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第一原理計算とは:原子の並びから性質を予測する仕組みと使い道

2026/11/5 シリーズ「第一原理計算入門」 第1回 / 全1回

シリーズ第一原理計算入門全1回
  1. 第1回第一原理計算とは:原子の並びから性質を予測する仕組みと使い道

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目次
背景・問い・要点
背景

材料開発では、新しい材料を使えるようにするために、材料を作り、その構造と性質を測り、製品に使えるかを確かめる。この手順は一回ごとに時間と費用がかかる。米国政府は 2011 年に、新しい種類の材料が研究から最初の実用に至るまでに、典型的には 10〜20 年かかると書いた1。そこで、作る前にコンピュータで性質を見積もり、作る候補を絞る方法が使われている。その中心的な方法の一つが第一原理計算である。

第一原理計算とは、原子の種類と並びを入れて、量子力学の方程式を近似的に解き、材料の性質を見積もる計算をいう。英語では first-principles calculation、あるいは ab initio(「初めから」の意味)計算と呼ぶ。対象の材料の実測値を使わずに、物理の基本の法則から解く点が名前の由来である。結晶のように原子が周期的に繰り返す物質では、密度汎関数理論(DFT、density functional theory)が第一の選択とされる2。

問い

第一原理計算は、材料を作る前に、何をどこまで見積もれる計算なのか。

要点

第一原理計算は、原子の種類と並びを入れて量子力学の方程式を近似的に解き、作る前に、原子の並び・電子のエネルギー・化合物のできやすさを見積もる計算である。

入れるのは、出発の構造、物理の近似の選択、数値の細かさの三つで、返ってくるのは、その並びの全エネルギーと、原子に働く力と、電子がとりうるエネルギーである。並びを少しずつ変えて計算すれば、出発の構造の近くでエネルギーが低くなる並びを探せる。

答えは近似の選び方で同じ向きに偏ってずれ(系統的なずれ)、その分を見込んでも材料ごとの差は残る。研究者は、同じ量を実験で測った値と照らしてずれを見込み、作る候補を絞る判断に使う。

モデル・例示

太陽電池の材料の候補を、作る前に計算で絞る

※ この節の例は、説明のために作った架空のものです。

第一原理計算は、作って測る前に、候補の数を計算で減らすために使われる。ただし、計算の答えには近似による系統的なずれがあるので、研究者は、測った値が分かっている材料でずれを確かめてから使う。

ある研究者が、太陽電池で光を吸う層の材料の候補を、いくつか考えているとする。光を吸う層の材料では、太陽の光のどの波長から先を吸うかが大事で、それを決めるのが、電子がとりうるエネルギーの隙間、バンドギャップである。研究者はまず、測った値がよく知られたシリコンで、計算のずれを確かめる。

  1. 1. 測った値が分かっているシリコンで、PBE という近似を使ってバンドギャップを計算する
  2. 2. バンドギャップは約 0.62 eV と返す。測った値の 1.12 eV より小さい
  3. 3. 候補の結晶ごとに、原子の並びを入れ、同じ近似と細かさでバンドギャップを計算する
  4. 4. 候補ごとのバンドギャップの見積もりを返す
  5. 5. 小さく出るずれを見込んで、バンドギャップが目当ての幅に入る少数だけを作るよう頼む
  6. 6. 作った結晶の、X 線回折と光の吸収の測定の結果を返す

シリコンの約 0.62 eV は、VASP(Vienna Ab initio Simulation Package、第一原理計算のソフトの一つ)の公式の練習問題で、PBE(Perdew-Burke-Ernzerhof)という近似で計算した値である3。室温で測ったシリコンのバンドギャップは 1.12 eV で4、計算は半分ほどに小さく出ている。

研究者は、この近似の答えをそのまま信じず、小さく出る傾向を見込み、候補ごとの差も残るものとして幅を持たせて読む。別の近似で計算し直して、答えの幅を確かめることもある。同じ練習問題で PBE0 という近似を使うとバンドギャップは 1.84 eV で、シリコンでは測った値より大きく出る3。

どの候補を作るかの最終の判断は、計算の見積もりに、作れるかどうか、原料の値段などを加えて研究者が行う。計算の役目は、作る前の絞り込みと、測った結果の読み解きである。

