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AI・信頼性・評価

AI発の証明は、人が消化した版を経て数学になる

2026/8/17 (更新: 2026/10/1)

目次
【背景】数学者が読み、証明が三つの先行研究に依拠すると特定したAIの論文が引いていたのはそのうち二つだけ【問い】その出力は、どの工程を経て数学になるのか発表は一点だが、工程はその前後に広がっている
※概念図(背景→問い):本稿の読み方:見るべきは性能ではなく工程だ
背景

OpenAIの社内モデルが出した証明を数学者たちが読み、その議論が、少なくとも振り返ってみればGolod-Shafarevich、Hajir-Maire-Ramakrishna、Ellenberg-Venkateshという三つの先行研究に帰属しうるアイデアに決定的に依拠していると特定した1。AIの論文が本文と参考文献で引いていたのは、このうち前の二つだけである2。三つ目を名指し、自分たちの補題2.2がその着想に沿うと本文に書いたのは、あとから読んだ数学者のほうだった1。同じ論文の脚注1は、「AIの証明」という公開ファイル自体も、社内モデルが一発で生成したあと人がCodexとやりとりして説明の面を整えたものだと断っている1。

数学の結果は、答えらしきものが出た時点で完成しない。それが本当に正しいのか、すでに知られていることの言い換えではないのか、他人が読んで検証し使える形になっているのか。こうした確かめを通り抜けて、はじめて世に流通する。人が出した答えも同じ関門をくぐる。機械の出力だけがこの関門を免れるわけではない。だから見るべきものは、出力そのものの見事さではなく、その後に誰が読み、どこを直し、どれだけの時間で決着したかのほうだ。そこには、機械が担った部分と人が担った部分の境目が残っている。発表の瞬間だけを切り取ると、この境目は見えなくなる。

問い

機械が出したものは、どの工程を通って数学になるのか。発表の前後で実際に動いた手数を追う。

要点

見るべきは、外から確認できないモデルの性能ではない。工程のほうだ。 人が消化した版が出たか、数学者が先行研究への帰属を特定したか、訂正が入ったか。この工程は二度、同じ形で動いた。5月、OpenAIの社内モデルが単位距離予想を崩す具体例、つまり反例を出した。OpenAIがそれを発表した日に、9人の数学者が「短く消化され、人手で検証された版」を発表し、元の議論がどの先行研究に依拠しているかを特定した。そのなかにはAIの論文が引いていなかったものもある314。8月、OpenAIが未解決問題への解法をまとめて発表すると、数学者フランチェスコ・フルニエ=ファチオが数日のうちに見出しの結果の別構成を出し、あわせて、「10年間進展がなかった」という発表時の主張が直後に発表文から消えたことを記録した5。その間の6月には、国際数学連合が支持する「ライデン宣言」が、この種の発表をどう扱うべきかの規範を先に文書化していた6。発表は一点だが、数学になる工程はその前後に広がっている。

五月に起きたこと

単位距離予想はエルデシュが提起した組合せ幾何の問題だ。この予想は、平面上にn個の点を置いたとき、距離がちょうど1になる点の組の数が、nが十分大きければn^(1+ε)を超えない、とする。ここでεは、どれだけ小さくてもよい任意の正の数である1。数学者ギル・カライはブログに、OpenAIの社内モデルがこの予想への反例を見つけたと書いた。その反例は、ある固定された正の数 ε について、点の数nがいくらでも大きくなる配置の列で、どの配置も単位距離をn^(1+ε)個以上持つものである31。

カライはこの構成が代数的整数論に依拠していると書いた。代数的整数論は、整数を一般化した「代数的整数」の性質を用いて数の構造を調べる数学の一分野である。「これは本当に驚くべきことだ。構成は代数的整数論に依拠している」と述べ、この結果は「1976年のアッペルとハーケンによるコンピュータを使った四色定理の証明と同じく」、「組合せ論を超え、数学そのものを超えた重要性を持つ科学的な画期になりうる」とも書いている3。もっともカライ自身は、自分の記事に付いた質問への返信で、1976年の四色定理からの50年を振り返って「純粋数学におけるコンピュータの役割はいまだかなり限定的だ」とも書いている3。

