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AIエージェント

PRコメント注入で認証情報窃取、AIエージェント3種

2026/7/1 (更新: 2026/9/28)

目次
【背景】公開の作業場の投稿を引き金にエージェントが動く動かすための認証情報が実行環境に置かれている【問い】文章を書くだけで命令を注入し、鍵を持ち出せるか鍵は仕事に要り、文章を読むのも仕事だから外せない
※概念図(背景→問い):誰でも書ける文章を、鍵を握ったエージェントが読む
背景

ソフトウェアの開発は、いまでは公開の作業場で進む。不具合の報告を誰かが書き、別の誰かが修正案を投げ、その下にコメントが積み上がっていく。書き込むのに資格は要らない。通りすがりの人が書いた一行が、そのまま開発の記録に残る。誰にでも開いていることが、この仕組みの取り柄だった。

そこへ、AIエージェントが加わった。AIエージェントは、文章で書かれた指示を読み、自分でコマンドを実行してファイルを書き換えるプログラムである。投稿があると自動で起動し、修正案を読んでレビューし、報告を読んでコードを直す。人の作業を代わりにやらせるのだから、権限も要る。コードを取ってくる鍵、結果を書き戻す鍵、外部のサービスを呼ぶための認証情報。管理者はそれらを実行環境に置き、エージェントに握らせる。

こうして、誰でも書ける文章と、鍵を握ったプログラムが、同じ作業場に同居することになった。エージェントに読ませられるものは、投稿できる人の数だけある。

問い

公開の作業場に文章を書くだけで、そこで自動で動くエージェントに命令を注入し、管理者が実行環境に置いた認証情報を持ち出せるのか。

要点

文章を書くだけで持ち出せる。実証された3つのエージェントのうち、1つだけは被害者の操作を1つ経る。 公開の作業場のコメントに命令を仕込むと、エージェントは実行環境の認証情報を読み出し、盗んだものを同じ作業場の別の場所へ書き戻す12。研究者の Aonan Guan らが商用の3エージェント(Anthropic の Claude Code Security Review・Google の Gemini CLI Action・GitHub Copilot Agent)でこれを実証し、3社とも報奨金を払った12。操作を経るのは GitHub Copilot Agent で、被害者が Issue を Copilot に割り当てると動き出す。割り当てる画面には、仕込まれた命令が表示されない13。緩和はツール1つの禁止とプロンプトへの追記どまりで、この報告に対する CVE も公開アドバイザリも 2026年4月の報道時点では出ていなかった132。手当てとして、Anthropic は外部投稿のワークフローに承認を挟むよう勧め2、Google は別途、信頼していない作業フォルダの設定を読まないようにし、信頼できない入力を扱うときに使えるツールを許可リストで絞れるようにした4。影響は引き金の側だけで決まる。信頼できない投稿者の投稿(PR・Issue・コメント)を引き金にエージェントが自動で動くなら、影響を受ける。

何が起きるか

攻撃の全工程は GitHub の中だけで完結する。攻撃者は外部に指令サーバを立てる必要がない2。これを報告した Aonan Guan は、外部の指令サーバで遠隔操作する command and control と重ねて「Comment and Control」と名づけた。ただしこの攻撃に外部の指令基盤は要らず、コメントがその役を果たす1。Guan は影響の条件を引き金の側だけで書いている。信頼できない投稿者の PR・Issue・コメントを引き金にエージェントが動くなら、あなたのリポジトリは影響を受ける、という書き方である1。攻撃者が盗むのは、そのエージェントを動かすために管理者が置いたそのリポジトリ自身のシークレットだからだ1。fork からの PR には既定でシークレットが渡らない。ただし、この既定は条件の一つにとどまる。pull_request_target のように渡す設定は実在するし、Issue やコメントを引き金にする経路にはそもそもこの既定が効かない15。

  1. 攻撃者が、悪意ある指示を PR タイトル・Issue 本文・コメントに文章として書く。研究者いわく「タイトルが攻撃コード(the title is the payload)」2。
  2. AI エージェントが、その GitHub の文面を信頼できる作業コンテキストとして読み込む。
  3. 仕込まれた命令を実行し、実行環境からシークレットを読み出す(GitHub Actions ランナー内の API キー・複数のトークン・その他あらゆる秘密)。
  4. 盗んだ認証情報を、GitHub の中の別の場所に書き出して外に運ぶ。出口はエージェントごとに違う。Gemini CLI Action は公開の Issue コメント、GitHub Copilot Agent は環境変数のダンプを含むファイルを載せた PR、Claude Code Security Review はボットの PR レビューコメントと Actions のログだった1。「ボットのレビューコメントが、認証情報の現れる場所の一つになる」2。しかも攻撃者は、盗み出したあとで PR タイトルを「fix typo」のような無害な文字列に戻し、PR を閉じ、ボットのコメントを消せる2。Actions のログはさらに目に触れにくい。原典は「普通の利用者は Actions のログをめったに見ない」と書いている1。

