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AIの材料発見はどこまで使えるか:効く段階と過大評価の3例

2026/6/21 (更新: 2026/11/3)

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  • 内挿
  • 外挿
  • 体積弾性率
  • 空間群
  • プロトタイプ
  • 第一原理計算
  • TaCr₂O₆
目次
背景・問い・要点
背景

新しい無機材料を探す研究では、計算で候補を絞り込んでから、実験で合成して確かめる。機械学習は性質を速く安く見積もれるので、候補を絞る最初の段に使われる。

ここ数年、「AI(Artificial Intelligence)が材料を発見した」という発表が立て続けに出た。そのたびに専門家が中身を見にいき、多くが「実は新しくなかった」と指摘してきた。

本稿は、材料発見をうたった三つの発表を例に取る。Google DeepMind の GNoME(2023年)、バークレーの自律実験室 A-Lab(2023年)、Microsoft の生成モデル MatterGen(2025年)と、それぞれに学術誌で出た批判である。

問い

AIの材料発見は、材料探しのどの段まで使えるのか。

要点

AIの材料発見は、計算で安定な候補を速く絞る段までは使える。AIはまだ、作れて役立つ新しい材料の発見者と呼ぶには早い。

計算で安定、実際に作れる、役立つ性質を持つ、既知でなく新しい、の四つは別々の関門である。GNoME・A-Lab・MatterGen の三つの発表は、それぞれ後ろの関門で既知の物質との一致や、原子の並びが乱れた相の見落としを指摘された。

モデル・例示

計算で安定な候補の数は、新しい材料の数ではない

※ この節の例は、説明のために作った架空のものです。

候補が通る関門は四つあり、通過率が掛け算で効くので、最初の関門を通った候補の数を、そのまま新しい材料の数と読むことはできない。計算で安定と判定された候補が1万個あるとする。そのうち実際に合成できるものが1000個、合成できたもののうち役立つ性質を確かめられるものが100個、さらに既知の文献やデータベースに載っていない本当に新しいものが10個だとする。

※ 概念図(フロー) AIが「安定」と予測した数 → 実際にフィルタを通る数 ① 計算で安定そう ② 実際に作れる(合成可能) ③ 役に立つ性質を持つ ④ 本当に新しい(既知でない) 見出しでは①の数が「新材料の数」として伝わりやすい。 だが①から④までは、何段も関門がある。 棒の長さは、仮に1万・1000・100・10と段ごとに10分の1へ減るとした数を対数で描いた。
「計算で安定」は出発点で、「作れる」「役立つ」「本当に新しい」は、その先にある別々の関門である。

見出しが「1万個の新材料」と伝えると、読者が受け取る数は、四つの関門をすべて通った10個の1000倍になる。

この仮定の数を並べると、関門の性格は三点に整理できる。

  1. 関門ごとの通過率が掛け算で効くので、最初の関門の数が大きくても、最後まで残る数は桁違いに小さくなりうる。
  2. 最初の関門は計算だけで判定できるので、数を大きく増やせる。後ろの関門ほど一件ごとに合成や測定、文献との突き合わせが要り、数を増やしにくい。
  3. 新しさは、既知の物質の一覧と突き合わせて初めて判定できる。一覧が既知の物質を別の形で載せていると、見かけの新しさが生まれる。

3つの発表は、どの関門で問われたか

三つの発表で問われた関門は、事例ごとに違う。

GNoME(Google DeepMind、2023年)

GNoME では関門①を通った数そのものが見出しになり、実際に作れる構造か(②)、役に立つか(③)、本当に新しいか(④)が問われた。発表によれば、深層学習で220万個の構造が見つかった。これらは、それまでの基準の安定性の境界(凸包。既知の物質のエネルギーから引いた、安定かどうかの境界線)より下だと判定された候補である。基準にしたのは、Materials Project や OQMD(Open Quantum Materials Database)などの計算材料データベースと、実験の構造を集めた ICSD(Inorganic Crystal Structure Database)をまとめたデータだ。新しい発見どうしも安定を競うので凸包は引き直され、その更新後の凸包の上に残る新規材料は約38万である。論文も、この38万は将来の発見で凸包から押し出されうると書き、GNoME 自身が Materials Project と OQMD の「安定」材料を少なくとも5000件、凸包から押し出したのと同様だとしている。計算で安定とされていた材料は約4万8千から42万1千へ、ほぼ一桁拡大したという1。

論文は新規性も数で主張している。発見した安定結晶は、既知の結晶構造の型(プロトタイプ)の置換や列挙からは出てこない4万5500超の新規プロトタイプに対応し、Materials Project の8000に対して5.6倍だという1。