9人の数学者が2026年5月20日、OpenAIの発表と同じ日にプレプリントを投稿した14。本稿はここを、この反例が数学として流通し始めた地点と見る。もっとも、人間の手が入り始めるのはここからではない。同論文の脚注1は、「AIの証明」と呼ばれるファイルが「OpenAIの社内モデルによってまず一発で数学的に生成され、その後 Codex との人間のやりとりを通じて説明の面で整えられた」ものだと断っている1。このファイルは、公開される前にすでに人の手を経ている。プレプリントとは、専門家が行う事前検証(査読)を経る前に公開される論文原稿を指す。論文の要旨は自らの仕事をこう説明する。「OpenAIが生成した単位距離予想への反例の、短く消化され、人手で検証された版と、それについての一連の考察を提示する」1。カライはこの論文について、証明が「提示され、説明され、論じられている」と書いている3。

「消化した版」という仕事

「短く消化され、人手で検証された」という表現は、具体的な作業を指している。他の数学者が読んで使えるところまで、議論を短くし、読める形に書き直す仕事だ。9人自身は自分たちの版を「人間が消化し、いくらか簡略化し、いくらか一般化した版」と呼んでいる。9人は議論を短くしただけでなく、より広く通用する形に直してもいる1。その作業量については、共著者のメラニー・マチェット・ウッドが具体的な見立てを書いている。この論文に集まった水準と種類の専門知が一か月前に反例探しへ動員され、ChatGPTの解を読んで考えるのに掛けたのと同じだけの時間を注いでいれば、数学者たち自身が反例を見つけていただろう、と1。同時に彼女は、ChatGPTの主張がなければ、誰も反例を探そうとはしなかっただろうとも書いている1。ウッドは続けて、この結果は、AIが証明したと主張して誤っていた回数までは見せてくれない、とも指摘する1。そのうえで彼女は、多くの場合AIにとっては正しい数学的議論を組み立てるより人間に証明があると納得させるほうが易しいだろうし、数学者の側はその備えが十分ではない、と書く1。

9人の論文はさらに、この議論がどの先行研究に依拠しているかを特定している。要旨は「この議論は、少なくとも振り返ってみればEllenberg-Venkatesh、Golod-Shafarevich、Hajir-Maire-Ramakrishnaに帰属しうるアイデアに決定的に依拠している」と書く1。ウッドは、なぜ特定が必要だったのかまで書いている。「この展開から直接に生じるもう一つの懸念は、文献に密接に関連するアイデアの歴史があり、その一部は上に挙げられているにもかかわらず、ChatGPTの論文で適切に参照されていないことだ」。ウッドの指摘はこうだ。数学者の職業規範は影響を受けた先行研究を引くよう求めるので、人間が同じ議論を出して先行研究を引かなければ、その研究を知らずに独立に思いついたのだと推定される。だがChatGPTはある意味ですべての先行研究に「馴染んでいる」ので、同じ推定が働かない1。ここで彼女が使う語は「適切に参照されていない」であって、参照が皆無だという意味ではない。AIの論文はGolod-ShafarevichとHajir-Maire-Ramakrishnaを、本文でも参考文献でも引いている2。要旨が挙げた三つのうち引かれていなかったのはEllenberg-Venkateshで、9人は自分たちの補題2.2がその着想に沿うものだと本文に書いている1。後で見るライデン宣言が脅威として名指しする帰属の失敗は、この一点について実際に起きたと原典自身が記録している。要旨の「少なくとも振り返ってみれば」という留保は、三つの帰属関係が最初から自明だったわけではないことを示している。

要旨には、証明が正しいと宣言する文はない。だが要旨で止めると読み違える。9人は§1.4で「§2でTheorem 1.1 の完全な証明を与える」と書き、§2で実際に与えている1。共著者のトーマス・ブルームは、より踏み込んで書く。「この証明の一側面は見落とされるべきではない。AIが生み出した元の証明は完全に妥当だったが、OpenAIの人間の研究者と本論文に関わった多数の数学者によって大幅に改善された。人間は依然として、この証明を議論し、消化し、改善し、その帰結を探ることにおいて不可欠な役割を果たしている」1。

八月、同じ工程が二度目に動いた

数学者フランチェスコ・フルニエ=ファチオが8月3日に投稿したプレプリントは、こう記録している。「2026年8月1日、OpenAIは数学の10件の主要な未解決問題への解法を発表した」5。

フルニエ=ファチオはこの発表から2日のうちに、見出しの結果の一つについて別の構成を発表した。対象は非ソフィック群の構成だ。ソフィック性とは、群の元同士の掛け算の関係を、有限個の要素からなる対称群の演算で近似できるという性質を指し、この性質を持たない群を非ソフィック群と呼ぶ。ソフィック性を持たない群が存在するかという問いはGromovとWeissに帰属する5。フルニエ=ファチオによれば、OpenAIの証明はProposition 1.2をThompson群Vと二進Leavitt代数上の基本行列群に適用するものだったが、フルニエ=ファチオは自らの目的をこう書く。「解の理解を深め、証明の各部分が果たす役割を理解するために、Leavitt代数を一切使わずに非ソフィック群を構成する方法を、Proposition 1.2を使ったまま示す」5。

