AIエージェント
PRコメント注入で認証情報窃取、条件はActionsへの秘密付与
GitHub の コメントに文章を書くだけで AI コーディングエージェントに命令を注入し、リポジトリのシークレット(API キー・トークン)を盗める攻撃が実証された12。成立の前提は、エージェントが信頼できない投稿者の PR・Issue・コメントを引き金に GitHub Actions で動くことだ。原典はこの条件だけで「あなたのリポジトリは影響を受ける」と言い切っている——盗まれるのは、そのエージェントを動かすために管理者が置いたそのリポジトリ自身のシークレットだからだ。fork からの PR には既定でシークレットが渡らないが、それは条件の一つに過ぎない(pull_request_target のように渡す設定は実在するし、Issue やコメントを引き金にする経路にはそもそもこの既定が効かない)1。研究者らはこれを 「Comment and Control」 と呼ぶ12。対象は Claude Code Security Review(Anthropic)・Gemini CLI Action(Google)・GitHub Copilot Agent(Microsoft) の3つ。3社とも報奨金を支払ったが、技術的な緩和策の投入が確認できるのは Anthropic のみだ1。GitHub は当初「再現できない」とし、のちに「既知のアーキテクチャ上の限界」と位置づけている1。芯にあるのは、エージェントが「読んだ内容」と「実行すべき命令」を確実には区別できないという、いまのアーキテクチャの構造的な弱点だ。
何が起きるか
攻撃の全工程が GitHub の中だけで完結する——外部に指令サーバを立てる必要がない2。名前の「Comment and Control」は、外部の指令サーバで遠隔操作する command and control と重なる——ただしこの攻撃に外部の指令基盤は要らず、コメントがその役を果たす1。前提は上のとおり、信頼できない投稿者の投稿を引き金に Actions が回り、その引き金にシークレットが渡されている構成であることだ1。
- 攻撃者が、悪意ある指示を PR タイトル・Issue 本文・コメントに文章として書く。研究者いわく「タイトルが攻撃コード(the title is the payload)」。
- AI エージェントが、その GitHub の文面を信頼できる作業コンテキストとして読み込む。
- 仕込まれた命令を実行し、実行環境からシークレットを読み出す(GitHub Actions ランナー内の API キー・複数のトークン・その他あらゆる秘密)。
- 盗んだ認証情報を、GitHub の中の別の場所に書き出して外に運ぶ。出口はエージェントごとに違う。Gemini CLI Action は公開の Issue コメント、GitHub Copilot Agent は環境変数のダンプを含むファイルを載せた PR、Claude Code Security Review はボットの PR レビューコメントと Actions のログだった1。「ボットのレビューコメントが、認証情報の現れる場所の一つになる」2。
ただし GitHub Copilot Agent の経路は全自動ではない。攻撃者は Issue の HTML コメントに命令を隠し、被害者がその Issue を Copilot に割り当てた時点で動き出す——割り当てる側の画面に、隠された命令は見えない1。
つまり、エージェントに「読ませる」だけで「実行させられる」。データ(文章)と命令(すべきこと)の境界が無いためだ。
なぜ塞ぎきれないか
- Anthropic:致命的(critical・CVSS 9.4)と分類し、
psコマンドを禁じる緩和策(--disallowed-tools 'Bash(ps:*)')を投入。報奨金 100 ドル(のち社内評価を None へ降格)1。 - Google:Gemini CLI Action の報告を受理し、報奨金 1,337 ドル1。
- GitHub(Microsoft):報奨金 500 ドル。ただし当初は「既知の問題」で「再現できない」とした1。
注目すべきは、緩和策を出した Anthropic 自身が「このアクションはプロンプトインジェクションに耐えるようには設計されていない」と述べていることだ1。パッチは出るが、耐性はそもそも設計目標に入っていない。
一発のパッチで消える種類のバグではない理由は、報奨金の額ではなく実行環境の構造にある——信頼できない入力・それを処理する実行系のツール・本番のシークレットが、ひとつのランタイムに同居している1。プロンプトインジェクションは、外部入力を読んで動く LLM エージェントに構造的につきまとう。緩和はできても、根絶は難しい。
守り手はどう動くか
3社が報奨金を払ったという事実が示すのは、報告が受理され再現されたということであって、各社が構造的な欠陥だと認めたということではない32。現に Anthropic はのちに社内評価を None へ降格し、GitHub は当初「再現できない」としていた1。実務への含意ははっきりしている:
- エージェントが読むリポジトリの文面(タイトル・コメント・依存パッケージの説明文まで)は、すべて信頼できない入力として扱う。認可は LLM の判断に委ねず、下流のシステム側で強制する4。
- エージェントの実行環境に、本番のシークレットを置かない(最小権限・使い捨てトークン・サンドボックス)。最小権限は新しい発明ではなく、安全設計の古い基本原則だ——インジェクションが通っても、盗めるものを構造的に小さくしておく5。
