シミュレーション・制御・実機
反応拡散で模様を生成する対話デモ(Gray-Scott)
二つの仮想化学物質が拡散し、反応する。ルールは一つだ。なのに、feed と kill の2つの数字だけで、斑点・迷路・サンゴ・指紋へと世界が分岐する。下のキャンバスで走っているのが、その Gray-Scott 反応拡散だ。各点が二つの濃度をもち、近傍と混ざり合い(拡散)、決まった式で反応する。デモはそれを繰り返しているだけである(表示1コマにつき、この更新を8回まとめて回している)。
プリセットで (feed, kill) を切り替え、キャンバスをクリック/ドラッグして種を描いてみてほしい。なお切り替えは数字だけを変え、画面はそのまま引き継ぐ。そのため模様が十分に育ったあとで「斑点」「サンゴ」「指紋」に切り替えると、V が消えて真っ黒になることがある。そのときは「消去」してから描き直せばよい。支えきれなくなった V が一様な背景へ一斉に崩れること自体は、この系を調べた Pearson が要旨に挙げている現象でもある(そちらは数字を変えず、過密になった斑点が領域ごとまとめて崩れる)1。生成そのものは易しい。難しくて、面白くて、価値があるのは、狙った構造を選ぶこと、つまり制御の側である。あなたが、その制御面だ。
feed=0.029, kill=0.057(迷路)— キャンバスをドラッグして種を描く
画面の色は、片方の物質 V の濃さだ。 暗い(ほぼ黒)所は V がほぼ無く、もう一方の物質 U で満たされた「素の土台」。そこに V が増えるほど色が暖かくなる。色は紫 → 赤 → 橙 → 淡い黄の順に明るくなり、明るいほど V が濃い。だから模様の縁で起きているのは、V が土台の U を食べて広がっていく境界の動きである。
画面の模様が従う規則は一つだけだ。二つの物質が違う速さで広がり(拡散)、出会った場所で一方がもう一方を増やす反応が起き、同時に外から一方が供給(feed)され、もう一方が除去(kill)される。この供給と除去の釣り合いが、斑点・虫・迷路・サンゴ・穴・指紋のどれになるかを選ぶ。直感的には、毎フレームこの三段を順に回しているだけだ:
※ 概念図(フロー)(作図:AI)
動いている規則の仕組み(クリックで展開)
舞台は格子状のマス目で、各マスは二つの濃度 U と V をもつ。この一つの規則は、次の三段からなる。
- 拡散では、どちらの物質も周囲ににじみ広がる。ただし U の拡散係数は V のちょうど二倍だ()。これは係数の比であって、距離の比ではない。拡散では二乗変位が時間に比例するので、係数が二倍でも同じ時間に届く距離は 倍、およそ 1.4 倍にとどまる。この差が模様の骨格を決める。
- 反応では、U と V が同じ場所に居合わせると、
U + 2V → 3Vという反応が起きる。V が一つでもあると、そこの U を食べて V が自分を増やす。だから V は「自己触媒的」に伸びる。 - 供給と除去では、外から新しい U が流れ込み、同じ流れが U も V も割合 F(feed) で押し流す。U の正味は で、だから素の土台は で頭打ちになる。V にはさらに k(kill)による除去が重なるので、失われる割合は になる(主に効くのは k のほうだ)。プリセットで切り替えているのは、この F と k の二つの数字だけである。
V が増えすぎれば U を食べ尽くして自滅し、増えなさすぎれば供給に押し流される。その綱引きが釣り合う細い帯の中で、斑点・虫・迷路・サンゴ・穴・指紋といった模様が立ち上がる。模様の種類を選んでいるのは、絵を描く誰かではなく、F と k の二つの値の組((F,k) 平面上のどこにいるか)と、そこに置かれた種である。(F,k) は比ではなく点そのものが効くが、点だけでは決まらない。同じ点でも、まっさらな土台に小さく撒けば斑点が育ち、すでに模様で埋まった状態から切り替えると V が消えてしまうことがある。一様な土台はどの (F,k) でも安定で、模様は有限の種を撒いたときにしか立たない。この履歴依存が、この系の性質だ(なお Pearson が「双安定」と呼ぶのは (F,k) 平面の一部の領域を指す。原典の相図では、実線で囲まれた内側に一様な定常状態が三つあり、そのうち点線の上・実線の下で線形安定なものが二つになる。非自明なほうが安定性を失うのは、実線を上へ/点線を下へ横切るところであり、その分岐は鞍点分岐と Hopf 分岐である。どの (F,k) でも安定なのは、素の土台のほうだけである)。この平面のどこにどの模様が出るかを体系化したのが Pearson(Science, 1993)だ1。Pearson は要旨で、模様の一部が薄いゲル反応器の実験で観測された定常な不規則模様に似るとも述べている。その論文で最も目を引く挙動は、斑点が臨界の大きさまで育つと中心が支えきれずに崩れ、二つに分かれるというものだ(spots which grow until they reach a critical size at which time they divide in two)。上の「斑点」に種を一つ撒くと、この分裂がそのまま起きる。割れた先がまた割れて、画面が埋まるまで増え続ける。この「埋まるまで」も原典どおりだ。Pearson は斑点型の模様について、最初の摂動のあと斑点は系を埋めるまで数を増やすと書いている(the spots increase in number until they fill the system)。しかもデモが種として置く値()は、Pearson が数値実験で格子中央の正方形の領域に与えた摂動と同じ値である。Pearson は格子全体を素の土台に置いたうえでこの摂動を与え、その初期条件に ±1% の乱数を足して正方形の対称性を破った。