彼は自分の構成について慎重な言い方をする。「この証明がより易しい、より優れている、あるいはより初等的だとは主張しない。私にとってより自然だというだけで、7月30日の時点で自分がすでに知っていたことしか使っていない」5。同じ一文の括弧で、Leavitt代数とThompson群の関係のほうは、OpenAIの最初のドラフトを読んで知ったとも書いている5。彼が示したのは、有限表示された捩れのない非ソフィック群だ(定理1.3)。一方で彼は、新規性の所在を具体的に特定してもいる。自らの構成は小消約理論の「かなり標準的な議論」だとしたうえで、だからこそ「Proposition 1.2 が [Ope26] における鍵となる新規性だと私には思われる」と書き、こう続ける。「この種のことではよくあるように、新規性は証明よりもむしろ言明のほうにある(証明のほうも依然として巧妙で技術的だが)。[KT19] を知る専門家ならおそらくProposition 1.2を証明できただろうが、この言明を思いつかなかったかもしれない」5。理由も添えている。[KT19]を強める言明は無数にあり、その多くは偽か、真でも使い道がないという5。そのうえで、AIモデルは時間と資源の制約に煩わされないので、手当たり次第に投げて当たるものを見ることができる、と述べる5。

訂正も工程のうちだ

フルニエ=ファチオの論文は、最初の版の1ページ目に、OpenAIの発表への訂正を三つ並べている。一つ目は進展の有無についてだ。OpenAIは8月1日の発表で、対象とした主結果について「少なくとも10年間、進展がなかった」と主張していた。この主張は8月3日付けで削除された、と論文は書く(原典の語は redacted で、記載から削除されたという意味である。撤回声明が出たわけではない)。「8月1日のOpenAIの発表における『主結果について少なくとも10年間進展がなかった』という主張とは対照的に、この主張は8月3日に削除された」5。彼がこの記述を置いたのは、OpenAIの証明の鍵となる命題がKun (2016) と Kun–Thom (2019) の仕事の上に決定的に立っていると書いた、その一文の脚注としてである。「10年間進展がなかった」を覆したのは、この二つの先行研究だ。発表ページの保存版でも、8月1日の版にあった「少なくとも10年」の句は、8月3日の版では「長年の未解決問題を解くか大きく前進させる」という書き方に替わっている7。残る二つは、問題の呼び方と命題の書き方に向いている。二つ目は、OpenAIがこの問題を「soficity conjecture」と呼んだ点についてで、著者は、すべての群がソフィックだと予想されたことはないと書く5。三つ目は、OpenAIの命題が明示的に置く「有限生成」という仮定は、性質(T)を持つ群であれば自動的に従う、という技術的な訂正である5。

フルニエ=ファチオはこの論文自身も、8月14日に改訂している。最初の版に寄せられた複数のコメントを受けた改訂で、Leavitt代数とThompson群の関係の初出をBirgetとNekrashevychに帰する一文を足した5。同時に、上の二つ目と三つ目の訂正と、その関係を最初のドラフトで読んで知ったという句は、本文から落ちている5。v2 の謝辞で著者は、引用の欠落の指摘を含む複数のコメントが論文を大きく改善したと書き、それを数学をする過程の本質的な部分と呼んでいる5。訂正を記録した側が、同じ工程を受ける側へも回っている。

六月に、規範は書かれていた

OpenAIの8月の発表に先立つ6月2日、「人工知能と数学に関するライデン宣言」が公表された6。この宣言は国際数学連合(IMU)の支持を受けており、サイトはIMU副会長Ulrike Tillmannの推薦文を掲載している。署名者数は2026年8月7日時点で3,461人だった(サイトは直近の24人のみを表示する)6。

宣言はこの種の出来事に関わる脅威を名指ししている。一つは、「現在の自動化技術は、もっともらしいが信頼できない、あるいは誤った議論を生成しうるが、それは正しい数学的証明と見分けがつきにくい」という点だ6。宣言は、これが非形式的な議論だけでなく形式化にも当てはまり、難しさは計算機向けの表現と人向けの表現のあいだの翻訳にあると続ける6。もう一つは、査読を経る前に、プレスリリースやブログ記事を通じて結果が発表される点だ6。宣言は、そうした報道が自動化ツールの意義を過大に見せ、それを可能にした先行する人間の貢献を過小に見せると書く6。三つ目は帰属の失敗で、公開された研究で訓練されたモデルが、出典を適切に引用しないまま出力を生成する点だ6。