材料の研究は何を知りたいのか:作り方・構造・性質・性能

材料の研究は、作り方が構造を変え、構造が性質を決め、性質が使ったときの性能につながる、という関係を調べる仕事である。材料科学の教材は、作り方が構造を変え、構造が性質を決め、性質の組み合わせが性能に結びつく、と説明する5。四つのどれも互いに関わっている56。

実験では、作った試料の構造を測る装置と、性質を測る装置を使う。結晶の原子の並びの間隔は、X 線を当てて、強く返ってくる角度から読む(X 線回折)。バンドギャップは、光を当てて、どの波長から吸われ始めるかで見積もる。どれも、まず試料を作らないと測れない。

第一原理計算が主に扱うのは、このつながりのうち、原子の並びから性質への部分である。計算材料科学の総説は、組成(どの元素がどれだけ入っているか)と構造と性質の間の、しばしば隠れた関係を計算で解き明かすことを、主な仕事の一つに挙げる2。同じ総説は、多くの材料で、原子の尺度の現象と実用の性質のつながりは組織に強く左右されると書く2。作り方そのもの(どの温度で焼けばその構造になるか)は、第一原理計算だけでは答えにくい7。

第一原理計算とは:対象の実測値を使わず、量子力学の原理から解く

材料の性質の多くは、原子核の周りにいる電子のふるまいで決まる。電気を通すか、光をどの波長から吸うか、原子どうしがどれだけ強く結びつくかは、どれも電子が決める。第一原理計算は、その電子を量子力学の方程式で解く。

量子力学では、電子は波としてもふるまい、原子や結晶の中で電子がとりうるエネルギーは、飛び飛びの値に限られる。この値をエネルギー準位という。エネルギーの単位には、eV(電子ボルト。電子 1 個を 1 ボルトの電圧で動かしたときのエネルギー)をよく使う。バンドギャップは、電子で埋まった準位と、空の準位の間の隙間である。

ここでいう「第一原理」は、物理の基本の法則(量子力学と、電子と原子核の間の電気の力)から出発することを指す。古典的な計算では、原子どうしの力を表す式を、実験や第一原理計算の値に合うように前もって調整して使う。第一原理計算は、対象の材料の実測値が無くても答えを出せる。だから、まだ誰も作っていない材料にも使える。

ただし、方程式をそのまま厳密に解くことはできない。電子は互いに電気の力で影響し合うので、全部の電子の組み合わせを一つの波で表そうとすると、電子の数が増えるにつれて手間が爆発的に増えるからである。そこで実際の計算では近似を入れる。DFT は、全部の電子をまとめて表す一つの波の代わりに、空間の各点に電子がどれだけいるかを表す電子密度と、電子一つずつの独立した波を使って解く2。そのとき、電子どうしの影響の扱いの一部を、簡単な式で置き換える。その置き換え方が「近似の選択」である。代表的な近似の系統は二つあり、各点の電子密度だけを使う LDA(local density approximation、局所密度近似)と、密度の変わり方(傾き)も使う GGA(generalized gradient approximation、一般化勾配近似)である。PBE は GGA の一つで、Materials Project の計算も GGA を基本にしている8。DFT の考え方は、別の回で詳しく扱う。

近似を入れるので、答えは近似の選び方によって変わる。また、公開のデータベースの値には、計算の値に、実験に合わせて決めた補正をかけたものもある9。「対象の実測値を使わない」は、計算したい材料そのものの測った値を使わない、という意味で、データベースの値を読むときは、補正がかかっているかを確かめる。

何を入れて何が返るか:シリコンの入力と出力

第一原理計算に入れるのは、出発の構造、物理の近似の選択、数値の細かさの三種類である7。返ってくるのは、その並びの全エネルギーと、原子に働く力と、電子がとりうるエネルギーである。

具体例として、Quantum ESPRESSO(第一原理計算の無償のソフト)が配布している例題のうち、シリコンの結晶を計算する入力を見る10。入力は次のとおりで、計算の種類と出力の指定(&control)、繰り返しの進め方(&electrons)のまとまりと、点の一覧の 10 行を省いて示す。