ただし GitHub Copilot Agent の経路は全自動ではない。攻撃者は Issue の HTML コメントに命令を隠し、被害者がその Issue を Copilot に割り当てた時点で動き出す。割り当てる側の画面に、隠された命令は見えない1。

つまり、エージェントに「読ませる」だけで「実行させられる」。データ(文章)と命令(すべきこと)の境界が無いためだ。

なぜ塞ぎきれないか

各社の反応は、この問題の性質を示している12。

注目すべきは、緩和策を出した Anthropic 自身の態度だ。ドキュメントは「このアクションはプロンプトインジェクションに耐性を持たせておらず、信頼できる PR のレビューにのみ使うこと」と書く2。会社自身の説明も「耐えるように設計されてはいない」である1。対策として勧めているのは、外部コントリビュータの投稿に承認を挟むリポジトリ設定のほうだ2。パッチは出るが、耐性はそもそも設計目標に入っていない。ベンダー自身の処方は「エージェントを堅くする」ではなく「信頼できない入力を近づけない」側にある。

GitHub は Copilot Agent に、モデル・プロンプトの防御に加えて環境変数のフィルタ・シークレットスキャン・ネットワークファイアウォールという3つのランタイム層を積んでいた。研究者はその3層を全部抜けている12。一発のパッチで消える種類のバグではない理由は、報奨金の額ではなく実行環境の構造にある。信頼できない入力・それを処理する実行系のツール・本番のシークレットが、ひとつのランタイムに同居している1。外部入力を読んで動く LLM エージェントは、プロンプトインジェクションの危険を構造的に抱えている。緩和はできても、根絶は難しい。

守り手はどう動くか

3社が報奨金を払ったという事実が示すのは、報告が受理され各社が問題の存在を認めたということであって、各社がこれを直すべき構造的欠陥として引き受けたということではない32。現に Anthropic は社内評価を None へ降格しており(緩和自体は ps コマンド1つの禁止として投入されている)13、2026年4月15日の報道時点で、この報告に CVE を採番した社も、公開のアドバイザリを出した社も無かった2。研究者は「脆弱な版にピン留めしたままの利用者がいるのは確かだ」と言い、「アドバイザリが出なければ、その人たちは自分が脆弱だと——攻撃されていると——知らないままかもしれない」と続ける2。ただし Google は4月24日、同じ Gemini CLI Action について、信頼できない入力で使う場合のツール許可リストとフォルダ信頼を強める公開アドバイザリ(critical・CVSS 10.0)を出している。別の研究者の報告に対するもので Guan らの名は無く、CVE は付いていない4。実務への含意ははっきりしている:

守り手にとっての要点は単純である。エージェントに読ませる文面は、すべて「命令かもしれない」と疑う。便利さと引き換えに渡した権限の分だけ、その疑いは強くしておく。


出典7件
  1. 一次情報(研究者本人の技術詳細)— Aonan Guan(共同研究: Zhengyu Liu・Gavin Zhong, Johns Hopkins)。対象3エージェント、PRタイトル/Issue コメント/Issue 本文の HTML コメントが payload になること、各社の CVSS・報奨金・対応の時系列(Anthropic は CVSS 9.3→9.4 critical のち 2026-04-20 に None へ降格・$100、Google $1,337、GitHub は当初 Informative→$500)を含む。原典の「Am I affected?」節は、信頼できない投稿者の PR・Issue・Issue コメントを引き金にエージェントが動くなら you are affected と条件を引き金の側だけで書いており、By default, GitHub Actions does not expose secrets to fork pull requests, but repositories that grant secret access to these triggers (e.g., using pull_request_target) do exist in the wild は fork PR についての二次的な注記である(pull_request_target は原典全文で1回、この文だけ)。盗まれるのは the host repository's own GitHub Actions secrets, configured by the project maintainers to power the agent=エージェントを動かすために置かれた当該リポジトリ自身のシークレットで、Issue やコメントを引き金にする経路には fork PR の既定がそもそも効かない。https://oddguan.com/blog/comment-and-control-prompt-injection-credential-theft-claude-code-gemini-cli-github-copilot/ ↩ ↩2 ↩3 ↩4 ↩5 ↩6 ↩7 ↩8 ↩9 ↩10 ↩11 ↩12 ↩13 ↩14 ↩15 ↩16 ↩17 ↩18 ↩19 ↩20 ↩21

  2. The Register, Jessica Lyons, “Anthropic, Google, Microsoft paid AI bug bounties – quietly”(2026-04-15)。3社が報奨金を払った事実を報じた最初のまとめ報道(GitHub は当初「再現できない」としつつ最終的に支払い)。命名の帰属は Guan calls this type of prompt injection attacks "comment and control."。Anthropic のドキュメントの逐語は "This action is not hardened against prompt injection attacks and should only be used to review trusted PRs," the docs state. "We recommend configuring your repository to use the 'Require approval for all external contributors' option to ensure workflows only run after a maintainer has reviewed the PR."。開示については But none of the vendors assigned CVEs or published public advisories および Guan の "I know for sure that some of the users are pinned to a vulnerable version" / "If they don't publish an advisory, those users may never know they are vulnerable – or under attack."。https://www.theregister.com/2026/04/15/claude_gemini_copilot_agents_hijacked/ ↩ ↩2 ↩3 ↩4 ↩5 ↩6 ↩7 ↩8 ↩9 ↩10 ↩11 ↩12 ↩13 ↩14 ↩15 ↩16

