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シミュレーション・制御・実機

フィジカルAIの課題とは?ロボットの学習データが足りない理由

2026/7/4 (更新: 2026/11/3)

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目次
背景・問い・要点
背景

本稿でいうフィジカルAIは、カメラの画像と「赤いブロックを箱に入れて」のような言葉の指示を受け取り、ロボットの腕や手を次にどう動かすかを出力して、現実の物を扱わせるAIである。画像と言葉から動作を出すこのモデルを、ロボット学習では方策(英語では policy)と呼ぶ。後で出てくる π0 も、画像(vision)と言葉(language)から動作(action)を出すモデルとして作られている1。方策は、人が実際にロボットを動かした記録から、どの画像と指示のときにどう動いたかを学ぶ。

大量のデータで基盤モデル(先に大量のデータで学習させ、多くのタスクに使い回すモデル)を訓練すれば、言語モデルと同じように汎用ロボットも短い期間で作れる、という見通しをよく聞く。言語モデルで起きたことがロボティクスでも起きる、という話だ。

言語モデルの側には、人間の活動の副産物としてWebに溜まった文章があった。Webのページを自動で巡回して保存する作業をクロールと呼び、その保存物はすでに大量にある。ほぼ無料で、桁違いに大きく、すでにデジタル化されている。言語モデルは文章をトークン(単語や単語の一部)に区切って読むので、文章の量はトークンの数で数える。

ロボットの側で学習に使うのは、軌道データである。1回の試行について、各時刻のカメラ画像と、そのときの腕の関節の角度などの動作を並べた記録を指す。軌道データには、Webの文章に当たる蓄積が無い。

本稿は、Webテキストのコーパス(学習用に集めた文章の集まり)FineWeb と、ロボットの収集記録(RT-1・DROID・π0 ほか)の数字を例に取る。

問い

フィジカルAIでは、なぜロボットの学習データが足りないのか。

要点

ロボットの操作データは、その多くを人が実機に付きっきりで1試行ずつ作るので、量が人の時間に縛られる。操作データには、Webの文章のような、人の活動の副産物として溜まった蓄積が無い。

Webのテキストは既存のクロールを濾すだけで15兆トークンに達したが、DROIDは50人がかりで、成功した試行だけで350時間ぶんだった。増やす候補は、人間の動作を記録する、シミュレーションで合成する、別の機体(ロボットの機種)のデータを使える形にする、の三つだが、報告された効果はどれもまだ限定的だ。

モデル・例示

赤いブロックを箱に入れる1試行と、それに張り付く人の時間

※ この節の例は、説明のために作った架空のものです。

方策が学ぶデータの1件は、人がロボットを動かした1回の試行の記録である。その1件ができるまで人は試行に付きっきりなので、人がロボットを動かして集める限り、軌道データの量は人の時間でしか増えない。

人が手元の操作器でロボットを動かすことを遠隔操作と呼ぶ。赤いブロックを箱に入れる試行を、遠隔操作で1回集めるとする。

  1. 操作者ロボット1. 手元の操作器を動かし、腕にブロックを掴ませて箱へ運ばせる
  2. ロボット記録2. 0.1秒ごとに、カメラ画像と関節の角度と手の開閉を書き込む
  3. 操作者3. ブロックが箱に入ったのを見て、成功と判定する
  4. 操作者記録4. 指示の文「赤いブロックを箱に入れて」と、成功の印を付ける
  5. 操作者ロボット5. ブロックを元の位置へ戻す

試行が30秒なら、記録は300行になる。最初の2行は、たとえば次の形をしている(ほかの298行は省いた)。関節の角度は、6つある関節の角度を度で並べたものである。

{
  "指示": "赤いブロックを箱に入れて",
  "成功": true,
  "記録": [
    { "時刻": 0.0, "画像": "frame_000.jpg", "関節の角度": [0, -30, 45, 0, 60, 0], "手": "開" },
    { "時刻": 0.1, "画像": "frame_001.jpg", "関節の角度": [1, -29, 45, 0, 60, 0], "手": "開" }
  ]
}

frame_000.jpg は、開いた手がブロックの手前にある場面の画像である。次の行で1番目と2番目の関節が1度ずつ動いており、この動きが、この画像とこの指示に対する正解の動作になる。方策は各行から、この画像とこの指示ならこう動く、という対応を学ぶ。

この1件を作るのに、操作者は試行の30秒と、ブロックを戻して次の試行を準備する30秒、合わせて1分張り付く。1件に1分なので、1万件には1万分、約170人時(人時は、1人が1時間働く量)が要る。