宣言は数学者に向けて、「議論と結果の正しさおよび妥当性についての責任は、そして関連する先行研究への引用の完全性と正確性についての責任も、もっぱら人間の著者に残る」と勧告し、自動化ツールの使用を透明に開示するよう求める6。後半は、本稿が読み方の柱に挙げた「帰属の特定」そのものだ。数学の組織や非営利の研究資金提供者に向けては、「数学的な結果は、学術誌や会議録、書籍のような査読を経た媒体で発表され続けることを要求せよ」と勧告する6。政策立案者に向けては「誇大宣伝を信じるな」と述べ、企業のプレスリリースに頼るのではなく数学者に相談するよう勧める6。宣言には商用AIに宛てた第四の節もあり、商用AIの能力を宣伝するために数学が使われることを名指ししている6。

8月1日のOpenAIの発表ページは、数学におけるAIの影響を懸念する人々に深い敬意と理解を表し、そこにこの宣言の署名者を名指しで含めている7。同じ節は、帰属は結果がどう生み出されたかを正直に反映すべきだとし、AIが全て生成した証明を人の著作だと称すれば、システムの寄与も人の知的な仕事の性格も偽ることになると書く7。ただしこの帰属はAIと人の寄与の分け方についてのもので、宣言が求める関連する先行研究への引用とは向きが違う76。

外から確かめられないもの

ゲアリー・マーカスは8月2日、自身のブログでこの発表を論じた。彼は、ある種の数学での成功が全ての領域での卓越性を意味すると仮定する評者たちの姿勢を、合成の誤謬だと述べる8。合成の誤謬とは、部分について成り立つことが全体についても成り立つと誤って推論することである。

マーカスが紹介するアーニー・デイヴィスの指摘によれば、10件の問題が選ばれるまでに何件の予想が試みられたかについての透明性がない。その分母がわからなければ、適切な評価はできない8。デイヴィスはまた、OpenAI が自ら掲げる計算コスト2,000ドルという数字(デイヴィスの原文は brags loudly)について、「これはAstraが成功した予想だけを含み、失敗した予想は含んでいないと見るのが安全な賭けだろう」と書く。分母の話のコスト側だ。そのうえで、関わった「高給の数学者やコンピュータ科学者の給与」が算入されていない点を指摘し、見積りをこう置く。「2万ドルを下回れば私は驚く。20万ドルを上回っても驚かない」8。この2,000ドルは第三者が報じた値ではなく、OpenAIのグレッグ・ブロックマンが8月1日の投稿で「Sol API価格でおよそ2,000ドル」と掲げた概算であり、本稿はこれを独自に検証していない8。

マーカス自身は、「249ページの論文」に、モデルがどう動くか、証明がどう検証されたか、人間がどんな役割を果たしたか、提案された証明に誤りがあったかどうかについて「1ページも書かれていない」と書く8。最後の項目は、本稿の「訂正」と同じではない。本稿が追えた訂正は発表文の主張、問題の呼び方と命題の書き方、引用に入ったもので、証明そのものに誤りが見つかった記録ではない。マーカスは、論文だけでなく前日の発表のツイートとブログ記事も、どう達成されたかについて何の情報も与えていないと書く8。だが8月1日の発表ページ自体は、解法の議論を人が同じモデルとともに原稿にまとめ、その後モデルが各議論をLeanで形式化した(証明を機械が検査できる形に書き直した)と書き、原稿と証明の正しさに責任を負うと述べている7。この発表が対象とするのは社内版のモデルで、一般には公開されていない8。マーカスは、Astraの証明の書きぶりが証明の中身に見合っていないようだ、とも指摘する8。彼が引くヘンリー・ユエンは、同じ発表の別の結果について、この証明の書き方には失望したと述べている8。この二つは公開された文章についての評価であり、外から原文に当たって確かめられる。マーカスはこうも書く。「非常に印象的だ。だが Astra が、ASI はおろか AGI だと考える理由すら何一つ見当たらない」8。数学、少なくともある種の数学については卓越しているように見えるが、それは他の領域での信頼性を意味しない、というのが彼の論旨だ8。なおOpenAIの発表ページ2本は本稿の取得では403を返したが、Internet Archiveの保存版で本文を確かめた47。5月の技術論文はcdn.openai.comから取得できるPDFを参照している2。

