In Silico

音楽

チップチューンはなぜ“あの音”なのか。制約が生んだ音楽

2026/6/21 (更新: 2026/11/3)

  • チップチューン
  • ゲーム音楽
  • 音源チップ
  • Ricoh 2A03
  • SID
  • Game Boy
  • Little Sound DJ
  • Nanoloop
  • Ultimate Soundtracker
  • トラッカー
  • PSG
  • 矩形波
  • 三角波
  • ノイズ
  • DPCM
  • アルペジオ
  • デューティ比
  • APU
  • デモシーン
  • 倍音
  • ファミコン
  • Commodore 64
  • Amiga
  • クラックイントロ
目次
背景・問い・要点
背景

明るく、軽く、前へ跳ねていく、いわゆる「8ビットの音」で鳴る音楽がある。チップチューンと呼ばれるこの音楽は、往年のアーケード機・コンピュータ・家庭用機の PSG(Programmable Sound Generator、プログラマブル・サウンド・ジェネレータ)サウンドチップやシンセサイザーで作られる1。その音源チップが出せる波形は数種類しかなく、同時に鳴らせる声部も少なかった。チップが同時に鳴らせる声部の一本一本を、チャンネルと呼ぶ。

普通の音楽では、鳴らしたい音が先にあって、それに合う機材を選ぶ。この音楽では順序が逆で、チップが出せる音の種類が先に決まっており、作り手はその狭い枠の中で曲を組み立てる。和音を一度に鳴らせないなら和音を分けて速く鳴らす、というように、足りなさを補う技法そのものが音楽の形になってきた。本稿は、C major・144 BPM(Beats Per Minute、1分あたりの拍数)でつくった一曲を例に取る。

問い

チップチューンの“あの音”は、どこから来ているのか。

要点

チップチューンの“あの音”は、音源チップが出せる波形の種類と、同時に鳴らせる声部の少なさという制約から来ている。

ファミコンの音源チップが作る三角波は、16段の階段状の音量でできているため、ブザーのような質感を帯びる2。声部も5チャンネルしかなく2、和音を同時に鳴らせないぶんを、作り手は和音の音を一つずつ速く鳴らすアルペジオで補う。出典はこの補い方を、チップチューンの重要な特徴の一つとする1。

モデル・例示

一曲を4チャンネルに割り振り、和音をアルペジオで補う

チップチューンの一曲は、少ないチャンネルに旋律・和音・低音・リズムを一本ずつ割り振って組む。和音を一度に鳴らせるチャンネルは無いので、和音は音を一つずつ速く鳴らして補う。

ページ上部のプレーヤーで聴ける、C major・144 BPM の一曲を例に取る。ファミコンの音源チップ Ricoh 2A03 は、矩形波2つ・三角波1つ・ノイズ1つ・サンプル音を鳴らす DPCM 1つの5チャンネルを持つ2。この曲は、そのうち DPCM を除いた4チャンネルの役割分担をなぞるとする。

  • リード:矩形波(高い値と低い値を交互にとる角ばった波)が主旋律を取る。
  • アルペジオ:和音を16分音符の速さで一音ずつ鳴らす。C の和音なら、ド・ミ・ソを一つずつ順に鳴らす。和音を同時に出せるチャンネルが無いぶんを、速さで和音に聞かせる。
  • ベース:三角波(一定の傾きで上がって下がる波)が低音を支える。
  • ドラム:ノイズのチャンネルが刻む。

この例から言えること

  1. チャンネルは同時に鳴らせる声部の一本一本なので、一曲は旋律・和音・低音・リズムに一本ずつ役を割り振って組む。
  2. 和音を受け持つチャンネルが無いぶんは、アルペジオで補う。出典はこの補い方を、チップチューンの最も重要な特徴の一つとする1。
  3. この曲は、波形を計算する小さなプログラムでAIが合成したもので、実機の再現ではない。ハモリやドラムを重ねる箇所は、矩形波2つ・ノイズ1つという実機の枠を超えている。

“あの音”の出どころ:数えるほどの波形

Ricoh 2A03 では、音を出す部分(APU=Audio Processing Unit、音声処理ユニット)が2基に分かれ、合わせて5チャンネルを持つ2。役割分担は、メロディを2つの矩形波(パルス波)、ベースを三角波、リズムをノイズに置くのが基本になる。残る DPCM は、サンプル音を1ビットのデルタ変調の PCM(Pulse-Code Modulation、パルス符号変調)で鳴らすチャンネルである2。出典によれば、サンプルの符号化がメモリを食うため、NES ソフトの大半は DPCM を除く4チャンネルだけで書かれていた2。

