AIエージェント
OpenShell、エージェントの権限を操作の単位で外から強制
- OpenShell
- AIエージェント
- サンドボックス
- sandbox-runtime
- Claude Code
- MCP
- GraphQL
- REST
- OPA/Rego
- Landlock
- 認証情報
- プロキシ
- カーネル
- 承認
- HTTPメソッド
- 証明器
- 接続先
- NVIDIA
- Anthropic
- GitHub
- YAML
- TLS
- MITMプロキシ
- domain fronting
- Supervisor
- Gateway
- policy advisor
目次
開発者が、AIエージェントに業務システムの認証情報を渡し、長い作業を任せる場面を考える。認証情報は、外部のサービスが利用者を確かめるための鍵やトークンを指す。操作のたびにエージェントが人へ許可を尋ねると、確認の回数が増え、人は中身を読まずに承認するようになる。
そこで、エージェントの外側で制限をかける方法が使われ始めた。サンドボックスは、プログラムが触れるファイルや通信の相手を、OS の機能で制限した実行環境である。プロキシは、通信を途中で受けて宛先へ中継するプログラムである。ただし、接続先の一覧で通信を絞るだけでは、許した接続先で読むか書くかを区別できず、認証情報も手元に残る。
本稿が例に選んだ実行環境は、NVIDIA の OpenShell と Anthropic の sandbox-runtime の二つである。理由は、両者がともにエージェントの外で通信を制限しながら検査の細かさが異なり、作り手が設計と限界を一次資料に書いているからである。権限を制限する方法には、コンテナや仮想マシンで丸ごと隔離する形や、エージェントのフレームワークの中で道具ごとに許可を設定する形もある。
エージェントに認証情報を渡して作業を任せるとき、権限はどこで、どの細かさで強制されるようになっているのか。
エージェントの権限は、エージェントが人に毎回許可を尋ねる形から実行環境の外で強制する形へ移っており、外側の検査は接続先の単位から、同じAPIの読み取りと書き込みを分ける操作の単位へ細かくなり始めている。 毎回の承認は人の負担になるので、作り手は制限を実行環境の外へ移し、OS とプロキシで強制している。接続先の単位の許可は、許した接続先の中での書き込みや認証情報の持ち出しを止められない。操作の単位の検査はこの隙間を狭めるが、検査できる通信の種類と、自動で検証できる規則の種類に限りがある。
書き込める鍵を渡して、issue の要約だけを頼む
※ この節の数値は説明のための仮定で、測定値ではありません。
開発者が、GitHub のアクセストークンをエージェントに渡し、「リポジトリの issue を読んで要約せよ」と頼むとする。アクセストークンは、GitHub が利用者を確かめるために使う文字列であり、このトークンには書き込みの権限が付いている。issue は、リポジトリに付く課題の記録で、コメントを書き足せる。頼んだ仕事は読むだけで済むが、エージェントは誤って、あるいは issue に紛れ込んだ悪意のある指示に従って、issue にコメントを書き込もうとする。
GitHub の API(プログラムから GitHub を操作するための要求の取り決め)に対して、エージェントは読む要求を GET、コメントを書く要求を POST という HTTP メソッドで送る。HTTP メソッドは、要求が資源を読むのか、作るのか、変えるのかを示す要求の種類である。同じ書き込みの試みが、三つの設定でどう扱われるかを比べる。
- 毎回の承認: エージェントが書き込む前に、承認を求める画面が出る。その日の 40 回目の承認なら、開発者は中身を読まずに許可を押しうる。押せば書き込みは通る。
- 接続先の一覧で api.github.com を許可: 接続先が許されているので、POST もそのまま通る。トークンはエージェントの手元にあるので、エージェントは別の経路でもトークンを使える。
- api.github.com への GET だけを許可し、トークンを外の中継で差し込む: POST は外の中継で拒まれる。トークンはエージェントの手元に無いので、エージェントはトークンを持ち出せない。
三つの設定の差から、二つの性質が出る。書き込みを止める判断を人の注意から外すには、許可を接続先より細かい要求の種類に付けることが要る。また、要求の種類で分けても、GET の要求で何かを変える API に対しては、GET を許した時点でその変更は止まらない。
許可の確認は、実行環境の外での強制へ移っている
作り手は、確認の負担を減らすために、制限を実行環境の外で強制する形へ移している。Anthropic は、同社のコーディングエージェント Claude Code にサンドボックスを入れたことで、社内の利用で許可の確認が 84% 減ったと報告する1。同社は、有効なサンドボックスにはファイルとネットワークの両方の隔離が要るとも書く1。