この例から言えること

  1. 軌道データの1件は、人が1回ロボットを動かした記録で、それを作るあいだ操作者は付きっきりになる。
  2. そのため件数を増やすと、人の時間もそのまま増える。1分の試行を1万件集めれば、約170人時である。
  3. この例は成功した試行だけを数えている。ブロックが箱に入らなかった試行は1万件に数えないので、実際に張り付く時間はさらに積み上がる。

GPTを支えたのは、Webに溜まった文章でもあった

GPTを可能にしたのは、Transformerの性能だけではない。インターネットに、ほぼ無料で、桁違いに大きく、すでにデジタル化された文章が溜まっていたことが本質だ。スケール則は、言語モデルの性能がモデル規模・データ量・計算量に対して滑らかに向上するという実測則である2。この則に沿ってデータ量を増やせたのは、増やすデータがほぼ無料で手に入ったからだ。

どれくらい無料に近いかは、公開コーパスの作られ方に表れている。Hugging FaceのFineWebは、既存のWebクロール(Common Crawl)96回分のスナップショットを濾過して、15兆トークンの学習コーパスを取り出した3。この15兆トークンのために、誰も新しくデータを「収集」していない。人が何十年もWebに書いてきた文章・コード・画像という活動の副産物が、すでにそこに溜まっていた。

物理の世界には、この蓄積が無い。ロボットが「物を掴んで動かす」軌道データは、ネット上に転がっていない。誰かが実機を動かし、1試行ずつ集めるしかない4。その多くは人の遠隔操作によるが、強化学習エージェントに集めさせた例4や、少数の実演から実機で自動生成する例5もある。しかも学習に使うのは成功した試行で、失敗した試行は集めても数に入らず6、リセットや操作ミスに使った実時間はそもそもデータにならない7。

集めたデータの大半は、別の機体・別のグリッパー・別のカメラ位置にはそのままでは移しにくい。embodiment(機体の体の形。関節の数・グリッパー・カメラの位置など)が変われば分布が変わるからだ。RT-1の著者らは、別機体(Kuka)のデータだけで学習した方策を自機体で走らせると成功率0%だったと報告している4。ただし同じ論文は、そのデータを自機体のデータに混ぜると、箱の中の物を拾う bin-picking の成功率が22%から39%へ上がったとも報告している4。機体をまたいだ転移自体は実証されつつあるが、いまのところ限定的だ8。テキストの「次トークン予測」のような、機体をまたいで直接共有できる普遍的なインターフェースは、まだ存在しない。

人の時間で集めた量は、実際の収集記録に出る

Webの文章とロボットの軌道データの集まり方の違いは、印象論ではなく、実際の収集記録で確かめられる。RT-1の訓練データは、13台のロボットが約17か月かけて遠隔操作で集めた約13万件の実演(デモ)だ4。多機関連携のDROIDでは、北米・アジア・欧州にまたがる50人の収集者が12か月かけて、76,000軌道の操作データを564シーン・86タスクで集めた。時間にして350時間分である6。50人がかりで、350時間。しかもこの350時間は成功した試行だけの合計だ。原典は、別に約16,000の試行を「失敗」と記録したうえで、公開データには含めるが350時間には数えていないと書いている6。

一方のテキストは、既存クロールを濾すだけで15兆トークンである3。トークンと時間は単位が違うから、この二つを割り算しても意味のある倍率は出ない。濾過そのものが無料なわけではない。原典は、できあがった15兆トークン全体に教育性の分類器を1回通して部分集合(FineWeb-Edu)を切り出す追加工程だけで、6,000 H100 GPU時間を要したと書いている3。ただしそこに張り付くのはGPUの時間であって、人間の実時間ではない。並べて見えるのは量の差ではなく集まり方の差である。片方は人類の活動の副産物として勝手に溜まり、もう片方は、その多くを人が目的を持って付きっきりで生む。

規模の大きい収集も、人の時間で積まれている。100台の実機を使うAgiBot Worldも、100万軌道超・2,976.4時間を熟練の遠隔操作者が集めたと自ら報告しており9、後者の側にある。人が付き添う時間を減らす試みもある。Google DeepMind の AutoRT は、1人が移動ロボット3〜5台を同時に監督し、53台で7か月に77,000エピソードを集めた10。ただしその約95%は台本どおりに動く方策で集めたもので成功率は21%、遠隔操作の3,060件は82%だった。方策の成功率が低ければ成功エピソードの量は伸びないと、原典は限界の節で書いている10。