乱数が入るのは最初の一度だけだった2。反応と拡散が模様を生むという発想は Turing(1952, 形態形成の化学的基礎)に遡るが3、機構は別物である。Turing が扱ったのは一様な状態が微小な揺らぎで自発的に崩れる場合で、こちらは素の一様な土台()がどの (F,k) でも安定なまま、有限の大きさの種にだけ応じる4。Pearson 自身、ここで使う拡散係数比 2 では安定な Turing パターンは出ないと明記している(要るのはおよそ 2.8 以上)5。ただしその比の話は、非自明な定常状態(Pearson の言う「blue 状態」)から分岐する Turing パターンについてのものだ。「消去」して何も起きない理由は、そこにはない。消去が作るのはこの素の土台であり、Pearson が「どの F と k でも線形安定」と書いた自明状態そのものだ。拡散係数比をどれだけ上げても、この状態は安定なままである。加えてデモの更新式には乱数が入らないから、V が全て 0 の格子は厳密な不動点に居座る。種を撒くまで画面が黒いのは、そのためだ。しかも Pearson は比 2 を欠損として扱っていない。「水溶液中の小分子でも物理的に妥当な」比でありながら広い (F,k) 範囲で対称性の破れが起きる、というのが論文の主張の一部である(Such a ratio is physically reasonable even for small molecules in aqueous solution.)6。ただし原典は、こうした模様が既存の解析手法で押さえられるかどうかについては保留している7。
数式で書けば、各点の時間変化は次の二本で与えられる( は近傍との混ざり合い=拡散を表すラプラシアン、 はそれぞれ U と V の拡散の速さ)。
各項は上の三つの規則にそのまま対応する。 が拡散、 が反応(V による U の消費・V の増殖)、 が U の供給と流出の差し引き、 が V の除去である。このデモでは と固定し、 と だけを動かしている。
更新ルール自体は決定論的だ。更新の式に乱数はどこにも入らない。ただし最初の種は自動でランダムに撒かれるので、読み込むたび模様は変わる。「消去」して自分で描き直せば、そこから先に現れる模様は種とパラメータ、つまりあなたの選択だけで決まる。だからこそ「生成」より「選択」が効く、という話になる。
同じ「ルールは単純、結果は多様、価値は選択の側」という背骨は、類推としてなら、AIの生成にも当てはめられる。模様を出すこと自体は易しい。どの模様を選ぶかを決める制御面のほうが、難しくて値打ちのある仕事だ。
出典7件
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J. E. Pearson, “Complex Patterns in a Simple System,” Science 261(5118), 189–192 (1993), https://doi.org/10.1126/science.261.5118.189 (arXiv:patt-sol/9304003)。Gray-Scott 系の (F,k) 平面に十二種の模様を配置した基準論文。本稿が本文で引く逐語は、arXiv 版の要旨の “Others consist of spots which grow until they reach a critical size at which time they divide in two.” による(Science 掲載版の要旨では “spots that grow until they reach a critical size, at which time they divide in two”)。ゲル反応器の実験への言及は掲載版の要旨 “Some of them resemble the steady irregular patterns recently observed in thin gel reactor experiments.” による。arXiv 版の要旨は同じ箇所を “Some of them resemble the steady irregular patterns discussed by Lee et al. in this issue of Science [1].” と書く([1] は K. J. Lee, W. D. McCormick, Q. Ouyang, H. L. Swinney, “Pattern Formation by Interacting Chemical Fronts,” Science 261(5118), 192–194 (1993))。本文の「過密になった斑点が領域ごとまとめて崩れる」は、arXiv 版の要旨の “If, in some region, the spots become overcrowded, all the spots in that region decay into the uniform background.” による。モデルの由来も “is a variant of the autocatalytic Selkov model of glycolysis [2] and is due to Gray and Scott [3].” と明記する。 https://arxiv.org/abs/patt-sol/9304003 ↩ ↩2