2A03 の三角波は、なめらかな三角ではなく、音量を16段の階段状(0→15→00 \to 15 \to 0)に刻んで作る。この“カクカク”した段差が、主音の4オクターブ上に、主音の8分の1の音量の倍音を生み、少しザラついた、ブザーのような質感をもたらす2。この質感は、豊かな音色のために選ばれたものではなく、16段の階段状の音量という作り方から出てくる。しかも音量そのもので三角形を描いているため、このチャンネルには独立した音量の制御が無い2。「あの音」は、限られた波形で鳴る音である。

制約から生まれた文化:デモシーンとトラッカー、そしてGame Boy

チップチューンはまず1970年代末〜80年代初頭の日本で、アーケード機や家庭用機に載っていた音源チップの音として生まれた1。Commodore 64 の SID チップを使うデモシーン(プログラムで映像と音楽を見せる作品「デモ」を作り、見せ合う集まり)にも、独自の流れがある。出典によれば、のちにいくつかのデモグループが、ゲームから抜き出した曲に代えて自前の曲を使い始めた。1986年以降の SID の作曲は、C64 デモシーンと不可分のまま今日まで続いている。アーカイブには、出典が引く2022年時点ですでに5万5千曲を超える SID 曲が集まっていた1。

もう一系統は Amiga から来た。Amiga はサンプル再生の機械で、音源チップによる合成からはむしろ遠ざかった側だ。それでも1987年の Ultimate Soundtracker が広めたトラッカー(音符を縦に並んだ行へ打ち込み、チャンネルごとの列で鳴らす作曲ソフト)という制作法はここから育ち、その中から、サンプルではなく単純な波形を使い、SID の音を思わせるトラッカー音楽の一派が生まれた1。「チップ」の名も、音源チップではなく Amiga の chip memory に由来する1。小さなトラッカー・モジュールを指すのが語の原義で、いまは実際にチップで合成した音楽まで含めて「チップチューン」と呼ぶ、と出典は書く1。容量の小さいこの音楽は、サイズ制限の厳しいデモやクラックイントロ(コピー防止を外したソフトの起動時に、外したグループが付けた短い演出)に好都合だった。そのため、この音楽は地下で育った1。

2000年代後半には、Game Boy から別の流れが起きた。出典はこれを「新しい波」と呼び、Game Boy 向けの作曲ソフト Little Sound DJ の公開がこの波を後押ししたとする1。Nanoloop などのソフトで、ゲーム機は手のひらサイズの作曲機になった。出典によれば、この波はデモシーンやトラッカーの文化よりライブ演奏と音源リリースに重心があり、新しい担い手はその文化をたいてい遠巻きにしか知らない1。制約のある安価な機械が、作り手の層を広げた。

どう作るのか(一般論として)

作り方は大きく二系統ある。実機・実チップで鳴らす(2A03 や Game Boy を直接使う)か、チップの挙動をソフトで再現する(エミュレーションや VST(Virtual Studio Technology)音源)かだ。どちらも、矩形波・三角波・ノイズという限られた波形を組み合わせ、デューティ比(1周期のうち高い値が続く時間の割合)の切り替えやアルペジオで“足りなさ”を補う。出典も、初期の音源チップは同時に出せる声部が少ないため、高速アルペジオで和声を模すのが常套手段で、電子的な音色と並ぶチップチューンの最も重要な特徴の一つだとしている1。

出典2件
  1. Wikipedia「Chiptune」. https://en.wikipedia.org/wiki/Chiptune — PSG 音源チップやシンセサイザーによる音楽という定義と、日本の起源・C64 の SID・Amiga のトラッカーと語源・Game Boy の新しい波・高速アルペジオ。 ↩ ↩2 ↩3 ↩4 ↩5 ↩6 ↩7 ↩8 ↩9 ↩10 ↩11 ↩12

  2. Wikipedia「Ricoh 2A03」. https://en.wikipedia.org/wiki/Ricoh_2A03 — 2基の APU の5チャンネル、16段の音量で作る三角波の倍音と独立音量の欠如、NES ソフトの大半が DPCM を除く4チャンネルで書かれた理由。 ↩ ↩2 ↩3 ↩4 ↩5 ↩6 ↩7 ↩8

この記事はAIを使用して執筆されました。内容には誤りが含まれる可能性があります。事実や数字の出典は脚注から確かめられます。