何を見て読むか

ここまでの二つの事例には、共通する形がある。この二つでは、発表の前から人の読みが動いていた。5月は、共著者のダニエル・リットが、モデルが解を出したあとOpenAIの研究者から正しさの確認を頼まれたと書いている1。発表ページは公開の時点で外部の数学者による確認が済んでいたと書き、9人の論文を付随する論考としてリンクしている4。8月は、フルニエ=ファチオが発表の前日に早期版を読み、発表当日の夜に最初の版を自分のページに出している5。ただし同じ9人論文のなかで共著者のガワーズは、5月の反例を、少なくとも自分の数学的界隈では有名な未解決問題が「訓練を終えて問題を与えられたあと、人間の介入なしに」AIによって解かれた最初の例だと書いており、工程を強調する本稿の読み方と緊張する1。ガワーズが言うのはモデルが解を出す段階のことで、本稿が見るのはその後に人が確かめ、消化して公開する段階のことだから、両者は事実としては両立する。違うのは、「解いた」をモデルの出力の時点で数えるか、人が消化して流通し始めた時点で数えるかである。

本稿が読み取る限りでは、こうした発表を読むときに見るべきものは三つある。人が読める消化版が出たかどうか、先行研究への帰属が特定されたかどうか、そして何か訂正されたかどうかだ。三つを束ねてこの順に見るという読み方自体は本稿のものだが、一つ目については1が明示的に述べている。先に引いたブルームの一文が、消化と改善を人間の役割として名指ししている。カライも、AIが全て生成した論文を人が確かめて正しさを保証する営みについて、検証が大きなボトルネックだとコメント欄に書いている3。性能の数字は外部の読み手には検証しようがないが、工程が動いたかどうかは、プレプリントの投稿日や訂正の記録として、外部からでも追うことができる。ただし、この工程が回る条件は原典自身が名指ししている。ヴィクター・ワンは、完全な議論が数ページに収まったことが検証をなめらかにしたと書く1。そのうえで、消化版がもう少し長ければ、参加者が細部の検証に時間を割く気にならず、工程はより厄介になっただろうと述べる1。5月の9人論文でいう検証は人手による読みであり、形式化については、ワンが「形式化がAIと並んでどう進むかは興味深い」と続ける一文があるにとどまる1。

5月の結果の後、カライの記事には追記とコメントが重ねられ、そこには人と機械の両方の仕事が続いた跡が残っている。ソーウィンは下界 n^1.014 を証明し、同じ論文でこの手法が届く限界 1.2143 も示した3。その下界を n^1.0318 へ押し上げたのは ChatGPT らしいと、コメント欄に読者が書いている3。アンスロピックも、自社のシステムが最も強い形の単位距離予想を自律的に反証したと報告した3。OpenAIの単位距離予想への反例に触発されて、ブルーム、ソーウィン、シルトクラウト、ジェレゾフがエルデシュ=セメレディの和積予想を実数について反証した9。その論文は、GPT-5.5 Proを初期の壁打ちに使ったが、補題一つの提案を除いて最終的な証明と主要なアイデアはほぼ全て人間が生成したと自ら申告している9。一つの結果が公開されたあと、人の仕事も機械の仕事も止まらずに続いている。