装置の値段は下がっているが、1試行ごとの人の時間は残る。スタンフォードらのALOHAは、両腕の遠隔操作システムを約2万ドルで組めることを示した7。著者らの言い方では、産業用アーム1本と同程度である。だが同じ報告は、もう一つの数字も示している。1タスクの学習に使ったのは50〜100回の人間の実演、データにして各タスク10〜20分ぶんで、それで6つの精密タスクを学習できた7。ただし成功率はタスクによって違う。著者らが要旨で例に挙げたカップの蓋開けとバッテリ挿入は84〜96%だが、最も難しいベルクロ通しは20%にとどまる。少ないデモで学べること自体は朗報だ。それでも、その10〜20分ぶんのデータを生むのに、リセットや操作ミスを含めて人間は30〜60分張り付いている。装置が安くなっても、1試行ごとに人間の実時間が張り付く構造は変わらない。

ボトルネックはパラメータ数だけではない

ここまでの数から、ボトルネックはパラメータ数だけではなく、(1) データの量と多様性、(2) sim-to-realのギャップ(シミュレータで学んだ方策を実機へ移したときに出る性能の差)にもある。シミュレータは無限にデータを生むが、接触・摩擦・変形・センサノイズといった現実の細部を取りこぼす。取りこぼしの大きさは、シミュレータの中だけでは分からない。同じタスクを実機でも走らせて、初めて数字になる。sim-to-realのギャップを埋めるには描画の条件(テクスチャ・照明・カメラ)を振るドメインランダム化や、力学そのものを実機で測り直す手当て・実機での微調整が要り11、結局また高価な実データに戻ってくる。

RT-XやOpen X-Embodimentのような「データを持ち寄る」試みは、22種の機体・527スキル・16万タスクを21機関で統合した。方向としては正しい。規模については、Open X-Embodiment の論文自身が、それ以前の最大級の収集でもロボットのデータセットは規模と多様性で vision(5-18M)や NLP(1.5B-4.5B)のベンチマーク用データセットの一部にとどまると書いている。Open X-Embodiment がまとめたのは100万超の実機軌道である8。

一方で同じ原典は、モデルの容量も効くと報告している。データの豊富な領域では RT-1-X がその機体のデータだけで訓練した RT-1 に及ばず、著者らはこれを underfitting(モデルの容量が足りず、データを学びきれていない状態)と解釈している。55B と 5B のモデルを比べて、容量が大きいほどロボットのデータセットをまたぐ転移が進むとも書いている8。

π0の実測では、タスクごとに5〜100時間を積む

OXE を学習に取り込んだ別系統の取り組みも、自前で集めた実機データを主軸にしている。Physical Intelligence社の汎用ロボット方策 π0(パイゼロ)は、7構成の自社ロボットプラットフォーム(単腕・双腕・移動式)を主軸に、Open X-Embodiment を含む公開データを、学習データ全体のタイムステップ数で9.1%として組み合わせた汎用基盤モデルだ。自社で集めたぶんの大きさは、論文自身が書いている。事前学習に使った器用操作データは68タスク・約10,000時間あり、これに OXE などを足したデータが、著者らの知る限りロボット操作モデルに使われた事前学習データとして史上最大だという1。50人がかりで集めたDROIDの350時間と並べると、汎用方策を1本作るために、企業はその29倍近くを自前で集めていたことになる。

著者ら自身の報告によれば、下流タスクへの特化に使ったデータ量は、最も単純なタスクで5時間、最も複雑なもので100時間以上と幅がある1。これは「新タスクに最低5時間要る」という下限ではない。同じ論文は、微調整データを1・5・10時間と振った比較も載せ、「一部の易しいタスクは少量のデータでも学べる」と書いている。ただしタスクによる差が大きく、少量側で足りるのは一部にとどまる1。それでも、テキストのファインチューニングが数行のプロンプトや無料に近いAPI呼び出しで済むのとは、コストの桁が違う。しかも、その数時間から百時間はロボット・人手・撮影環境を用意して初めて集まる時間であって、待っていれば勝手に増えるものではない。ネットに溜まったテキストとは、集まり方の性質そのものが違う。