2024年、専門家(Cheetham & Seshadri)がChemistry of Materials誌でこれに反論した。彼らの結論は「新規性・確からしさ・有用性を同時に満たす化合物の証拠は乏しい」で、繰り返し挙げられるのは二点だ。ひとつは既知構造との実質的な同一性で、同じ構造型を対称性だけ下げて別のものとして登録している例がこれに当たる(一覧が既知の物質を別の形で載せると、見かけの新しさが生まれる)。

もうひとつは、実際には乱れているはずの金属イオンを整然と並べた構造がデータベース全体を通じて繰り返し現れることだ。0Kの密度汎関数計算(第一原理計算の代表的な方法)はエントロピーを数えないので、秩序のある解を選んでしまう。彼らはこの偏りの規模も、結晶の対称性の種類である空間群で示している。比べる相手は、実験で報告された無機結晶構造を集めたデータベース ICSD である。予測側では上位4つの空間群がすべて非中心対称(反転の中心を持たない)で、全体の約34%を占める。ICSD では上位24位までに非中心対称の空間群は1つしかなく、1%にとどまる。

彼らが38万4870件から無作為に抜き出した10件は、10件とも ICSD に既知の構造型として見つかった。例に挙げられた ICSD 側の化合物はいずれも組成が違い、σ 相の1件については、この構造の中で新しい組成を見つけられたこと自体は印象的だとも書いている。

そのうえで彼らは、どれにも機能が示されていない以上「材料(material)」とは呼べず、正しくは結晶性無機化合物の提案リストだ、という立場を取る。これは関門③の指摘である。実際この論考は、プロメチウム・アクチニウム・プロトアクチニウムなど放射性元素の化合物が1万8138件、テクネチウム・ネプツニウム・プルトニウムを含むものがさらに2万3529件あり、これらが材料として役立つ見込みは低いと書いている。

ただし同じ論考は、手法そのものは健全だとも書く。新しい組成の多くは既知材料をわずかに手直ししたものにすぎないが、計算手法は全体として妥当な組成を出しており、その基盤は健全だという確信を与える、と。彼らはさらに、予測を既知の文献と突き合わせて本当に新しくないものを濾す作業が要るとし、40万件近い一覧に対してそれを人手で行うのは非現実的だと書いている2。

A-Lab(バークレー、2023年)

A-Lab の争点は、合成できたものの同定(②)と新規性(④)である。AIとロボットの自律実験室が、17日で58の標的のうち41の新化合物を合成した、とNatureに発表した3。

批判は2024年3月に出た。プリンストン大学とユニバーシティ・カレッジ・ロンドン(UCL、University College London)の7人(筆頭はジョシュ・リーマン、責任著者にレスリー・ショープとロバート・パルグレイブ)が、X線データの解析が甘く、多くは既知の物質の取り違えだと指摘する。彼らの結論は「この研究で新材料はひとつも発見されていない」だった。正しく合成されたと認められるのは3件だけで、その場合の成功率は58標的中3件で、5%になる。しかもその3件も、すべて文献に既報の化合物だという。A-Lab が成功とした化合物については、約3分の2が予測された規則構造ではなく既知の乱れた相だった可能性が高い、というのが彼らの読みだ4。

Natureは最終的に、撤回ではなく訂正(Author Correction)を出した(2026年1月オンライン)。論文タイトルから「新規(novel)」の語を削り、訓練データに紛れていた1化合物(Zn₂Cr₃FeO₈)を除外した。これで標的は58→57、報告された成功も41→40件になる。そのうえで訂正後の記載は「57標的のうち36化合物」である。

36という数は、著者らの手作業による再解析から出ている。40件のうち36件は判定が正しく、残る4件はX線回折だけでは判定不能だという。この再解析そのものが公開後にあらためて査読を受けている(Nature は訂正の謝辞で、再解析後の回折データを評価した査読者に触れている)。

「新規」の意味についても、著者自身が「科学的に新しい」ではなく「予測プラットフォームにとって新しい」の意味だったと認めている。同じ弁明は2024年の批判論文が著者らの応答としてすでに記録しており、批判側は、それでも「新規材料」を掲げる題名と要旨は大いに誤解を招くと応じていた4。

ただし批判側の数え方(58標的中3件)と訂正後の数え方(57標的中36件)は、今も揃っていない。揃わないのは、成功の定義が違うからだ。A-Lab 論文は、目標と同じ結晶構造と組成を保つなら部分的に乱れた版ができても成功と数えると Methods に書いており、訂正後の版ではこの定義を本文の冒頭にも置いた3。批判側は、既知の乱れた相ができたなら予測した規則構造は作れていないと数える。同じ回折データが、片方では成功に、片方では失敗に読まれている。

