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AIの内部を読む研究——特徴へほどけるが実務にはまだ遠い

2026/7/27 (更新: 2026/9/6)

目次
【背景】モデルの中は「読めない数の海」だったSAEでほどくと名前を付けられる特徴が出る【問い】では「読める」は「使える」なのか効くかを操作で確かめ、届かない範囲を測る
※概念図(背景→問い):大規模モデルの内部を、人間が読める単位へほどく研究
背景

大規模言語モデルは、文章を書き、コードを直し、判断の下書きを作るところまで実務に入ってきた。それでも「なぜそう答えたのか」は外から見えない。手元にあるのは入力と出力の対だけで、その間で何が起きたかを指す言葉が無い。動いているのは膨大な数値であって、人間が使う概念の名前が中に並んでいるわけではないからだ。使う側から見れば、これは学問上の関心にとどまらない。中が見えないままだと、直せるのは入口(指示の書き方)と出口(後段の検査)だけで、原因そのものには手が届かない。そこで、この内側を人間が名前を付けられる単位へほどけないか、という研究が数年来続いてきた。ほどけて読めるようになれば、失敗の原因を中から辿ったり、望まない振る舞いを名指しで抑えたりできるかもしれない——実務の道具として期待されているのは、そこである。

問い

内部を「読める」ようにする研究は、どこまで届いたのか。そして、そこで読めたものは「使える」——実務の道具になる——と言えるのか。

要点

「読める」は、人間が名前を付けられる特徴(feature)が取り出せ、そのつまみで振る舞いまで動かせる段階にはある——ただし取り出せる範囲はモデルが持つ概念のごく一部にとどまり、それが「使える」かはまだ示されていない。 取り出しに使うのはスパースオートエンコーダ(SAE)で、この路線は Anthropic・OpenAI・Google DeepMind が独立に走っており、一社の主張ではない。金門橋の特徴を強めたモデルが一般に公開されたように、効くこと自体は実演済みである。届いていないのは下流だ——SAE の特徴を下流の分類課題にかけて使い勝手を採点した測定は、どの条件でも、データセット平均では既存の単純な手法を下回った。この結果を出したのは SAE を推し進めてきた側の研究者を含むチームで、その研究者が所属する DeepMind も、当面この手法の基礎研究を後回しにすると公表した——撤退という意味ではない。

何が起きているか

モデルの中の一つのニューロンは、しばしば多義的である——無関係な複数の概念に同時に反応するので、単体では意味を読み取れない。ここにスパースオートエンコーダ(SAE)という仕組みをかけると、重なり合った信号が「一つの特徴=一つの意味」に近い形へほどける。この「一つの素子が一つの意味だけに対応する」状態を単一意味性(monosemanticity)と呼ぶ。Anthropic は 2024 年、これを実際の製品モデル(Claude 3 Sonnet)の中間層で行い、取り出す特徴の枠を100万・400万・3400万と変えた3つの SAE を学習させた。ただし枠が3400万の SAE でも、実際に反応する(生きている)特徴は約1200万だった——同社は訓練手順の改善でこの死んだ特徴を今後減らせると見込んでいる1。同じ路線は一つの研究室にとどまらない。OpenAI は独自の手法で GPT-4 に1,600万規模の特徴を学習させた——ただし同社自身、見つかった特徴のランダムな活性のかなりの割合が、とくに GPT-4 ではまだ十分に単一意味的ではないと限界に挙げている2。Google DeepMind は Gemma 2 向けの SAE 一式「Gemma Scope」を公開した3。別々のチームが独立に同じ「特徴へほどく」路線を走った——一社だけの主張ではない。ただし足並みはその後そろわなくなった。Gemma Scope を出した DeepMind の解釈可能性チームは2025年3月、下流タスクでの否定的な結果を挙げて「当面はSAEの基礎研究の優先度を下げ、別の方向を探っている。とはいえ SAE は今後も道具箱に残る」と表明している4。撤退ではなく、優先度の引き下げである。

目を引くのは、特徴が読めるだけでなく、効くと報告されている点だ。Anthropic によれば、ある特徴の活性を最大値の10倍といった水準へ人為的に固定(クランプ)すると、モデルの出力自体がその概念に引きずられる——金門橋の特徴でこれを行うと、モデルは自分自身を金門橋だと名乗り始めたという1。一般公開された実演が “Golden Gate Claude”(2024年5月)で、同社は「ほとんどの問いへの返答が、直接関係のない場面でも金門橋に触れるようになる」と書いている5。中を読むだけでなく、つまみを回すところまで届いた、という意味で新しい。