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同上。数値実験の設定として “Initially, the entire system was placed in the trivial state (U = 1, V = 0). Then the 20 × 20 mesh point area located symmetrically about the center of the grid was perturbed to (U = 1/2, V = 1/4). These conditions were then perturbed with ±1% random noise in order to break the square symmetry.” と書き、結果を “In all cases, the initial disturbance propagated outward from the central square until the entire grid was affected by the initial square perturbation.” と記す。本文の「埋まるまで」は、斑点型の模様(ε・ζ・λ)を扱う段の “After the initial perturbation, the spots increase in number until they fill the system.” による。本デモの
seedDisk()が置く値()は前者と同一で、乱数を初期条件にだけ入れる点も共通する(デモの乱数は種を置く位置で、Pearson は初期条件の値への ±1% の雑音)。 https://arxiv.org/abs/patt-sol/9304003 ↩ -
A. M. Turing, “The Chemical Basis of Morphogenesis,” Phil. Trans. R. Soc. Lond. B 237(641), 37–72 (1952). 要旨は機構を “Such a system, although it may originally be quite homogeneous, may later develop a pattern or structure due to an instability of the homogeneous equilibrium, which is triggered off by random disturbances.” と述べる。∴ Turing の機構は一様平衡そのものの不安定化であり、本稿が扱う「安定な一様状態に有限の種を撒く」場合とは出発点が違う。 https://doi.org/10.1098/rstb.1952.0012 ↩
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同上。原典は “A trivial steady state U = 1, V = 0 exists and is linearly stable for all F and k.” および “All of the patterns presented here arose in response to finite–amplitude perturbations.” と書く。これが本稿の「素の土台はどの (F,k) でも安定で、模様は有限の種を撒いたときにしか立たない」の直接の裏づけである。一様状態が不安定化して自然に湧くのではなく、有限振幅の摂動に応じて立つという点が、次の脚注の区別につながる。 https://arxiv.org/abs/patt-sol/9304003 ↩
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同上。“For the ratio of diffusion coefficients used, there are no stable Turing patterns.” とあり、さらに “The smallest ratio of diffusion coefficients that gives stable Turing patterns is about Du /Dv = 2.8.” と書く。∴ 「反応拡散の模様=チューリング・パターン」と読むのは行き過ぎで、本デモが見せているのは有限振幅の摂動への応答である。 https://arxiv.org/abs/patt-sol/9304003 ↩
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同上。比 2 を欠損ではなく妥当な設定として扱う根拠である。原典は比 2 でも広い (F,k) 範囲で対称性の破れが起きることを示したうえで “Such a ratio is physically reasonable even for small molecules in aqueous solution.” と書く。本デモの は同じ比 2 である。 https://arxiv.org/abs/patt-sol/9304003 ↩
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同上。原典は、一様状態が線形不安定になる境界の近傍を扱う従来の解析(振幅方程式など)がこの系の模様に届くかを保留し、“It is unclear whether the patterns presented in this article will yield to these now–standard technologies.” と書く。∴ 「規則は単純、結果は多様」は観察であって、機構が理論的に押さえられているという意味ではない。 https://arxiv.org/abs/patt-sol/9304003 ↩
この記事はAIが執筆しています。内容には誤りが含まれる可能性があります。ご注意ください。