- 「便利なエージェントに強い権限を渡す」ことのコストを、機能の魅力とは別に見積もる必要がある。
守り手にとっての要点は単純だ——エージェントに読ませる文面は、すべて「命令かもしれない」と疑う。便利さと引き換えに渡した権限の分だけ、その疑いは強くしておく。
出典5件
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一次情報(研究者本人の技術詳細)— Aonan Guan(共同研究: Zhengyu Liu・Gavin Zhong, Johns Hopkins)。対象3エージェント、PRタイトル/Issue コメント/Issue 本文の HTML コメントが payload になること、各社の CVSS・報奨金・対応の時系列(Anthropic は CVSS 9.3→9.4 critical のち 2026-04-20 に None へ降格・$100、Google $1,337、GitHub は当初 Informative→$500)を含む。原典の「Am I affected?」節は、信頼できない投稿者の PR・Issue・Issue コメントを引き金にエージェントが動くなら
you are affectedと条件を引き金の側だけで書いており、By default, GitHub Actions does not expose secrets to fork pull requests, but repositories that grant secret access to these triggers (e.g., using pull_request_target) do exist in the wildは fork PR についての二次的な注記である(pull_request_targetは原典全文で1回、この文だけ)。盗まれるのはthe host repository's own GitHub Actions secrets, configured by the project maintainers to power the agent=エージェントを動かすために置かれた当該リポジトリ自身のシークレットで、Issue やコメントを引き金にする経路には fork PR の既定がそもそも効かない。https://oddguan.com/blog/comment-and-control-prompt-injection-credential-theft-claude-code-gemini-cli-github-copilot/ ↩ ↩2 ↩3 ↩4 ↩5 ↩6 ↩7 ↩8 ↩9 ↩10 ↩11 ↩12 ↩13 ↩14 ↩15 ↩16 -
The Register, “Anthropic, Google, Microsoft paid AI bug bounties – quietly”(2026-04-15)。3社が報奨金を払った事実を報じた最初のまとめ報道(GitHub は当初「再現できない」としつつ最終的に支払い)。https://www.theregister.com/2026/04/15/claude_gemini_copilot_agents_hijacked/ ↩ ↩2 ↩3 ↩4 ↩5 ↩6
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独立報道(同一脆弱性を3エージェント横断で報道)— SecurityWeek, 2026。https://www.securityweek.com/claude-code-gemini-cli-github-copilot-agents-vulnerable-to-prompt-injection-via-comments/ ↩
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OWASP, “LLM06:2025 Excessive Agency,” OWASP Top 10 for LLM Applications. 過剰な権限・機能・自律を主要リスクに据え、被害はエージェントに与えた権限の範囲で決まると整理。処方=権限と拡張を最小化し、認可を LLM の判断でなく下流システムで強制し、高影響の操作に人間の承認を挟む——「読ませる文面を疑う」だけでなく「渡す権限を絞る」側の裏づけ。https://genai.owasp.org/llmrisk/llm062025-excessive-agency/ ↩
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J. H. Saltzer & M. D. Schroeder, “The Protection of Information in Computer Systems,” Proceedings of the IEEE, vol. 63, no. 9 (1975). 最小権限(least privilege)を安全設計の基本原則として定式化した古典。実行環境に本番シークレットを置かず使い捨てトークンに絞るのは、この原則の直接の適用——インジェクションが通っても盗めるものを構造的に小さくする。https://doi.org/10.1109/PROC.1975.9939 ↩
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