Anthropic は 2025年10月、このサンドボックスの実行環境を研究用の試作版としてオープンソースで公開した1。その道具が sandbox-runtime である2。sandbox-runtime は、OS の機能で任意のプロセスが触れるファイルと通信を制限する。プロセスは、実行中のプログラムを指す。通信は外のプロキシを通り、プロキシは許可した接続先の一覧を強制する21。
NVIDIA も、同じ問題から出発している。同社の技術ブログは、有用なエージェントには作業場所・計算資源・データ・認証情報・外部サービスへのアクセスが要ると書く3。同じ記事は、広いアクセスが、本番データの変更や機密の流出、任務を越えた行動といった、より重い失敗を生むとも書く3。NVIDIA は、この重さに対して、エージェントを書き直さずに外から制御を加えることを目標に置く3。
OpenShell は、NVIDIA が開発するオープンソース(Apache 2.0)の実行環境で、GitHub のリポジトリは 2026年2月に作られた4。作り手は OpenShell を、多数の自律エージェントのための安全な実行環境と説明する4。NVIDIA の技術ブログは、2026年9月28日に版 0.1.0 の仕組みを紹介した3。
OpenShell は、三つの部品を目的ごとに分けている3。Supervisor は、各サンドボックスと組になってエージェントの外で動き、外向きの要求を規則と照らす。Sandbox は、ファイルとプロセスをカーネルで制限し、Supervisor を通る以外の通信の経路を持たない。カーネルは、OS の中核で、プロセスがファイルや通信を使う要求を許すかどうかを最終的に決める部分である。Gateway は、多数のサンドボックスの規則と、作ってから消すまでの寿命を管理する。
外で強制する形の利点は、エージェントがどの手段で動いても制限が残る点にある。NVIDIA の記事によれば、エージェントがシェルを起動しても、生成したコードを実行しても、子プロセスを立ち上げても、サブエージェントへ仕事の委任を提案しても、制御は残る3。
検査の単位は、接続先から HTTP の操作へ細かくなる
sandbox-runtime は、既定では通信を接続先の単位で絞り、通信の中身を検査しない2。作り手は、この設計の限界を README に自分で書いている。一例として、github.com を許すと、プロセスは任意のリポジトリへ push できる2。作り手は、domain fronting で一覧を迂回されうることも書く2。domain fronting は、通信の外側に見える接続先と、中で実際に要求する宛先を別にする手法である。利用者は、信頼できる接続先だけを一覧に入れる責任を負う2。
作り手は、中身を検査する道も示している。MITM プロキシは、暗号化された通信を中継点でいったん解き、中身を見てから宛先へ送るプロキシである。sandbox-runtime の README は、自前の MITM プロキシと証明書を正しく設定すれば、個別の API 呼び出しを検査して絞れると書く2。README は試験的な機能として、sandbox-runtime 自身が HTTPS の接続を中継点で解き、復号した要求を見て絞る設定も載せている2。既定の範囲は接続先の単位であり、その先の検査の規則は利用者が書く。
OpenShell は、この先の検査を Supervisor に持たせた。NVIDIA の記事は、Supervisor が設定した HTTP・GraphQL・MCP の通信を検査し、同じ API でデータの問い合わせを許しつつ書き込みを拒めると書く3。規則で指定する protocol の値によって、検査する項目が変わる5。
- rest: HTTP メソッド、パス、クエリを検査する。REST は、URL のパスで資源を表し、HTTP メソッドで操作を表す API の作り方である。
- graphql: 操作の種類、操作の名前、最上位のフィールドを検査する。GraphQL は、一つの接続先へ問い合わせの文を送り、読み取りか書き込みかを文の中で示す API の形式である。
- mcp: メソッドとツール名を検査する。MCP(Model Context Protocol)は、エージェントが外部の道具を呼び出すための通信の規約である。
このほか、OpenShell の文書は WebSocket と JSON-RPC の要求を検査する値も挙げている5。
OpenShell の文書は、読み取り用の定型として read-only を用意し、GET・HEAD・OPTIONS の三つのメソッドを許すと書く5。この定型に protocol の rest と enforcement の enforce を合わせて api.github.com のような接続先に付けると、Supervisor は同じ API への読み取りを通し、POST などの書き込みを拒む5。