 &system
    ibrav=  2, celldm(1) =10.20, nat=  2, ntyp= 1,
    ecutwfc =18.0,
 /
ATOMIC_SPECIES
 Si  28.086  Si.pz-vbc.UPF
ATOMIC_POSITIONS alat
 Si 0.00 0.00 0.00
 Si 0.25 0.25 0.25
K_POINTS
  10
  (計算に使う点の座標と重み、10 行)

入力の各行は、三種類のどれかに当たる。

入れるもの例題の中で当たる行
出発の構造結晶の形の種類(ibrav)、単位格子(繰り返しの単位)の大きさ(celldm。原子の単位で 10.20、約 5.40 Å)、原子の数(nat)、元素の種類と質量(ATOMIC_SPECIES の Si と 28.086)、原子の位置(ATOMIC_POSITIONS)
物理の近似の選択原子ごとに使う擬ポテンシャルのファイル(Si.pz-vbc.UPF)。擬ポテンシャルは、原子核と内側の電子をまとめて、外側の電子が感じる力に置き換えたもので、それ自体も近似である。シリコンの例題では、このファイルが、電子どうしの影響の近似として LDA(ファイル名の pz)を選んでいる
数値の細かさ電子の波をどこまで細かく表すか(ecutwfc、エネルギーの単位 Ry で 18.0)と、結晶の中の電子の波の種類を代表させるために選ぶ点(k 点と呼ぶ)の数(K_POINTS の 10 点。原子の位置とは別の点)
入力の三種類と、例題の中で当たる行

シリコンの結晶は、二つの原子の組が規則正しく繰り返す形をしている。入力に書くのは、単位格子一つ分の原子の並びだけで、計算は、それが無限に繰り返していると考えて解く。無数にある原子を全部書く必要はない。

この入力を計算した、配布元の参照の出力(2016 年の版で計算したもの)からは、次の値が読める10。

参照の出力では、答えが落ち着くまでの繰り返しは 6 回だった10。電子の分布を仮に決めて解き、解いた結果で分布を直す、を答えが変わらなくなるまで繰り返す。

全エネルギーは、計算の上での、外側の電子と、原子核と内側の電子をまとめた部分のエネルギーの合計である。シリコンの例題で数える電子は、2 原子の 28 個のうち 8 個である。値の基準は、使う擬ポテンシャルや計算の細かさによって変わるので、値そのものはそれだけでは意味を持ちにくい。意味を持つのは、同じ条件で計算した二つの並びの差である。VASP の文書も、計算の細かさがそろっていない全エネルギーどうしは比べられないと注意している12。原子の並びを少しずつ変えて全エネルギーの差を比べれば、比べた並びのうちどれが安定か、どれだけ強く結びついているかが分かる。

何がわかるか:三つの量と、実験での測り方

第一原理計算で求められる量は多いが、入り口として、並び・電子・できやすさを代表する三つの量に絞って追う。三つとも、実験で測れて、計算でも基本として求める量である。

量実験で測るもの
格子定数(原子の並びの繰り返しの間隔)X 線を当てて、強く返ってくる角度から間隔を読む(X 線回折)
バンドギャップ(電子がとりうるエネルギーの隙間)光を当てて、どの波長から吸われ始めるかで見積もる
生成エネルギー(化合物のできやすさ)元素から化合物ができるときに出入りする熱を測る
三つの量と、実験で測るもの

光の吸収でバンドギャップの大きさを見積もれるのは、光の粒(光子)のエネルギーが隙間より大きいときにだけ、埋まった準位の電子を空の準位へ持ち上げられて、光が吸われるからである。こうして光で見積もった隙間を光学ギャップと呼ぶ。計算の準位の差から読む隙間と、そのまま同じ量とは限らない。光のエネルギーは波長が短いほど大きいので、バンドギャップの大きさが、どの波長より短い光から吸われるかを決める。シリコンの 1.12 eV は波長で約 1100 nm にあたり、それより長い波長の光は吸われずに通り抜ける。

計算では、格子定数は、単位格子の大きさを変えながら全エネルギーを計算し、最も低くなる大きさとして求める。バンドギャップは、電子がとりうるエネルギーの準位のうち、埋まったものと空のものの差から読む。生成エネルギーは、化合物の全エネルギーと、元素のままの全エネルギーの差から求める。この値は元素と比べたものなので、化合物が安定かどうかは、同じ元素からできる他の化合物とも比べて決まる13。三つとも、同じ全エネルギーと準位の計算から出てくる。