データを増やす候補は、人間の動作、シミュレーション、転移表現の三つだ

汎用ロボットが短い期間で作れるとすれば、それは人の時間に比例しないデータの供給源が得られたときだ。候補の経路は三つある。

一つ目は、人間の日常動作から集める経路。 人間の一人称映像は、動員できる人数の桁が違う。Ego4Dは、931人の装着者が74か所・9か国で撮った3,670時間の日常生活映像を、2年がかりで集めた12。ロボット側のDROIDの「50人で350時間」6に対し、総量では10倍だ。

ただし「2年」はプロジェクト全体の期間であって、装着者ひとりの従事期間ではない。原典は参加者が「一度に1〜10時間」カメラを着けたと書き、Bristol拠点の記録では録画期間2週間・一人平均3.0時間である12。一人あたりの総量で並べると Ego4D は931人で3,670時間なので 3,670/931≈3.93{,}670 / 931 \approx 3.9 時間/人、DROID は50人で350時間なので 350/50=7.0350 / 50 = 7.0 時間/人(失敗ぶんを数えていないので下限だ)で、同じ桁だ。総量の10倍を生んでいるのは一人あたりの速さではなく、ロボットが要らないぶん装着者を931人まで増やせたことのほうだ。

そしてこの映像には、関節への指令や力の情報といった、ロボットが真似るための行動信号が入っていない。全編にナレーションが付き、一部にIMU(Inertial Measurement Unit、慣性計測装置)のデータ(836時間)や視線(45時間、2拠点のみ)も付いてはいるが、いずれも関節指令や力に翻訳できる信号ではない。

UMIのように、ロボット本体を使わず手持ちグリッパで人間の実演から操作データを直接集め、実機の方策へ転移させる経路が、この欠けた行動信号を補おうとしている13。原典は3人が12人時で1,400実演を30か所から集め、未見の2環境で成功率71.7%を報告している13。同じ事前学習済みの視覚エンコーダを使い、研究室の1環境で集めたデータだけで学習した方策は、同じ未見の環境で成功率0%だった13。ただし収集には SLAM(Simultaneous Localization and Mapping、カメラ映像から自己位置と地図を同時に推定する処理)が効く程度のテクスチャが要り、実演の速さは素手に及ばないと原典自身が書いている13。

映像のほうから行動を推定して学ぶ経路もある。LAPA は、画像フレームの間の潜在行動(latent action)を離散的に学ばせ、それを予測するようにモデルを事前学習してから、少量のロボットデータで実際の行動へ対応づける14。人間が日用品を扱う映像22万本だけで事前学習した版は、Franka 実機の3タスクで同じ実機データ(各タスク150軌道)で微調整したとき、平均成功率を事前学習なしの21.2%から34.0%へ上げたと報告している14。

二つ目は、シミュレーションで増やす経路。 増幅の技術は実在する。MimicGenは、約200件の人間デモを種に、シーン構成・物体・アームを変えながら18タスク・5万件超のデモを自動合成した5。ただしその18タスクのうち16はシミュレータ上のもので、5万件超のほぼ全部がシミュレーション側で生まれている。同じ手法は実機でも動いており、10件の実演を種にStackで200件・Coffeeで100件を生成している。ただし生成の成功率は82.3%(243試行)と52.1%(192試行)で、実機側では結局また試行の実時間が要る5。生成したデータで学習した方策の実機での成功率は、50回の評価でStack 36%・Coffee 14%だった5。つまりこの経路はデータを増やすが、出どころが現実の物理そのものではないという留保を引き継ぐ。接触や摩擦の細部のズレは残り、描画の条件を振るドメインランダム化11では届かないぶんを、実機での測り直しや微調整で埋める作業に戻ってくる。

RT-1の論文は、シミュレーションの中で強化学習により集めた、物を拾う成功軌道51.8万件を実機のデータに混ぜている。シミュレーションにしか出てこない物体を実機で拾う成功率は23%から87%に上がり、実機の物体では92%から90%とほぼ変わらなかった4。ただし足した軌道は物を拾うものだけで、成功率が上がったのもシミュレーションにしか出てこない物体についてである4。

物理シミュレータを使わず、動画生成モデルで軌道を合成する試みもある。NVIDIA の GR00T N1 は、実機の遠隔操作データの1割で調整した動画生成モデルから作った軌道を学習に足すと、人型ロボット実機の8タスク平均で成功率が約5.8ポイント上がったと報告する。ただし著者ら自身が予備的な結果と位置づけており、方策はその1割の実機データと併せて学習している15。著者らは限界の節で、動画生成を含む合成手法には、物理法則に従いつつ多様なデータを作る点でまだ課題があると書いている15。