  3. 独立報道(同一脆弱性を3エージェント横断で報道)— SecurityWeek, Eduard Kovacs, 2026-04-16 掲載/2026-04-21 更新。各社の緩和の中身は更新分に記録されている:Guan clarified for SecurityWeek that Google addressed the issue by adding new 'guardrail prompts' to the system prompt. However, this does not change the underlying threat model or attack scenario, because the capabilities (tools) available to the Gemini agent remain the same. / For Anthropic, the attack method still works in principle, though the specific payload would need to be updated. The company's remediation was to disallow one tool ('ps') rather than adopting a least privilege approach by granting only the tools needed for the security review. GitHub の位置づけは but classified the security issue as a known architectural limitation、3社の受理は all have confirmed them(「再現」にあたる reproduc は原典全文で0件)。https://www.securityweek.com/claude-code-gemini-cli-github-copilot-agents-vulnerable-to-prompt-injection-via-comments/ ↩ ↩2 ↩3 ↩4 ↩5 ↩6 ↩7 ↩8

  4. GitHub Security Advisory GHSA-wpqr-6v78-jr5g, “Update to Gemini CLI and run-gemini-cli Trust Model”(google-github-actions/run-gemini-cli・2026-04-24 公開)。severity critical・CVSS 3.1 10.0・CVE 無し(cve_id: null)。対象は run-gemini-cli 0.1.22 未満と @google/gemini-cli 0.39.1 未満。逐語は harden workspace trust and tool allowlisting, in particular when used in untrusted environments like GitHub Actions および this could lead to remote code execution via prompt injection、This affects all Gemini CLI GitHub Actions.。謝辞は Elad Meged, Novee Security と Dan Lisichkin, Pillar Security research team で、Guan らの報告は引かれていない。本稿が扱う経路そのものへのアドバイザリではなく、同じアクション・同じ引き金(信頼できない Issue を処理する CI)・同じ攻撃類(プロンプトインジェクション経由のコード実行)への公開対応として引く。https://github.com/google-github-actions/run-gemini-cli/security/advisories/GHSA-wpqr-6v78-jr5g ↩ ↩2

  5. GitHub Docs, “Approving workflow runs from forks” および同 docs のリポジトリ設定ページ “Managing GitHub Actions settings for a repository”。照合は docs の原文(github/docs リポジトリの content Markdown と reusable)と描画ページの両方に対して行った。前者の逐語は Workflow runs triggered by a contributor's pull request from a fork may require manual approval from a maintainer with write access.。設定の選択肢は後者に在り、Require approval for all external contributors の定義は All users that are not a member or owner of this repository and not a member of the organization will require approval to run workflows。Anthropic の README も同じ語でこの設定ページへリンクしている。同じページは pull_request_target について Workflows triggered by pull_request_target events are run in the context of the base branch. Since the base branch is considered trusted, workflows triggered by these events will always run, regardless of approval settings. と書き、fork のワークフローは workflows from forks do not have access to sensitive data such as secrets、承認ポリシーの目的は intended to restrict the set of users that can execute workflows in GitHub Actions runners that could lead to unexpected resource and compute consumption と断っている。∴ 承認は fork からの PR で走るワークフローに閉じており、issues / issue_comment を引き金にするワークフローは対象外で、シークレットを渡す pull_request_target には掛からない。 https://docs.github.com/en/repositories/managing-your-repositorys-settings-and-features/enabling-features-for-your-repository/managing-github-actions-settings-for-a-repository https://docs.github.com/en/actions/how-tos/manage-workflow-runs/approve-runs-from-forks ↩ ↩2 ↩3 ↩4

  6. OWASP, “LLM06:2025 Excessive Agency,” OWASP Top 10 for LLM Applications. 過剰な権限・機能・自律を主要リスクに据え、被害はエージェントに与えた権限の範囲で決まると整理。処方=権限と拡張を最小化し、認可を LLM の判断でなく下流システムで強制し、高影響の操作に人間の承認を挟む。これは「読ませる文面を疑う」だけでなく「渡す権限を絞る」側の裏づけである。https://genai.owasp.org/llmrisk/llm062025-excessive-agency/ ↩

  7. J. H. Saltzer & M. D. Schroeder, “The Protection of Information in Computer Systems,” Proceedings of the IEEE, vol. 63, no. 9 (1975). 最小権限(least privilege)を安全設計の基本原則として定式化した古典。実行環境に本番シークレットを置かず使い捨てトークンに絞るのは、この原則の直接の適用である。インジェクションが通っても盗めるものを構造的に小さくする。https://doi.org/10.1109/PROC.1975.9939 ↩

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