三つの量は、計算と実験の間で、同じ量とは限らない。標準の計算は、温度が 0 K(絶対零度)で、欠陥の無い完全な結晶を扱う。Materials Project のデータベースも、すべての計算を 0 K・0 気圧で行っている8。実験は、温度があり、欠陥を含む本物の試料を測る。

バンドギャップについては、Materials Project の文書は、ファンダメンタルギャップ(fundamental gap。電子を一つ取り去るのと加えるのに要るエネルギーの差)と、光で測る光学ギャップを区別し、差は半導体では小さく、絶縁体では大きくなりうると書く14。計算で読むバンドギャップは準位の差である。同じ文書は、いちばん上の埋まった準位のほかは、DFT の準位が測れる量に対応する保証は無いとしたうえで、それでも有用な情報は得られると書く14。比べるときは、何と何を比べているかを確かめる。

どう使われているか:計算済みのデータベースと、予測の確かめ

第一原理計算は、一つの材料を詳しく調べるためにも、多くの候補を一度に調べるためにも使われる。後者の代表が、計算の結果を大量に集めて公開するデータベースで、Materials Project・AFLOW・OQMD などがある7。

米エネルギー省の事業である Materials Project は、材料の性質を前もって計算して公開し、材料の発見を速めることを目的に掲げる15。Materials Project の計算は VASP の DFT で行われている8。研究者は、計算済みの値を引いて、候補を作る前に絞ることができる。

計算の予測が後の実験で確かめられた例もある。2016 年の総説は、電池、水素の製造と貯蔵、超伝導(電気抵抗が 0 になる現象)、太陽電池、熱を電気に変える材料について、DFT による予測が後に実験で確かめられた研究をまとめ、同時に、材料の設計に使うときの DFT の得意と限界を論じている7。

たとえば 2010 年の計算は、高圧でできる FeB4(鉄とホウ素の化合物)が 15〜20 K で超伝導を示すと予測し、後に合成された物質は 3 K 未満で超伝導を示した7。物質は作れたが、温度はずれた例である。同じ総説は、設計の全部を計算で行うのではなく、実験を絞り込むことがほぼ常に目的だと書く7。

米国政府の 2011 年の計画は、全米研究評議会の報告から、計算の道具と情報を工学の道具と組み合わせれば、材料の開発の周期を 10〜20 年から 2〜3 年に縮められるという見通しを引く1。計画自身は、実際の短縮を見通すのは難しいとしたうえで、目標を 50% を超える短縮に置いている1。どちらも見通しと目標で、実際にどれだけ縮んだかを示す値ではない。

何がわからないか:近似・温度・扱える範囲

第一原理計算の答えは、近似の選び方で系統的にずれ、ずれの大きさは量によって違う。格子定数は数パーセントより良い精度で求まる2。生成エネルギーの誤差は、酸素や窒素のような気体の元素や一部の遷移金属を含む化合物で、原子あたり数百 meV(meV は eV の千分の一)になりうるが、実験に合わせた補正で平均 50 meV 以下まで下げられる9。

LDA や GGA(PBE を含む)の近似で計算すると、バンドギャップは実験よりかなり小さく出る、と Materials Project の文書は書き、237 の化合物で計算と実験を比べた自らの検証では約 4 割小さかったと報告している14。シリコンでも、PBE で計算した隙間は約 0.62 eV で、室温で測った 1.12 eV の半分ほどに出る34。Materials Project の同じ比較では、この平均の割合で直しても平均 0.6 eV のずれが残り、電気を通さないと知られた物質(絶縁体)のいくつかが金属と予測された14。小さく出る原因として、Materials Project の文書は近似の式のほかに、本来の理論の式が電子の総数について連続につながっていないことを挙げ、こちらのほうが大きいと一般に見られていると書く14。

計算材料科学の総説も、選んだ近似の正確さを、実験の値と照らして注意深く確かめることが極めて重要だと書く2。

標準の計算が直接扱うのは、0 K の、欠陥の無い結晶である。温度による原子の揺れや、試料の中の欠陥・結晶の粒の境目の影響は、計算する原子の数を増やすなどの手当てを加えないと入らない。計算できる原子の数には限りがあり、標準的な方法では原子の数が増えると手間が急に増える。