三つ目は、embodimentを越えて転移する表現の確立。 機体Aで集めたデータが機体Bの学習にそのまま効くなら、機体ごとに分かれたデータを一つの学習に使える。Open X-Embodimentの著者らは機体をまたぐ正の転移を報告している。データの少ない5領域では、他機体のデータを混ぜた方策の平均成功率が、その機体のデータだけで学習した方策より50%高かった。別の機体のデータにしか無いスキルの成功率は、27.3%から75.8%に上がった8。ただし転移を測った実験の学習データに入ったのは22種のうち9機体で、新しい機体への汎化は未検証だと著者ら自身が書いている8。テキストの「次トークン予測」に相当する共通インターフェースの候補は、まだ定まっていない。

そもそも「汎化した」と言えるかの基準も揺れている。標準ベンチ LIBERO で90%超を出すモデルが、物体の初期位置をずらすだけで0.0%まで落ちたという監査がある16。位置ずらしでは pi0.5 だけが例外で、libero-goal で38.0%を残した。

既知の動作を組み替える試験でも0付近まで落ちるが、後続の監査は、この数に指示文の不具合が混ざっていたと報告している。その監査によれば、この公開実装は指示文を書き換え後の課題定義ではなく元のファイル名から作っていた。方策は「コンロをつけろ」と指示されたまま、消したかどうかで採点されていたことになる。指示文を直すと、pi0.5 の組み替えの3区分のうち1つは0.4%から53.2%に上がったが、残る2区分は10.6%と20.0%にとどまった17。

LIBERO-PRO では、指示を言い換えても成功率はほとんど落ちない。ただし言い換えた指示も同じ読み込み経路を通るので、この数だけでは言い換えへの強さは示せない。言い換えの2区分では、直した経路でも pi0.5 の成功率は96.4%と98.8%だった17。物体そのものの差し替えにも、初版が測った3モデルは4つの課題群(スイート)中3つで動じなかった。著者らは、物体や指示を変えても落ちないことのほうを頑健さではなく、動作系列を丸暗記しているがゆえの見せかけだと解釈する。ただし改訂版の主要結果の図には6モデルが並んでおり、あとから加わった3本は物体を差し替えると libero-goal で58〜68%まで落ちる。いずれも特定ベンチ上の監査であって、実世界での能力の否定ではない16。

データの供給源が増えたと言える条件は、観測できる三つの信号だ

この記事は、ボトルネックがモデルサイズだけでなく、データの供給にもあると考える。これを反証可能な主張として置いておきたい。次の信号が観測されたら、人の時間に縛られない供給源ができ始めたと判断してよい。

逆に、これらが観測されないまま数年が過ぎ、依然としてタスクごとに数十時間の実機収集が要るなら、それは少なくとも現行の路線では、モデルの大型化だけでは解けなかった制約だ、ということになる。

新しい収集法やデータの供給源の報告を読むときは、1試行に人が何分張り付くかから、1万試行に要る人時を計算できる。そのうえで報告の数から、件数を倍にしたとき人の時間も倍になるか、装置を安くしたとき人の時間が減るか、機体を替えたら集め直しになるか、の三つを確かめればよい。上の三つの経路は、どれも件数とともに人の時間が増える関係を変えようとする試みである。


出典17件
  1. Physical Intelligence「π0: A Vision-Language-Action Flow Model for General Robot Control」RSS 2025. https://arxiv.org/abs/2410.24164 — 7構成・68タスク・約1万時間に公開データを混ぜて事前学習。下流の特化は5〜100時間超。 ↩ ↩2 ↩3 ↩4 ↩5

  2. Kaplan ほか「Scaling Laws for Neural Language Models」OpenAI, 2020. https://arxiv.org/abs/2001.08361 — 性能は規模・データ量・計算量のべき乗則で滑らかに伸びるとし、モデルを大きくする側に寄せた。データを等しく増やせとしたのは Chinchilla(Hoffmann ほか, 2022)。 https://arxiv.org/abs/2203.15556 ↩

  3. Penedo ほか「The FineWeb Datasets: Decanting the Web for the Finest Text Data at Scale」NeurIPS 2024 D&B. https://arxiv.org/abs/2406.17557 — Common Crawl 96回分を濾過して15兆トークンの公開コーパスを構築。 ↩ ↩2 ↩3