新規性の基準も同じ形で割れる。批判側は、A-Lab が新規性の基準を明示していたことを記録している。標的を Materials Project で「理論上のみ」(ICSD に無い)と印の付いた化合物から選ぶ、という基準だ。そのうえで批判側は、この基準には異論がありうると断る。Materials Project には組成の乱れた化合物が無く、既知でも ICSD に無い化合物、とくに乱れたものは多いからだ。それでも自分たちの評価にはおおむねこの基準を使う、と彼らは書いている4。リーマンらが訂正後に応答した記録は、ここで引いた2出典には無い4。

MatterGen(Microsoft、2025年)

MatterGen については、合成された相の組成(②)、狙った性質で既知の化合物を上回ったか(③)、新規性(④)の三つが問われた。MatterGen は、既存の候補から選ぶのではなく、新しい結晶を生成する拡散モデルである。実証として設計・合成された化合物 TaCr₂O₆ が話題になった。ただしMatterGen論文自身が、実際に作れたのは4候補のうち1つで、しかも出てきたのは予測した規則構造そのものではなくその組成が乱れた版だと書いている5。

2026年、Mikkel Juelsholt がMaterials Horizons誌(査読付き)で、この乱れた相は既知の物質だと指摘した。MatterGen 論文が合成したとする乱れた相 Ta₁/₃Cr₂/₃O₂ は、c軸まわりに90°回せば、1971年に報告済みの Ta₁/₂Cr₁/₂O₂ と同一構造である。Juelsholt 自身、Ta₁/₃Cr₂/₃O₂ という組成そのものは報告例が無いと認めている。固溶体系列の新しい一点を新しい材料と呼ぶかは今も議論があると断ったうえで、彼はこれを、Ta の含量が0.65以下ならルチル構造が CrO₂ まで続く既知の系列の一点にすぎず、真の新化合物とは言えないと退けている。

Juelsholt は、その既知の物質が MatterGen の手元のデータに入っていたことも指摘した。新しさを判定する一覧の側に、既知の物質がすでに入っていたことになる。1971年の化合物の ICSD 登録は、MatterGen が新規性を判定するのに使う参照データセットに入っていた。訓練データの側にも、同じ Ta–Cr 酸化物のルチル構造を、対称性から生成される原子位置をすべて書き出した形(空間群 P1)にしたものが複数入っている(例は Materials Project の2件と、計算材料データベース Alexandria の1件。訓練データ上の表記は TaCrO4)。つまり「新発見」ではなく、手元のデータの言い換えだ、というのだ。

彼は、合成されたという組成にも異を唱えている。MatterGen 論文の著者ら(Zeni ら)が公開した粉末X線回折データを精密化し直すと組成は Ta₀.₄₃Cr₀.₅₇O₂ になり、Ta₁/₃Cr₂/₃O₂ という値は、原子の熱振動の大きさを表す原子変位パラメータを 0 Ų という物理的にありえない値にしていたことから生じた、と彼は見る。測定装置の詳細が書かれていないので自分の値も誤りうると断りつつ、彼は Ta₁/₃Cr₂/₃O₂ は合成できていないと結論している。

Juelsholt は、狙った性質(関門③)でも既知の化合物を上回っていないと指摘する。この実証はもともと体積弾性率200 GPa を狙って生成したものだが、Zeni らの値は、ナノインデンテーションで測った Young 率から推定した体積弾性率で、4回の測定の最大値が169 GPa である(平均は158 ± 11 GPa。粉末試料が緻密でない可能性から、最大値を最良の推定としている)5。既知の Ta₁/₂Cr₁/₂O₂ は焼結体で181 GPa と報告されており、Juelsholt はそちらのほうが硬いと指摘する。

「では二番目に硬い未知の組成を当てたのでは」という擁護も、彼は二点で否定する。Ta₁/₂Cr₁/₂O₂ に近い組成なら硬さもほぼ同じはずでそちらを予測すべきだったこと、そして訓練データに入っていたのは化合物そのものだけで硬さの値ではないことだ。なお、この指摘は公表前に Zeni らへ連絡しないまま出されたと、著者自身が断っている6。

機械学習が実際に速くしたのは、関門①の判定である

AI(Artificial Intelligence)が役に立たないわけではない。機械学習は、既知の化学の範囲で性質を高速に見積もって候補を絞ること、つまりスクリーニングで最初に置く安い判定の段には、実際に強い。計算だけで判定できるので、数を大きく増やせる段である。GNoME 論文はこの段の性能を的中率で書いている。予測した候補が第一原理計算で安定と確かめられた割合は、構造を与えた場合で80%超、組成だけの場合は1組成あたり100通りの構造を試して33%で、先行研究の1%から上がった1。ただしこれは計算上の安定(①)に対する的中率であって、作れるか(②)の的中率ではない。