計算だけで決めにくいのは作り方である。2016 年の総説は、水素貯蔵の材料の例から、DFT は新しい材料の性能をよく予測できても、その性能を実際に出すための作り方の条件はたいてい決められないと書く7。エネルギーの上で有利な化合物でも、反応が遅ければ実際にはできないことがある。作れるかどうかは、実験で確かめる。

このシリーズで扱うのは、周期的に繰り返す結晶を、DFT で、平面波(波長の違う波)の足し合わせで電子の波を表す方式で解く計算である。これは、VASP と Quantum ESPRESSO に共通する方式である。分子を対象にする計算や、原子の周りに局在した関数を使う方式は扱わない。

第一原理計算の代表的なソフト:利用の実績と方式

結晶の第一原理計算のソフトは一つではない。公開されている計算機センターの利用の統計では VASP が最も多く、FHI-aims・CASTEP・CP2K・Quantum ESPRESSO などがそれに続く。ソフトによって、電子の波の表し方(方式)とライセンスが違う。

利用の多さの目安として、英国の国のスーパーコンピュータ ARCHER2 の 2026 年 9 月の利用時間では、VASP が 20.6% で最も多く、DFT のソフトでは FHI-aims 3.6%、CASTEP 2.1%、CP2K 1.7%、Quantum ESPRESSO 1.4% が続いた16。米国の NERSC の 2018 年のデータでも VASP が 19.8% で 1 位で、CP2K 1.9%、Quantum ESPRESSO 1.8% だった17。ただし、英国の計算機では英国で生まれた CASTEP などが多めに出やすいので、2 位から下の順は国や施設によって入れ替わる。

ソフト方式とライセンス
VASP平面波と PAW(projector augmented wave、擬ポテンシャルの方式の一つ)18。有償で、研究グループ単位のライセンス19
Quantum ESPRESSO平面波と擬ポテンシャル20。GNU GPL(General Public License、版 2)の無償のソフト21
CASTEP平面波と擬ポテンシャル22。学術の利用は無償、商用は BIOVIA Materials Studio の一部として販売23
CP2Kガウス関数と平面波を組み合わせる方式24。GPL の無償のソフト
FHI-aims原子の周りに局在した数値の関数で、内側の電子まで含めて解く(全電子)25。学術のライセンスは有償だが、支払いは任意26
ABINIT平面波と擬ポテンシャル、または PAW27。GPL の無償のソフト28
SIESTA原子の周りに厳密に局在した軌道を使い、大きな系を扱いやすい29。オープンソース
WIEN2k全電子の (L)APW((linearized) augmented plane wave、補強した平面波)法。結晶の計算のソフトで、開発元はバンドの計算で最も精度の高い方式の一つとする30
OpenMX原子の周りに局在した関数と擬ポテンシャル31。GPL の無償のソフト
結晶の第一原理計算の代表的なソフトと、方式・ライセンス

方式の違いは、主に電子の波をどう表すかにある。平面波の方式(VASP・Quantum ESPRESSO・CASTEP・ABINIT)は、擬ポテンシャルと組み合わせて結晶を解く。原子の周りに局在した軌道を使う方式(SIESTA・OpenMX)もある。SIESTA の開発元は、厳密に局在した原子軌道を使うことが、大きな系を効率よく扱える理由だと説明する29。全電子の方式(FHI-aims・WIEN2k)は、擬ポテンシャルを使わずに内側の電子まで解く。

このシリーズでは、例に VASP と Quantum ESPRESSO の二つを使う。説明するのが平面波の方式なので、その方式で最も使われている VASP と、同じ方式で無償で手元で動かせる Quantum ESPRESSO を選んだ。CASTEP と ABINIT も同じ平面波の方式なので、以下の回の説明の多くはそのまま当てはまる。

二つのソフトは書き方が違うが、入れるものの三種類と、返ってくる全エネルギー・力・準位は共通している。

計算の入力には、原子の種類と、単位格子の中での原子の並びを書いた。では、本物の結晶で原子がどう並んでいるかは、実験でどうやって調べるのか。そこで最初に出てくるのが、三つの量の一つ目、単位格子の大きさを表す格子定数である。