出典9件
  1. Noga Alon, Thomas F. Bloom, W. T. Gowers, Daniel Litt, Will Sawin, Arul Shankar, Jacob Tsimerman, Victor Wang, Melanie Matchett Wood, “Remarks on the disproof of the unit distance conjecture”(arXiv:2605.20695, 2026年5月20日投稿)。査読前のプレプリントである。要旨は「OpenAIが生成した単位距離予想への反例の、短く消化され、人手で検証された版と、それについての一連の考察を提示する」と書き、この議論は「少なくとも振り返ってみればEllenberg-Venkatesh、Golod-Shafarevich、Hajir-Maire-Ramakrishnaに帰属しうるアイデアに決定的に依拠している」とする。要旨自体は証明が正しいと宣言する文を含まないが、本文はそこで止まっていない。§1.4 に逐語 In Section 2 we give a complete proof of Theorem 1.1.。本稿が引く考察は、いずれも名前つきの節にある。§4 トーマス・ブルーム(p.9): 逐語 while the original proof produced by AI was completely valid, it was significantly improved by the human researchers at OpenAI and the many other mathematicians involved in the present paper. The human still plays a vital role in discussing, digesting, and improving this proof, and exploring its consequences.。§11 メラニー・マチェット・ウッド(p.17): 逐語 there is a history of closely related ideas in the literature, some of which are mentioned above, but which are not appropriately referenced in Chat GPT's paper. および Chat GPT is in some sense "familiar" with all the previous work。同節の冒頭には逐語 the mathematicians would have found a counterexample と without the claimed proof by Chat GPT, there is no particular reason anyone would have tried to look for a counterexample、続けて This result does not show us all the times AI has claimed to have a proof of something and been wrong.、その2文あとに In many cases, it will be easier for AI to convince humans it has a proof than to come up with a correct mathematical argument, and I believe that we as mathematicians are not sufficiently prepared for this.。§10 ヴィクター・ワン(p.16): 逐語 made the verification process relatively smooth および Had the final digested argument been a bit longer, the process may have been trickier, as participants may have been less willing to invest time in checking details.、直後に It will be interesting to see how formalization progresses alongside AI.(formaliz は全文でこの1件)。§6 ダニエル・リット(p.12): 逐語 After an internal model at OpenAI produced a solution, I was asked to check its correctness by Mark Sellke and Mehtaab Sawhney at OpenAI。§11 のウッドは推定の根拠を逐語 since our professional norms require us to cite previous work whose ideas influenced our work と書く。§5 W. T. ガワーズ(p.9): 逐語 a famous (in my mathematical circles at least) open problem および with no human intervention once it had been trained and then given the problem to solve。補題2.2の着想については §1 に逐語 along the lines of an idea of Michel, Soundararajan, Ellenberg, and Venkatesh recorded in [10]([10] は Ellenberg-Venkatesh, Reflection principles and bounds for class group torsion)。予想は §1.1 で上界 n^(1+o(1)) として述べられ(逐語 was conjectured by Erdős)、反例は §1 の Theorem 1.1 が点集合の列として述べる(逐語 There exists a sequence of point sets Pi in R2 such that |Pi | → ∞)。https://arxiv.org/abs/2605.20695 ↩ ↩2 ↩3 ↩4 ↩5 ↩6 ↩7 ↩8 ↩9 ↩10 ↩11 ↩12 ↩13 ↩14 ↩15 ↩16 ↩17 ↩18 ↩19 ↩20 ↩21 ↩22 ↩23 ↩24 ↩25

  2. OpenAI, “Planar Point Sets with Many Unit Distances”(18ページ、日付表示なし)。AIが出した証明そのものを載せた技術論文であり、査読を経ていない。要旨は逐語 This disproves the well-known unit distance conjecture from [Erd46].。本文と参考文献にGolod-ShafarevichとHajir-Maire-Ramakrishnaを引く(逐語 This is the Hajir–Maire class-field-tower method, in an unramified pro-3 setting および the same tower-cutting mechanism developed further by Hajir, Maire, and Ramakrishna [HMR21])。全文に対し Ellenberg Venkatesh Michel Soundararajan はいずれも0件(行末ハイフネーションを避けるため部分文字列でも照合した)。末尾は逐語 Below we also reproduce verbatim the original solution output by the internal model, before any automated grading or rewriting was performed. として採点も書き直しも通していないモデル出力を載せる。発表ページ https://openai.com/index/model-disproves-discrete-geometry-conjecture/ は直接の取得では403を返す(本稿は Internet Archive の保存版で本文を確かめた)。PDFはCDNから取得できる。https://cdn.openai.com/pdf/74c24085-19b0-4534-9c90-465b8e29ad73/unit-distance-proof.pdf ↩ ↩2 ↩3

  3. Gil Kalai, 「Amazing: Erdős’ Unit Distance Problem was Disproved! It was achieved by AI!」(Combinatorics and more, 2026年5月21日)。数学者本人による個人ブログの記事であり、査読を経た論文ではない。OpenAIの社内モデルが単位距離予想への反例を見つけたと書き、構成は代数的整数論に依拠しているとする。その反例は、n点の間にn^(1+ε)を超える数の単位距離が現れる配置である。証明は9人の論文で「提示され、説明され、論じられている」と紹介する。以下の二つは記事本文ではなくコメント欄にある。カライ自身の返信(2026年5月24日)に、4CTからの50年を振り返って逐語 still in the past 50 years the role of computers in pure mathematics is rather restricted。カライ自身の別の返信(同5月28日)に、逐語 Checking is a major bottleneck so this is a great service.。ヨゼフ・ソリモシの評は、9人論文の共著者でもある Victor Wang がコメント欄に寄せたもので(同6月7日)、ハンガリー語の記事(ematlap.hu)の機械翻訳である。逐語 several of us have tried to construct a counterexample, from this perspective [the new result] is not surprising および The result is fantastic, I was most surprised by the depth of the solution.(いずれもカライの記述ではない)。1.0318 への改善の担い手については、読者 Stephan Lauermann の書き込み(同5月22日)に逐語 ChatGPT improved Will Sawin‘s point substantially, it seems. と improved the bound (not point) to 1.0318, it seems.(これもカライの記述ではない)。記事末尾の Updates には、逐語 Will Sawin proved a lower bound of に続けて数式画像 n^{1.014}; と n^{1.0318}、および Sawin also proved in the same paper a limit 1.2143 for the new method.(数式は <img alt> で描かれる)、続けて Following the OpenAI result, Anthropic reported being able to autonomously disprove the unit-distance conjecture (in its strongest form) with its system.。カライは本文に OpenAI の発表ページと技術論文へのリンクを置いており、後者は cdn.openai.com の PDF を指す。https://gilkalai.wordpress.com/2026/05/21/amazing-erdos-unit-distance-problem-was-disproved-it-was-achieved-by-ai/ ↩ ↩2 ↩3 ↩4 ↩5 ↩6 ↩7 ↩8 ↩9