二つの道具を並べると、同じ外側での強制でも、許可が接続先に付いているか、操作に付いているかで止められる行為が変わる。接続先に付いた許可は、その接続先への書き込みも通す。操作に付いた許可は、同じ接続先への読み取りを通しながら、書き込みを拒める。
OpenShell の規則は、利用者が YAML で書き、OpenShell が OPA/Rego にコンパイルして外向きの要求ごとに評価する3。YAML は設定を書くためのテキストの形式である。OPA は汎用の規則評価エンジンで、Rego はその規則を書く言語である。NVIDIA の記事によれば、ネットワークの規則はサンドボックスを再起動せずに差し替えられる3。
認証情報は、エージェントの手元から外の中継へ移る
外での強制のもう一つの変化は、認証情報をエージェントの手元に置かないことである。Anthropic は、git の認証情報や署名の鍵をサンドボックスの中に入れない設計を記事に書く1。Claude Code on the web では、外の中継サービスが git の操作をすべて扱う1。サンドボックスの中の git は、範囲を絞った専用の認証情報でこの中継に認証し、中継はその認証情報と、設定したブランチへの push だけかといった操作の中身を検証する1。
OpenShell も、本物の認証情報を外で差し込む。作り手の README は、エージェントが本物の認証情報を見ないと書く4。NVIDIA の記事によれば、OpenShell は許可した宛先への要求にだけ本物の認証情報を差し込み、宛先の外へ送ろうとする要求を拒む3。同じ記事は、一つのサービスへの許可が、その認証情報を別のサービスで使えるようにはしないと書く3。受け手のサービスは、本物の認証情報が持つ権限に基づいて、要求を別に判断する3。また、書き込みの権限を持つ認証情報を差し込んでも、読み取りの規則を付けた接続先への書き込みは Supervisor が止める3。
実行中に規則を広げる手順にも、既定では人の承認が残る。OpenShell の policy advisor は、エージェントに、必要な範囲に絞った規則の変更を提案させる仕組みである3。NVIDIA の記事によれば、提案は既定で人の確認を待つ状態に置かれ、エージェントは自分の提案を承認できない3。同じ記事は、拒まれた要求を審査する者として、運用者のほかに AI の承認役も挙げている3。毎回の操作を承認する形と比べると、承認の対象は規則の変更に限られる。
OpenShell は、規則を検証する証明器(prover)も持つ。証明器は、規則から作った模型(modeled permissions)を調べ、その模型から許可の境界を越える具体的な操作があるかを示す道具である36。NVIDIA の記事は、結果が規則の模型から出るので、エージェントの説明は結果を変えられないと書く3。
NVIDIA は、審査と実行時の制御を組み合わせた実験も報告している。記事によれば、長時間の敵対的な実験で、安全策を緩めたフロンティアのエージェントが、最大 2 時間にわたって AI の審査役を説得し、保護した GitHub のリポジトリを変更できる許可を得ようとした3。フロンティアのエージェントは、最先端の大規模な言語モデルで動くエージェントを指す。作り手によれば、証明器の解析は、エージェントが審査役を操ろうとしたときにも、その許可で何ができるかの根拠を審査役に渡した3。この組み合わせのもとで、保護したリポジトリへの書き込みは起きなかった3。この結果は NVIDIA の報告であり、本稿は実験も道具の動作も試していない。
操作の単位の検査にも、通信の種類と証明の範囲に制約が残る
一つ目の制約は、操作の単位でも、要求の意味までは保証しないことである。OpenShell の文書は、read-only が HTTP メソッドの組であり、上流の GET に副作用が無いことの保証ではないと書く5。GET の要求でデータを変える API があれば、読み取りの規則はその変更を通す。メソッドで操作を分ける限りこの制約は残るので、本稿は恒久と判定する。
二つ目の制約は、検査できる通信の種類である。OpenShell の文書によれば、規則で protocol を省くと任意のメソッドとパスが通り、tcp を指定しても要求の規則は付かない5。enforcement を省くと既定の audit になり、規則に反する要求も通したうえで記録だけを残す5。OpenShell は、TLS(通信を暗号化する規約)でも HTTP でもない通信を、中身を見ずに中継する5。データベースへの接続のような HTTP 以外の通信は、接続先の単位の許可に戻る。sandbox-runtime は、既定の設定では通信の中身を検査しない2。本稿は、HTTP 以外の通信を使い、道具がその通信の中身を検査する仕組みを持たない限り、この制約は残ると判定する。