出典32件
  1. NSTC「Materials Genome Initiative for Global Competitiveness」2011年6月、2026年11月5日取得. https://obamawhitehouse.archives.gov/sites/default/files/microsites/ostp/materials_genome_initiative-final.pdf — 研究から最初の利用まで典型的に約 10〜20 年。2〜3 年に縮めうるという見方を引き、目標は 50% 超の短縮 ↩ ↩2 ↩3

  2. J. Neugebauer, T. Hickel「Density functional theory in materials science」WIREs 3, 438(2013)、2026年11月4日取得. https://doi.org/10.1002/wcms.1125 — 周期的な結晶では DFT が第一の選択。格子定数の精度は数パーセントより良い。近似を実験と照らすことが重要 ↩ ↩2 ↩3 ↩4 ↩5 ↩6

  3. VASP「Hybrid functionals, Part 1」VASP Tutorials、2026年11月4日取得. https://www.vasp.at/tutorials/latest/hybrids/part1/ — シリコンのバンドギャップは PBE で 0.616 eV、PBE0 で 1.842 eV(格子 5.469 Å、規則的な k 点の上の値) ↩ ↩2 ↩3

  4. Ioffe Institute「Band structure and carrier concentration of Silicon」NSM Archive、2026年11月4日取得(保存版). https://web.archive.org/web/20261025044700/https://www.ioffe.ru/SVA/NSM/Semicond/Si/bandstr.html — 300 K でのバンドギャップは 1.12 eV ↩ ↩2

  5. University of Pittsburgh, Wiezorek group「Teaching」2026年11月4日取得. https://www.engineering.pitt.edu/subsites/Labs/wiezorek/teaching/ — 作り方が構造を変え、構造が性質を決め、性質が性能に結びつく。構造は原子の尺度からミリより小さい組織まで含む ↩ ↩2 ↩3 ↩4

  6. Penn State「Materials Science and Engineering」MATSE 81、2026年11月4日取得. https://courses.ems.psu.edu/matse81/node/2094 — 構造・性質・作り方・性能は互いにつながる ↩

  7. A. Jain ほか「Computational predictions of energy materials using density functional theory」Nat. Rev. Mater. 1, 15004(2016). https://doi.org/10.1038/natrevmats.2015.4 — 実験で確かめられた予測の総説。入力の分類、FeB4 の例、作り方の条件の難しさ ↩ ↩2 ↩3 ↩4 ↩5 ↩6 ↩7

  8. Materials Project「Calculation Details」Materials Project Documentation、2026年11月4日取得. https://docs.materialsproject.org/methodology/materials-methodology/calculation-details — DFT の計算は VASP で行い、すべて 0 K・0 気圧 ↩ ↩2 ↩3

  9. A. Wang ほか「A framework for quantifying uncertainty in DFT energy corrections」Sci. Rep. 11, 15496(2021). https://doi.org/10.1038/s41598-021-94550-5 — 補正を実験に合わせて決める。誤差は数百 meV になりえ、補正で平均 50 meV 以下 ↩ ↩2

  10. Quantum ESPRESSO「PW/examples/example01」qe-7.4.1、2026年11月5日取得. https://github.com/QEF/q-e/tree/qe-7.4.1/PW/examples/example01 — シリコンの入力の例と参照の出力(v6.0、−15.84452726 Ry) ↩ ↩2 ↩3 ↩4

  11. NIST「Rydberg constant times hc in eV」CODATA の推奨値、2026年11月5日取得. https://physics.nist.gov/cgi-bin/cuu/Value?rydhcev — 1 Ry は 13.605 693 122 990 eV ↩

  12. VASP Wiki「ENCUT」2026年11月4日取得. https://www.vasp.at/wiki/index.php/ENCUT — 計算ごとに既定のカットオフが違うと、全エネルギーどうしは比べられない ↩

  13. Materials Project「Phase Diagrams (PDs)」Materials Project Documentation、2026年11月5日取得. https://docs.materialsproject.org/methodology/materials-methodology/thermodynamic-stability/phase-diagrams-pds — 生成エネルギーは構成元素からの変化で、安定かどうかは他の相と比べて測る ↩

  14. Materials Project「Electronic Structure」2026年11月4日取得. https://docs.materialsproject.org/methodology/materials-methodology/electronic-structure — GGA(Generalized Gradient Approximation)のギャップは文献で約 5 割、内部の比較で約 4 割小さく、直しても平均 0.6 eV ずれる。ファンダメンタルギャップと光学ギャップを区別 ↩ ↩2 ↩3 ↩4 ↩5