  4. OpenAI, “An OpenAI model has disproved a central conjecture in discrete geometry”(発表ページ, 2026年5月20日)。企業の発表文であり、査読を経ていない。直接の取得では403を返すため、Internet Archive の 2026年5月20日 19:35 UTC の保存版で本文を確かめた。見出し直下に Read the companion remarks のリンクを置き、本文に逐語 The proof has been checked by a group of external mathematicians. They have also written a companion paper explaining the argument and providing further background and context for the significance of the result.。https://web.archive.org/web/20260520193524id_/https://openai.com/index/model-disproves-discrete-geometry-conjecture/ ↩ ↩2 ↩3 ↩4

  5. Francesco Fournier-Facio, “A torsion-free non-sofic group”(arXiv:2608.02025, 2026年8月3日投稿)。査読前のプレプリントである。「2026年8月1日、OpenAIは数学の10件の主要な未解決問題への解法を発表した」と記録し、「8月1日のOpenAIの発表における『主結果について少なくとも10年間進展がなかった』という主張とは対照的に、この主張は8月3日に削除された」と書く(逐語は This claim has been redacted on 3 August.)。著者はLeavitt代数を使わずに非ソフィック群を構成する方法をProposition 1.2を使ったまま示し、「この証明がより易しい、より優れている、あるいはより初等的だとは主張しない」と述べる。v1 は2026年8月3日投稿、v2 は8月14日改訂(arXiv の Comments 欄は 5 pages. v2: small changes after several comments on the first version)。本稿が引く記述のうち、「soficity conjecture」への訂正(逐語 I do not think it was ever conjectured that all groups are sofic)、有限生成の仮定への訂正(逐語 The statement in [Ope26] insists that Γ and G be finitely generated, but all property に続けて性質(T)の群がそうだと述べる。括弧はPDFのテキスト層で機械照合できない)、および最初のドラフトで知ったという句(逐語 unlike the connection between Leavitt algebras and Thompson groups, which I learned about by reading the first draft。v2 でも括弧の前半 (unlike the connection between Leavitt algebras and Thompson groups) は残る)は v1 にあり、v2 では削られている。v2 で足された一文は逐語 To the best of my knowledge, this connection between Leavitt algebras and Thompson groups was first observed independently by Birget [Bir04] and Nekrashevych [Nek04].。v2 の謝辞に逐語 On 31 July 2026 I saw an early version of [Ope26] と I posted the first version of this note on my homepage on the evening of 1 August 2026, the day of the announcement.、続けて Goulnara Arzhantseva and Marcin Kotowski pointed to missing citations と This is an essential part of the process of doing mathematics。新規性の所在については両版に逐語 As it often happens with these things, the novelty is not so much in the proof と experts aware of [KT19] would probably have been able to prove Proposition 1.2, but they might not have thought of this statement.、続けて There are myriad possible statements strengthening [KT19], many of which are surely false, and many of which might be true but have no application. と AI models are not inconvenienced by constraints of time and resources, so they get to throw things at the wall and see what sticks.。https://arxiv.org/abs/2608.02025 ↩ ↩2 ↩3 ↩4 ↩5 ↩6 ↩7 ↩8 ↩9 ↩10 ↩11 ↩12 ↩13 ↩14 ↩15 ↩16