さらに 2025 年、Anthropic は個々の特徴を「読む」段階から一歩進んだ。特徴どうしのつながりを帰属グラフ(attribution graph)として描き、モデルが入力から出力へ至る途中の計算の連鎖を辿ろうとした——クロス層トランスコーダを使い、Claude 3.5 Haiku を対象にした「回路追跡(circuit tracing)」の試みである6。特徴という「部品」を一つずつ眺める段階から、それらが組み合わさって働く「回路」を追う段階へ——読める対象が、静的な一枚から動く筋道へと広がりつつある。ただしこれも査読を経ていない同社の技術レポートである。同社自身、帰属グラフから満足のいく洞察が得られたのは試したプロンプトのおよそ4分の1だとし、取り上げた例は成功例に偏った標本だと断っている。しかも「成功した事例研究においてさえ、取り上げた発見はモデルの機構のごく一部しか捉えていない」とも書いている6

どこまで言えるか——正直な留保

留保がいくつかある。

実務で何が変わりうるか

もしこの線が伸びれば、「モデルがなぜそう答えたか」を内部の特徴から辿り、特定の振る舞いを外科的に抑える/強める——といった、いまはできない操作が現実味を帯びる。エージェントを運用する側にとっては、ブラックボックスに検査口が付くかどうかの話だ。まだ「かもしれない」の段階だが、追いかける価値のある芽である。


出典9件
  1. Anthropic (Transformer Circuits), “Scaling Monosemanticity: Extracting Interpretable Features from Claude 3 Sonnet”(2024)。Claude 3 Sonnet(同社の中規模の製品モデル)の中間層残差ストリームに対し、特徴数 1,048,576(約100万)・4,194,304(約400万)・33,554,432(約3400万)の3つの SAE を学習させたと報告する。ただし枠に対する dead feature の比率は 1M で約2%、4M で約35%、3400万で約65%——3400万の SAE で生きている特徴は約1200万(原典が明記しているのは dead 比率で、1200万はそこからの導出値)。同社は訓練手順の改善で dead feature は今後減らせると見込むとも書いている。特徴の因果性については、金門橋の特徴(34M/31164353)を最大活性の10倍にクランプすると、モデルが自分を金門橋だと名乗り出す例を挙げている。査読を経た論文ではなく同社の技術レポートであり、外部の独立再現は本稿執筆時点で未確認。https://transformer-circuits.pub/2024/scaling-monosemanticity/ 2

  2. OpenAI, Leo Gao ほか, “Scaling and evaluating sparse autoencoders”(2024, arXiv:2406.04093)。SAE を大規模・低デッド率で学習する手法を示し、スパース性・SAE サイズ・モデルサイズのスケーリングを検証。GPT-4 の活性から1,600万規模の特徴(latent)を学習したと報告する。ただし限界として「見つかった特徴のランダムな活性のかなりの割合は、とくに GPT-4 では、まだ十分に単一意味的ではない」と明記する。同社は同じ項目の次の一文で「技術の改善と規模の拡大で克服しうると考える」とも書いている(We believe that with improved techniques and greater scale this is potentially surmountable)。ICLR 2025 に採択済み(OpenReview: tcsZt9ZNKD)。https://arxiv.org/abs/2406.04093

  3. Tom Lieberum ほか(Google DeepMind), “Gemma Scope: Open Sparse Autoencoders Everywhere All At Once on Gemma 2”(2024, arXiv:2408.05147, BlackboxNLP)。Gemma 2(2B/9B の全層・サブ層ほか)向けの JumpReLU SAE 一式を一般公開し、解釈可能性研究の高い学習コストを下げることを狙ったもの(一式の公開自体は検証可能)。論文自体が BlackboxNLP 2024(ACL ワークショップ)に採録済み(ACL Anthology: 2024.blackboxnlp-1.19)。https://arxiv.org/abs/2408.05147

  4. Lewis Smith, Sen Rajamanoharan, Arthur Conmy, Callum McDougall, Janos Kramar, Tom Lieberum, Rohin Shah, Neel Nanda(Google DeepMind 解釈可能性チーム), “Negative Results for Sparse Autoencoders On Downstream Tasks and Deprioritising SAE Research”(2025-03-26、チームの進捗報告)。有害な意図の検出という下流タスク(未知のジェイルブレイクを分布外の集合とする一般化)で、SAE プローブが密な線形プローブを下回ったという否定的結果を挙げる——密な線形プローブは分布外でもほぼ完璧で、チャットデータ向けに学習し直した SAE でも差の約半分しか埋まらなかった。そのうえで「当面はSAEの基礎研究の優先度を下げ、別の方向を探っている」と述べる。ただし同じ文で「SAE は今後も道具箱に残る」と続け、「SAE が無用だとも、誰も取り組むべきでないとも考えていない」「SAE を諦めると約束するものではない」と繰り返し明記している。低品質なデータセットのデバッグ(見せかけ相関への気づき)には有用だった、という肯定的結果も併せて報告している。もっとも同じ段落のうちに「もっと時間をかければ SAE 無しでも見つけられただろう」と自ら割り引いている。その根拠として挙げているのは、本稿が別に引く Kantamneni らが「より単純な手法でも同程度に効く」と示したことである(however, we think we plausibly could have found the spurious correlations without SAEs given more time, e.g. Kantamneni et al showed simpler methods could be similarly effective to SAEs here)。査読を経ていない。https://deepmindsafetyresearch.medium.com/negative-results-for-sparse-autoencoders-on-downstream-tasks-and-deprioritising-sae-research-6cadcfc125b9