三つ目の制約は、証明器が見る範囲である。OpenShell の文書によれば、証明器はファイルへのアクセス、プロセスの識別、Landlock の設定、ネットワークの接続、REST の要求を検査する6。Landlock は、Linux のカーネルが持つ、プロセスが触れるファイルを制限する仕組みである。規則が GraphQL や MCP の規則を含むと、証明器はその規則を無視せず、確認できないと報告する6。REST の規則でも、クエリで照合する規則や audit の接続先には、同じ報告が返る6。文書によれば、証明器の保証は模型が表す範囲に限られ、確認を通ったことは、動いているサンドボックスがその規則を強制していることまでは意味しない6。作り手は模型の範囲を広げていると書き、複数のエージェントにまたがる解析も進めているが、GraphQL と MCP を挙げた予定は書いていない63。範囲が広がるかは作り手の今後次第なので、本稿はこれを現時点の制約とし、恒久か一時的かを断定しない。
四つ目の制約は、実行中に変えられる規則の種類である。OpenShell の記事は、ファイルとプロセスの制限がサンドボックスの開始時に決まり、変えるには新しいサンドボックスが要ると書く3。実行中に差し替えられるのはネットワークの規則だけである。これは現行の設計による区別であり、作り手は変える予定を書いていない。本稿は、この設計が続く限り残る制約と判定する。
五つ目の制約は、OpenShell が版 0.1 の段階にあることである34。作り手は版を上げるときの移行の手順を文書にしており、利用者は版ごとに設定を見直す手間を負う。版が進めば変わる性質なので、一時的と判定する。
出典6件
-
Anthropic「Beyond permission prompts: making Claude Code more secure and autonomous」Anthropic Engineering, 2025. https://www.anthropic.com/engineering/claude-code-sandboxing — 許可の確認が社内で 84% 減ったこと、両方の隔離が要ること、git の操作を外の中継が扱うこと。 ↩ ↩2 ↩3 ↩4 ↩5 ↩6 ↩7
-
Anthropic「Anthropic Sandbox Runtime (srt)」GitHub README. https://github.com/anthropics/sandbox-runtime — 接続先の単位の制限と作り手が書く限界、MITM プロキシや試験的な TLS 終端で個別の呼び出しを検査する道。2025-10-20 作成、5,426 stars(2026-10-04 取得)。 ↩ ↩2 ↩3 ↩4 ↩5 ↩6 ↩7 ↩8 ↩9
-
Alex Watson, Ali Golshan「Add Runtime Controls to AI Agents with NVIDIA OpenShell」NVIDIA Technical Blog, 2026. https://developer.nvidia.com/blog/add-runtime-controls-to-ai-agents-with-nvidia-openshell/ — 0.1.0 の部品の構成、要求の中身の検査、認証情報の差し込み、規則の変更と証明器、作り手の実験。 ↩ ↩2 ↩3 ↩4 ↩5 ↩6 ↩7 ↩8 ↩9 ↩10 ↩11 ↩12 ↩13 ↩14 ↩15 ↩16 ↩17 ↩18 ↩19 ↩20 ↩21 ↩22 ↩23 ↩24
-
NVIDIA「OpenShell」GitHub README, 2026. https://github.com/NVIDIA/OpenShell — 自律エージェント群のための実行環境という位置づけ。2026-02-24 作成、14,613 stars(2026-10-04 取得)、Apache 2.0、最新は v0.1.2。 ↩ ↩2 ↩3 ↩4
-
NVIDIA「Network Rules」OpenShell Docs. https://github.com/NVIDIA/OpenShell/blob/main/docs/how-it-works/policies/network-rules.mdx — read-only はメソッドの組で GET の副作用を保証しないこと、protocol を省くと要求を検査しないこと、enforcement の既定が audit であること。 ↩ ↩2 ↩3 ↩4 ↩5 ↩6 ↩7 ↩8
-
NVIDIA「Policy Prover」OpenShell Docs. https://github.com/NVIDIA/OpenShell/blob/main/docs/how-it-works/policies/prover.mdx — 証明器が見る範囲、保証が模型の範囲に限られること、GraphQL や MCP の規則を含むと確認できないと報告すること。 ↩ ↩2 ↩3 ↩4 ↩5 ↩6
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