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AIエージェントとは何か——LLMをループと道具で包んだもの

2026/6/21 (更新: 2026/7/25) シリーズ「AIエージェントは、実際どう動くのか」 第1回 / 全4回

目次

「AIエージェント」という言葉を、最近よく聞くようになった。 チャットAIに質問すれば答えが返ってくる——それは、もう驚かない。では「エージェント」は何が違うのだろうか。

このシリーズは、その中身を、実践と研究の両面から、忖度なく見ていく。その出発点、いちばんの土台が=「エージェントとは何か」である。

まず、LLM単体は「言葉の続きを予測する機械」

土台を確認する。ChatGPTのようなAIの中身は LLM(大規模言語モデル:大量の文章で訓練され、次に来る言葉を確率で予測するAI) である。 LLMは、ものすごく流暢に文章を続けられる。でも、それ「だけ」では——自分では何もできない。ウェブを検索できない。計算を実行できない。書いたコードを走らせて結果を確かめられない。学習した時点の知識で止まっていて、今日の天気も知らない。

つまり、LLM単体は「考える(っぽいことを言う)」ことはできても、「行動して、確かめる」ことができないのである。

エージェント=LLMを「ループ」と「道具」で包んだもの

ここを埋めるのが「エージェント」である。発想は驚くほど素直で、LLMをループの中に置き、道具(ツール)を持たせる。

考える → 道具を使う(行動)→ 結果を観察する → また考える → …(目的を達するまで繰り返す)

人が問題を解くときと同じである。頭の中だけで完結させず、調べて、試して、結果を見て、修正する。エージェントとは、LLMにこの「行ったり来たり」をさせる仕組みなのである。

鍵になった研究:「考える」と「動く」を交互に——ReAct

この「考えながら動く」を明確に形にしたのが、ReAct(Yao ら、2022年公開・ICLR 2023採択)という研究である1。 やり方はこうだ——LLMに、思考(Thought)→ 行動(Action)→ 観察(Observation) を交互に出力させる。

例えば「Aさんが受賞した賞の、前年の受賞者は誰?」を解くとき:

ReActが示した大事な点は、「考えるだけ」より「考えながら動く」方が、嘘(ハルシネーション)や誤りの積み重なりが減ることだった1。質問応答(HotpotQA)と事実検証(FEVER)での評価で、思考のみの場合に目立った失敗様式が抑えられた、という報告である。頭の中だけで推論を続けると、AIは事実をでっち上げがちである。でも途中で外の世界に問い合わせて答え合わせをすれば、軌道修正できる。これは「生成より検証」という考え方と、まさに地続きである。ただし、ReActが総合スコアでいつも上回るわけではない——HotpotQAの正答率ではCoT単独の方がわずかに上で、最良は両者を組み合わせた手法だった1

なぜ「道具」がそんなに効くのか

道具の本質は、LLMの“凍りついた頭”の外に出られることにある2。 モデルの知識は訓練時点で固定され、あとから簡単には変えられない。でも、検索という道具があれば今の情報にアクセスでき、計算機があれば正確な計算ができ、コード実行があれば本当に動くか確かめられる。道具は、賢さの“量”ではなく“種類”を増やすのである。

(なお、「エージェント=LLM+計画+記憶+道具」という整理は、Lilian Weng の有名な解説3で広まったものである。ただし——これは出典の主張ではなく筆者の補足だが——「エージェント」に厳密な学術的定義があるわけではなく、ゆるやかな共通理解にとどまる、という点も正直に添えておく。)

……ただし、ここに落とし穴もある

ループと道具で、LLMは「行動できるAI」になった。デモを見ると、まるで万能の助手のようである。 だが——難しいのはここからだ。考える→動く→観察するを何十回も繰り返すと、各ステップのわずかな失敗が積み重なっていく——という機構の説明は筆者のものだ。METR が実際に測ったのはステップごとの失敗率ではなく、人間なら何分かかるタスクかと成功率の関係で、人間換算で長いタスクほど成功率が下がると報告している4。ただし測定対象は、ソフトウェアやML研究の課題を集めたベンチマーク(RE-Bench、HCASTなど)であり、同論文自身、この結果を実務の仕事へそのまま外挿できるかには限界があると論じている。デモの華々しさは、長いタスクを完遂できることの保証にはならない。


出典

  1. ReAct: S. Yao et al., “ReAct: Synergizing Reasoning and Acting in Language Models”, arXiv:2210.03629 (2022, ICLR 2023)。PaLM-540Bを用いたHotpotQA(質問応答)・FEVER(事実検証)・ALFWorld・WebShopでの評価で、思考のみ(Chain-of-Thought)に目立ったハルシネーションと誤りの伝播を、Wikipedia APIへの問い合わせを挟むことで抑えられると報告。ただしHotpotQA単体の正答率(EM)はReAct単独27.4に対しCoT単独29.4で、ReActがわずかに下回る。最良の結果は両者を組み合わせた手法だと同論文は報告している。 https://arxiv.org/abs/2210.03629 2 3

  2. Toolformer: T. Schick et al., “Toolformer: Language Models Can Teach Themselves to Use Tools”, arXiv:2302.04761 (Meta, 2023)。道具は、訓練後は変えにくいモデルの重みの外側にある情報・計算能力を補う。 https://arxiv.org/abs/2302.04761

  3. エージェント=LLM+計画+記憶+道具という整理:Lilian Weng, “LLM Powered Autonomous Agents”, Lil’Log (2023)。この三要素の枠組みを広めた解説。(「エージェントに厳密な学術的定義はない」は本文筆者の補足であり、同記事の主張ではない。) https://lilianweng.github.io/posts/2023-06-23-agent/

  4. METR (Thomas Kwa, Ben West, Joel Becker ほか), “Measuring AI Ability to Complete Long Software Tasks”, arXiv:2503.14499 (2025, NeurIPS 2025)。2025年3月時点で評価されたモデル(Claude 3.7 Sonnet など)では、人間換算4分未満のタスクの成功率がほぼ100%、4時間規模では10%を下回ったと報告。ただし同論文の主結果は「50%の成功率でこなせるタスクの長さ」が2019年以降およそ7か月で倍増してきたという傾向であり、上の数字は測定時点のスナップショットで、本記事更新時点の最新モデルの数値ではない。測っている軸は人間換算の所要時間(タスクの「複雑さ」ではない)で、成功率は対数タスク長に対するロジスティック回帰でよく当てはまると報告する——曲線の形そのものを実測したのではなく、観測データに当てはめたモデルである。評価対象はRE-Bench・HCASTと66個の短時間タスクからなる課題群で、同論文は結果の外的妥当性の限界を自ら論じている。 https://arxiv.org/abs/2503.14499

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