  5. Anthropic, “Golden Gate Claude”(2024-05-23)。金門橋の特徴を強めた状態のモデルを一時的に一般公開したデモの告知。「ほとんどの問いへの返答が、直接関係のない場面でも金門橋に触れるようになる(Its replies to most queries start to mention the Golden Gate Bridge, even if it’s not directly relevant)」と記す(=すべての応答が橋の話になる、とは述べていない)。https://www.anthropic.com/news/golden-gate-claude

  6. Anthropic (Transformer Circuits), “On the Biology of a Large Language Model” および技術編 “Circuit Tracing: Revealing Computational Graphs in Language Models”(2025)。クロス層トランスコーダ(cross-layer transcoder)で特徴どうしのつながりを帰属グラフ(attribution graph)として描き、Claude 3.5 Haiku が入力から出力へ至る途中の計算を辿った=個々の特徴を読む段階から、特徴が組み合わさる「回路」を辿る段階への拡張。同レポートは限界も明記しており、「正確に定量するのは難しいが、帰属グラフが満足のいく洞察を与えてくれたのは、試したプロンプトのおよそ4分の1だった」「取り上げた例は成功例」であり、「ツールの限界に形づくられた偏った標本であることは疑いない」とし、さらに「成功した事例研究においてさえ、取り上げた発見はモデルの機構のごく一部しか捉えていない」と書いている。ただし、関心を引く事例を見つけたあとに追試の検証実験で確かめるようにしているとも付記する。査読を経た論文ではなく同社の技術レポートで、示されるのは事例研究にとどまる。https://transformer-circuits.pub/2025/attribution-graphs/biology.html 2

  7. Anthropic, “Mapping the mind of a large language model”(2024-05-21、上記レポートの解説記事)。「見つかった特徴は、モデルが学習した概念全体のごく一部にすぎず、現在の手法で全特徴を得ようとするのは費用的に成立しない(必要な計算量は、そのモデルの学習に使った計算量をはるかに超える)」と明記する。ロンドンの自治区の例(3400万規模の SAE で対応する特徴が見つかったのは約6割)は上記 Scaling Monosemanticity 本体の記述で、同レポートはこの結果を「モデルには見つかった以上の特徴があり、より大きな SAE なら取り出せるかもしれない」ことの徴候だとしている。いずれも同社の技術レポート/解説であり査読を経ていない。https://www.anthropic.com/news/mapping-mind-language-model

  8. 同レポートの特異性(specificity)の節。強い活性は「ほぼすべてが金門橋への言及」である一方、活性が弱まるほど特異性は落ち、近縁の観光名所・似た橋・記念建造物にも反応するとする。同社は「弱い活性でも解釈への特異性はある程度保たれることが多い」とも述べている。特異性は Claude 3 Opus による0〜3のルーブリック採点(0=文脈全体で無関係)にかけられ、活性水準ごとの得点頻度が図で示されるが、活性の何割が名前と無関係かを数値で述べた記述は本文にはない——本稿もその範囲でのみ書いている。https://transformer-circuits.pub/2024/scaling-monosemanticity/ 2

  9. Subhash Kantamneni, Joshua Engels, Senthooran Rajamanoharan, Max Tegmark, Neel Nanda, “Are Sparse Autoencoders Useful? A Case Study in Sparse Probing”(2025, arXiv:2502.16681, 2025-02-23公開)。SAE が抽出した特徴を下流のスパース・プロービングで評価した。検証したのは「データ希少・クラス不均衡・ラベルノイズ・共変量シフト」の4条件(概念の検出が難しく、解釈可能な概念レベルの基底が帰納バイアスとして効くはず、という仮説を置いた設定)。図1は「SAE プローブは、データセット平均を取るとどの条件でも、基線であるロジスティック回帰を下回る」と述べる(SAE probes underperform the baseline of logistic regression in each regime when taking the mean across datasets)。抄録が言う「基線と組み合わせて安定して上回るアンサンブルは設計できなかった」は、これとは別の、より弱い主張である。個々のデータセットで SAE が勝つことはあり、SAE の利点とされた検出(見せかけ相関・データ品質・多トークン probe)はより単純な非SAE手法で再現できたという。著者らは同時に「他のタスクにおける SAE の有用性を割り引くことはできない(we cannot discount SAEs’ utility on other tasks)」とも明記しており、SAE 一般の否定ではない。共著者の Senthooran Rajamanoharan・Neel Nanda は Gemma Scope の著者でもあり、SAE を推進した側から出た慎重論という点で重い。ICML 2025(第42回国際機械学習会議)本会議に採択され、PMLR 267:29018–29049 として刊行済み。https://arxiv.org/abs/2502.16681

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