ICSD との一致の数は、発見の数としては読めない。GNoME 論文によれば、予測のうち736件が ICSD の登録構造と一致した。そのうちプロジェクト開始後に新たに報告された物質に対応するのは184件だと、論文自身が Methods に書いている。残りは以前から知られていた物質との一致だ1。スクリーニングの加速そのものは本物だが、この736という数字を「発見」の証拠として読むことはできない。

GNoME・A-Lab の結果が既知の構造型や既知物質だと判定された主因として批判側が挙げるのは、内挿か外挿かではない。性質の似た元素が同じ結晶サイトを共有する「乱れ」を予測が扱えず、既知の乱れた相を新しい規則構造と取り違えたこと、そしてX線回折の自動解析が同定に耐えなかったことだ。乱れの取り違えは GNoME 批判の側も名指ししていて、彼らは同じ問題が A-Lab を論じた別の論考でも指摘されていると書き添えている2。

批判側の診断とは別に、本稿の整理として、学習の仕方にも新しい化学ほど当たり外れが大きくなりうる理由がある。機械学習の強みは内挿(interpolation)、つまり学んだデータの周辺を埋めることに偏っている。見出しが期待させるのは外挿(extrapolation)、つまり誰も見たことのない化学への予測だ。GNoME 論文自身も、新しい構造やプロトタイプはモデルにとって本質的に分布の外にあると書き、そこでも妥当な予測が出ることを「望む」と述べて、試験時の補正を加えている1。新しい発見ほど当たり外れが大きくなりうるのは、このためだ。ただし同じ論文は、規模を上げると訓練で見ていない元素数の領域へ一般化する能力が現れる(emergent out-of-distribution generalization)と主張しており、ここは決着していない1。

批判の側は、新しさを確かめる手間にも触れている。Juelsholt は、MatterGen が自分の訓練データと自分の予測を区別できない以上、新規性を担保するには予測1件ごとに人が確かめるしかなく、それが売りだったはずの高速な予測を妨げる、と述べる。そのうえで彼は、これを1つのモデル固有の欠陥ではなく、結晶学と原子の乱れという概念に生成AIツールが総じてつまずいている例として位置づけた6。


出典6件
  1. A. Merchant ほか「Scaling deep learning for materials discovery」Nature, 2023. https://www.nature.com/articles/s41586-023-06735-9 — 先行研究に照らして安定な220万構造と、更新後の凸包に残る38万1000件を報告。ICSD と一致した736件のうちプロジェクト開始後の報告は184件。 ↩ ↩2 ↩3 ↩4 ↩5 ↩6

  2. A. K. Cheetham, R. Seshadri「Artificial Intelligence Driving Materials Discovery?」Chemistry of Materials, 2024. https://pubs.acs.org/doi/10.1021/acs.chemmater.4c00643 — 無作為10件は構造型がすべて ICSD に既知で、乱れるべき金属配置の規則化を指摘。手法は健全とする。 ↩ ↩2

  3. N. J. Szymanski ほか「An autonomous laboratory for the accelerated synthesis of novel materials」Nature, 2023. https://www.nature.com/articles/s41586-023-06734-w — 原版の表題。2026年の訂正で novel を inorganic に改め、57標的中36化合物とした。 ↩ ↩2

  4. J. Leeman ほか「Challenges in High-Throughput Inorganic Materials Prediction and Autonomous Synthesis」PRX Energy, 2024. https://link.aps.org/doi/10.1103/PRXEnergy.3.011002 — 新材料はひとつも無いとする批判。2本目は2026年の訂正。 https://www.nature.com/articles/s41586-025-09992-y ↩ ↩2 ↩3 ↩4

  5. MatterGen(Microsoft Research)「A generative model for inorganic materials design」Nature, 2025. https://www.nature.com/articles/s41586-025-08628-5 — 新規性などで絞り専門家の目視で選んだ4候補を合成にかけ、成功は1件で、規則構造の組成が乱れた版を得た。体積弾性率は最大169 GPa。 ↩ ↩2

  6. M. Juelsholt「Continued challenges in high-throughput materials predictions」Materials Horizons, 2026. https://pubs.rsc.org/en/content/articlelanding/2026/mh/d6mh00268d — 単著。合成された相は1971年報告の化合物と同一構造で、既知のほうが硬い(181 GPa、文献34の焼結体)と指摘。 ↩ ↩2

この記事はAIを使用して執筆されました。内容には誤りが含まれる可能性があります。事実や数字の出典は脚注から確かめられます。