  15. Materials Project「Introduction」Materials Project Documentation、2026年11月4日取得. https://docs.materialsproject.org/ — 米エネルギー省による、材料の性質を前もって計算して公開し、材料の発見を速める長期の取り組み ↩

  16. ARCHER2「Status and usage」2026年11月4日取得. https://www.archer2.ac.uk/support-access/status.html — 2026 年 9 月のソフト別の利用の表。VASP は利用時間の 20.6%(利用者 148 人)で最も多く、Quantum Espresso は 1.4% ↩

  17. B. Austin ほか「NERSC-10 Workload Analysis」2020年、2026年11月4日取得. https://portal.nersc.gov/project/m888/nersc10/workload/N10_Workload_Analysis.latest.pdf — 2018 年のデータ。VASP 19.8% で 1 位、CP2K 1.9%、Quantum ESPRESSO 1.8% ↩

  18. VASP Wiki「Choosing pseudopotentials」2026年11月4日取得. https://www.vasp.at/wiki/index.php/Choosing_pseudopotentials — VASP が推奨する PAW のポテンシャルの選び方 ↩

  19. VASP Software GmbH「FAQ」2026年11月4日取得. https://www.vasp.at/info/faq/ — VASP のライセンスは、はっきり定めた研究グループにだけ出す ↩ ↩2

  20. Quantum ESPRESSO「Quantum ESPRESSO」2026年11月6日取得. https://www.quantum-espresso.org/ — 密度汎関数理論・平面波・擬ポテンシャルに基づく、オープンソースのソフトの一式 ↩

  21. Quantum ESPRESSO「License」2026年11月4日取得. https://gitlab.com/QEF/q-e/-/raw/develop/License — GNU General Public License 第 2 版 ↩ ↩2

  22. CASTEP「Features」2026年11月6日取得. https://www.castep.org/features — 平面波の基底と擬ポテンシャルの方法を使う ↩

  23. CASTEP「Getting CASTEP」2026年11月4日取得. https://www.castep.org/get_castep — 学術の利用は無償のソースコードのライセンス。商用は BIOVIA Materials Studio の一部として購入 ↩

  24. CP2K「About」2026年11月6日取得. https://www.cp2k.org/about — ガウス関数と平面波を組み合わせた方式(GPW・GAPW)の DFT。GPL のもとで無償で使える ↩

  25. FHI-aims「FHI-aims」2026年11月6日取得. https://fhi-aims.org/ — 原子の周りの数値の軌道を使う、全電子の電子状態の計算 ↩

  26. FHI-aims「License for academia」2026年11月4日取得. https://fhi-aims.org/get-the-code-menu/license-academia — 学術のグループのライセンスは有償だが、支払いは任意 ↩

  27. ABINIT「New User’s Guide」2026年11月6日取得. https://docs.abinit.org/ — 擬ポテンシャルと平面波、または拡張した平面波などで DFT を解く ↩

  28. ABINIT「COPYING」2026年11月4日取得. https://raw.githubusercontent.com/abinit/abinit/master/COPYING — ソースの大部分は GNU GPL 版 3 ↩

  29. SIESTA「About SIESTA」2026年11月6日取得. https://siesta-project.org/siesta/About/overview.html — 厳密に局在した原子軌道の基底を使い、効率よく大きな系を扱う。オープンソース ↩ ↩2

  30. WIEN2k「WIEN2k」2026年11月6日取得. http://susi.theochem.tuwien.ac.at/ — 結晶の DFT の計算のソフト。全電子の (L)APW+lo 法で、バンドの計算で最も精度の高い方式の一つとする ↩

  31. OpenMX「About OpenMX」User’s manual 3.9、2026年11月4日取得. https://www.openmx-square.org/openmx_man3.9/node2.html — ノルム保存の擬ポテンシャルと局在した関数を使う。GPL 版 3 ↩

  32. VASP「Bulk systems, Part 1」VASP Tutorials、2026年11月4日取得. https://www.vasp.at/tutorials/latest/bulk/part1/ — 結晶の計算の入門の例。入力は POSCAR・INCAR・KPOINTS・POTCAR の四つのファイル ↩

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