  6. 「Leiden Declaration on Artificial Intelligence and Mathematics」(2026年6月2日公表)。研究論文ではなく、擁護のための宣言文である。国際数学連合(IMU)の支持を受け、副会長Ulrike Tillmannの推薦文を掲載し、署名者数は2026年8月7日時点で3,461人だった。「現在の自動化技術は、もっともらしいが信頼できない、あるいは誤った議論を生成しうる」と書き、査読前の発表や帰属の失敗を脅威として名指しし(逐語 In many cases this leads to simplifications in reporting, such as overemphasizing the significance of automated tools and undervaluing the prior human contributions which have made those tools possible.)、「議論と結果の正しさおよび妥当性についての責任は、もっぱら人間の著者に残る」と勧告する。脅威の一つ目には続けて逐語 This applies not only to informal arguments, but also to formalizations, where the difficulty lies in the translation between computer-encoded and human presentations of concepts.。勧告は4節あり、第4節は商用AI宛て(逐語 Recommendations for commercial artificial intelligence および One is through the use of mathematics to advertise the capabilities of commercial artificial intelligence systems in public communications and public relations campaigns.)。宣言は自らを逐語 The Declaration reflects artificial intelligence technologies and mathematical practice as of May 2026. と時点で切っている。https://leidendeclaration.ai/ ↩ ↩2 ↩3 ↩4 ↩5 ↩6 ↩7 ↩8 ↩9 ↩10 ↩11 ↩12 ↩13

  7. OpenAI, “Ten advances in mathematics and theoretical computer science”(発表ページ, 2026年8月1日)。企業の発表文であり、査読を経ていない。直接の取得では403を返すため、Internet Archive の保存版2本で本文を確かめた。8月1日 09:08 UTC の版に逐語 These arguments were then prepared into manuscripts by humans with the same model. Afterward, the model formalized each argument in a Lean certificate、および We helped prepare the manuscripts and formalize the proofs in Lean, and we take responsibility for their correctness, while the mathematical arguments themselves were generated by our system.、冒頭に have seen no progress on the main result for at least a decade。同じ版の「Responsibility to the mathematical community」節に逐語 including the signers of the Leiden declaration on AI and Mathematics と claiming human authorship for a proof generated entirely by an AI system would misrepresent both the system’s contribution and the nature of genuine human intellectual work.。8月3日 06:56 UTC の版では同じ位置が逐語 each of which resolves or makes substantial progress on a long-standing open problem で、decade の語は無い。https://web.archive.org/web/20260801090839id_/https://openai.com/index/ten-advances-in-mathematics/ https://web.archive.org/web/20260803065650id_/https://openai.com/index/ten-advances-in-mathematics/ ↩ ↩2 ↩3 ↩4 ↩5 ↩6

  8. Gary Marcus, “OpenAI’s amazing — but vastly oversold — new model Astra”(本人のブログ, 2026年8月2日)。査読を経ない意見記事である。評者たちが個別の成功を全領域の卓越性と混同する合成の誤謬を指摘し、Ernie Davisの指摘として、選定に至るまでの試行数が非公開であること、OpenAI が自ら掲げた計算コスト2,000ドル(原典の逐語は OpenAI brags loudly that this was done for a total computation cost of $2000)が関係者の給与を含まないことを紹介する。「249ページの論文」にモデルの仕組みや検証方法についての記述が「1ページもない」と書きつつ、「Astra……は驚くべきものだ」とも書く。書き方については地の文に逐語 it appears that Astra's proofwriting is not on par with the proofs themselves。ヘンリー・ユエンの評(逐語 I am disappointed by the writeup of this proof)は、この記事の地の文ではなく、記事に埋め込まれたツイートである。Part III の地の文には逐語 Yesterday's tweet and blog were marketing, not science. Neither of those nor the 249-page math article that went with them give any information about how this was accomplished。2,000ドルの出所も同じ記事に埋め込まれた Greg Brockman のツイート(2026年8月1日)で、逐語 solved using an internal version of Astra, our next major model, for a total cost of about $2000 at Sol API prices。https://garymarcus.substack.com/p/openais-amazing-but-vastly-oversold ↩ ↩2 ↩3 ↩4 ↩5 ↩6 ↩7 ↩8 ↩9 ↩10 ↩11

  9. Thomas F. Bloom, Will Sawin, Carl Schildkraut, Dmitrii Zhelezov, “The sum-product conjecture is false for real numbers”(arXiv:2605.28781, 2026年5月27日投稿)。査読前のプレプリントである。§1 末尾の「The role of AI in this proof」に逐語 The authors were inspired to revisit the possibility of disproving the sum-product conjecture using number fields of large degree by the recent OpenAI counterexample to the unit distance conjecture (see [2]).([2] は9人の論文 arXiv:2605.20695)、続けて GPT-5.5 Pro was used as a sounding board in the early stages of the development of this proof, but the final proof, including all the main ideas, was almost entirely human-generated (the exception being the suggestion of Lemma 3.4, which replaced a more complicated result of Schinzel with a short elementary argument). Everything in this paper was written by the authors.。https://arxiv.org/abs/2605.28781 ↩ ↩2

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