  4. Brohan ほか「RT-1: Robotics Transformer for Real-World Control at Scale」Google, 2022. https://arxiv.org/abs/2212.06817 — 13台が約17か月の遠隔操作で約13万デモを収集。強化学習で集めた Kuka のデータを混ぜると bin-picking は22%→39%。 ↩ ↩2 ↩3 ↩4 ↩5 ↩6 ↩7

  5. Mandlekar ほか「MimicGen: A Data Generation System for Scalable Robot Learning using Human Demonstrations」CoRL 2023. https://arxiv.org/abs/2310.17596 — 約200デモから5万件超を合成(大半はシミュレータ)。実機でも生成。 ↩ ↩2 ↩3 ↩4

  6. Khazatsky ほか「DROID: A Large-Scale In-The-Wild Robot Manipulation Dataset」2024. https://arxiv.org/abs/2403.12945 — 50人・12か月で76k軌道(350時間)・564シーン・86タスク。約16kの失敗試行は公開するが数に入れない。 ↩ ↩2 ↩3 ↩4

  7. Zhao ほか「Learning Fine-Grained Bimanual Manipulation with Low-Cost Hardware」2023. https://arxiv.org/abs/2304.13705 — 約2万ドルの両腕遠隔操作 ALOHA で、タスクあたり50〜100デモから6タスクを学習。成功率は20〜96%。 ↩ ↩2 ↩3

  8. Open X-Embodiment Collaboration「Open X-Embodiment: Robotic Learning Datasets and RT-X Models」2023. https://arxiv.org/abs/2310.08864 — 22機体・21機関の統合。転移の実験は9機体で、新しい機体への汎化は未検証と自ら書く。 ↩ ↩2 ↩3 ↩4 ↩5 ↩6

  9. Team AgiBot-World「AgiBot World Colosseo: A Large-scale Manipulation Platform for Scalable and Intelligent Embodied Systems」IROS 2025. https://arxiv.org/abs/2503.06669 — 実機100台・約2,976時間と自己申告。 https://doi.org/10.1109/IROS60139.2025.11247088 ↩

  10. Ahn ほか「AutoRT: Embodied Foundation Models for Large Scale Orchestration of Robotic Agents」Google DeepMind, 2024. https://arxiv.org/abs/2401.12963 — 1人が3〜5台を監督し、53台・7か月で77,000エピソード。台本の方策の成功率は21%。 ↩ ↩2

  11. Tobin ほか「Domain Randomization for Transferring Deep Neural Networks from Simulation to the Real World」2017. https://arxiv.org/abs/1703.06907 — 振るのは描画で、力学を合わせる系の同定は手間がかかり誤りやすいと書く。接触の多い操作は今後の課題とする。 ↩ ↩2

  12. Grauman ほか「Ego4D: Around the World in 3,000 Hours of Egocentric Video」CVPR 2022. https://arxiv.org/abs/2110.07058 — 931人・74か所・9か国の一人称映像3,670時間。ロボットの行動信号は含まない。 ↩ ↩2

  13. Chi ほか「Universal Manipulation Interface: In-The-Wild Robot Teaching Without In-The-Wild Robots」2024. https://arxiv.org/abs/2402.10329 — 3人が12人時で1,400実演、未見2環境で71.7%。 ↩ ↩2 ↩3 ↩4

  14. Ye ほか「Latent Action Pretraining from Videos」ICLR 2025. https://arxiv.org/abs/2410.11758 — Franka 実機3タスクの平均成功率は、事前学習なし21.2%、人間映像22万本で事前学習して34.0%。 ↩ ↩2 ↩3

  15. NVIDIA「GR00T N1: An Open Foundation Model for Generalist Humanoid Robots」2025. https://arxiv.org/abs/2503.14734 — 実機8タスクで動画生成の軌道を足すと平均成功率33.78%→39.63%。実機データ10%の条件で、著者らは予備的な結果とする。 ↩ ↩2

  16. Zhou ほか「LIBERO-PRO: Towards Robust and Fair Evaluation of Vision-Language-Action Models Beyond Memorization」arXiv, 2025. https://arxiv.org/abs/2510.03827 — v1 と v2(2026年5月改訂)で載せる数が違う。 ↩ ↩2

  17. Chen ほか「Faster and Better? Benchmark Bugs and Design Limitations Distort the Evaluation of Vision-Language-Action Acceleration」arXiv, 2026. https://arxiv.org/abs/2609.37771 — 指示文の不具合を報告(査読前)。 ↩ ↩2

この記事はAIを使用して執筆されました。内容には誤りが含まれる可能性があります。事実や数字の出典は脚注から確かめられます。