、新しい結晶を生成する拡散モデル。実証として設計・合成された化合物 TaCr₂O₆ が話題になった5。 ——だが2026年、Mikkel Juelsholt がMaterials Horizons誌(査読付き)で指摘した。それは1970年代前半にすでに報告されていた乱れた相と本質的に同じで、MatterGen自身の訓練データにも入っていた——つまり「新発見」ではなく既知物質の言い換えだ、というのだ6

公平に——では、AIは役立たずなのか?

いや、それは違う。

機械学習は、既知の化学の“内側”で、性質を高速に見積もって候補を絞ること(=スクリーニングの“安いふるい”の段)には、実際に強い。GNoMEの予測のうち736件は実験構造データベース(ICSD)の登録構造と一致したと報告されている。ただし論文自身が Methods で、そのうちプロジェクト開始後に新たに報告された物質に対応するのは184件だと書いている——残りは以前から知られていた物質との一致だ1。それでもスクリーニングの加速そのものは本物だが、この736という数字を「発見」の証拠として読むことはできない。

問題は、その強みが「内挿(interpolation)」——学んだデータの周辺をなめらかに埋めること——に偏っていることだ。 一方で見出しが期待させるのは「外挿(extrapolation)」——誰も見たことのない、本当に新しい化学へ大きく踏み出すことだ。ここでのAIの弱さは「まったくできない」という単純な話ではない。一般には、訓練データから遠ざかるほど予測の確からしさは落ちるとされる。だから“新発見”ほど当たり外れが大きくなる。ただしGNoME論文自身は、規模を上げると訓練で見ていない元素数の領域へ一般化する能力が現れる(emergent out-of-distribution generalization)と主張しており、ここは決着していない1。上で見たGNoMEやA-Labの“発見”が検証の段で次々に既知物質へと差し戻された主因として批判側が挙げるのは、内挿か外挿かではない。性質の似た元素が同じ結晶サイトを共有する「乱れ」を予測が扱えず、既知の乱れた相を新しい規則構造と取り違えたこと、そしてX線回折の自動解析が同定に耐えなかったことだ(内挿/外挿という整理は本稿のもので、批判側の診断ではない)。外挿の弱さと合わせて、“新発見”を名乗るにはなお検証が要るということだ。

要するに——AIは、材料探しの速い“ふるい”としては本物だ。だが「発見者」と呼ぶには早い。「計算で安定」と「作って役立つ新材料」の間には、まだ人間の合成と検証が要る、深い谷がある。


出典

  1. GNoME(Google DeepMind), A. Merchant, E. D. Cubuk ら「Scaling deep learning for materials discovery」, Nature(2023年11月)。220万構造を予測・うち新規安定 約38万(381,000)・独立実験で736件を実証。 https://www.nature.com/articles/s41586-023-06735-9 2 3

  2. GNoME批判:A. K. Cheetham & R. Seshadri「Artificial Intelligence Driving Materials Discovery? Perspective on the Article: Scaling Deep Learning for Materials Discovery」, Chemistry of Materials(ACS, 2024)。新規性・確からしさ・有用性(trifecta)の欠如、既知構造のありふれた元素置換・乱れの問題を指摘。 https://pubs.acs.org/doi/10.1021/acs.chemmater.4c00643

  3. A-Lab(バークレー):N. J. Szymanski ら「An autonomous laboratory for the accelerated synthesis of novel materials」, Nature 624, 86–91(2023年11月)。当初「17日・58標的のうち41新化合物」。 https://www.nature.com/articles/s41586-023-06734-w

  4. A-Lab批判と訂正:(批判) J. Leeman, R. G. Palgrave, L. M. Schoop ら「Challenges in High-Throughput Inorganic Materials Prediction and Autonomous Synthesis」, PRX Energy 3, 011002(2024) https://link.aps.org/doi/10.1103/PRXEnergy.3.011002 / (訂正) Nature の Author Correction(タイトルから novel を削除、2026年2月号 650:E1、s41586-025-09992-y):訓練データ混入の Zn₂Cr₃FeO₈ を除外、報告40成功のうち36が正しく4件はXRDのみでは判定不能、「新規」は予測プラットフォームにとっての新規の意。撤回ではなく訂正。 https://www.nature.com/articles/s41586-025-09992-y 2

  5. MatterGen(Microsoft Research):「A generative model for inorganic materials design」, Nature(2025年1月)。Materials Project と Alexandria から再計算した607,683の安定構造(20原子以下)で訓練した拡散モデル。既知の実在物質ではなく計算上の安定構造である点に注意(Alexandria は計算生成のデータベース)。実証化合物 TaCr₂O₆。 https://www.nature.com/articles/s41586-025-08628-5

  6. MatterGen批判:Mikkel Juelsholt(単著)「Continued challenges in high-throughput materials predictions: MatterGen predicts compounds from the training dataset」, Materials Horizons(RSC, 2026, 査読付き)。TaCr₂O₆ は1971年に報告された乱れた相(Ta₁/₂Cr₁/₂O₂)と本質的に同等で、MatterGen の訓練データに存在。 https://pubs.rsc.org/en/content/articlelanding/2026/mh/d6mh00268d

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